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初夜……?

悟は落ち着かない様子で私を待っていた。私は桧扇をパタンと畳むと、話を切り出した。

「……で、本日はどういったご用件でしょうか?」

桃が代弁する。

悟は少しの間、何かを考えていたが、

「姫様は、以前に俺を悟だと呼んだことがあったでしょう?」

と切り出した。

「あったが、それが何事か?」

「いえ……姫様は夢をご覧になりますか?」

「夢……見るには見るが。」

「その夢に今と違う自分がいたりするということはありませんか?」

桃が返答しようとするのを遮って私は答える。

「例えば――どんな?」

「自分が今と違う、未来人だという夢です。」

私は桧扇を落とす。

「それは――」

夢ではなく現実です、と言いかけてやめた。信じてもらえそうにないからだ。

「それは――私も見ます。」

そう答えるので精一杯だった。

「自分は、その――夢の中でも姫様と幼なじみでして――」

悟は唾を飲んで続けた。

「何やら恋人のような――そのような夢を見るのです。」

我慢が出来なくなった。

「それは、現実です。」

私はそう言うと桧扇を手に取った。

「現実――と言いますと?」

「私たちは未来の世界からやって来たのです。」

「またまた、ご冗談がすぎますよ。」

自分から振っておいてそういってごまかそうとする悟。

私は御簾をあげ、悟の姿を見た。悟も私の姿を見た。そしてわかりあってしまった。

それが現実だということ。

私の想いも、悟の想いも、全て。


「――俺はまた夢を見ているんだろうか?」

「いいえ、現実です。」

「どこからが現実でどこからが夢の中なのかわからなくなりました。」

「全てが現実です!」

私はそう叫ぶと、悟の側へ身をなげかけた。

悟はそんな私を抱き抱えながら言った。

「今宵、またお邪魔してもよいか?」

私はええ、と答えて頷いた。





その夜は大変静かな夜だった。

桃が髪をすいてくれる。私はここぞとばかりにお洒落をして、香油を体に馴染ませた。

そして深夜、牛車の到着を待った。



ところが、悟は来なかった。



私は気持ちを踏みにじられた。

どうして来なかったの、悟……


悟から文が届いた。なにやら、あの日は百合のところへ用事で行っていたらしい。ところが、百合は体調が悪く、一緒にいてくれ、と言うので朝までそのまま話し込んでしまったらしい。私に文を書こうと思ったが、生憎百合も墨をきらしており、文を書けなかった、と言う。


どこまで信じればいいのか、わからなくなってしまった。

昨日、目があったときには完全にわかりあえた、と思ったのに……



それからしばらくは、方角が悪いとのことで、悟はやって来なかった。

文だけはきちんとやり取りをする。

これじゃ逆戻りだよ……


方がえを理由にまたしても百合のところへ行く悟。そんなことするなら、方がえしてでもうちに来てくれたらいいのに。

私は嫉妬で狂いそうだった。





またしても夢を見た。今度の夢は百合姫も出てきた。

一緒に歌を歌いに来たようだ。狭い部屋の中で歌を歌う。これはこの世界では当然の遊びのようだった。綾は熱心に手拍子を打ってくれる。

百合姫は、じっと歌を聞いているようだった。

部屋の中にはもう一人男がいたが、知らない男である。

綾は向日葵の様に笑うと、俺に続いて歌い始めた。

歌うって、こんなに気持ちいいものなんだ!!

俺は綾を見る。綾も俺を見る。最高のひとときだった。

百合姫を見るまでは。


百合姫は歌わずに手拍子もなく、退屈そうに見えた。時折、あの男と会話を交わしていたが、それ以外はなにもしなかった。

ただ、俺の目からは百合姫は綾を憎むような目で見つめているように見えた。

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