ご機嫌伺い
悟はそれからも頻繁に出入りするようになった。お兄様のおかげである。
ただ、私のところへ機嫌伺いに来るのだが、その時がめちゃくちゃ冷たい。そんなんなら挨拶に来なくていいよ!というくらい冷たい。私は桃がいなければ発狂したであろうほどに冷たい。
やっぱり無理矢理文のやり取りをしているせいだろうか。それなら文をやり取りするのを止めればいいのだが、文では結構お熱い感じなのだ。余計におかしい。
桃に相談してみたが、これという決め手がなく、そのままにしている。
そこで、次にご機嫌伺いに来た時に、文のやり取りをやめるかどうか聞いてみることにした。
◇
頭が痛い。ひどい吐き気と頭痛。風邪でもひいたんだろうか。
俺は今日の出仕の後に、成明のところへ出向こうと思っていたが、こんな体調じゃ蹴鞠どころか、話すこともままならない。これは一旦帰って様子を見るか……
と思っていたところ、有名人に出くわした。
安倍晴明だ。
晴明は俺を見ると、
「ほほう……」
と言った。
「な、何ですか?!」
「いや、お主変わった相をしておるなと。」
「変わった相?」
「現代人にあらぬ相をしておる。」
「なっ……失礼な!!なんということを申すのだ!現代人でなければなんだというのだ?」
「例えば、未来人……とか?」
晴明はさらに続けた。
「それ以上のことは無料では申せぬな」
はっはっは、と笑うと晴明は宮中へ消えていった。
なんだっていうんだ、失礼な……
俺は帰るなり布団を敷いて横になった。いくぶんか、気分が悪いのも治まる気がする。そして俺はそのまま、眠りに落ちた。
「悟!悟ってば!待ってよ!」
「綾か。相変わらずうるさいな。」
「悟くんが置いていくからでしょ!?」
悟……あぁ、俺のことか。綾……懐かしいな……
「悟くんはいつでも勝手なんだから!」
綾、相変わらず怒ってるのか、フフ。
俺から見た綾はいつも怒ってばかりの膨れっ面だ。そんなところも可愛いんだけど、俺は綾の笑顔が一番好きだった。綾の笑顔は向日葵のように周りを包み込んでくれる。そう、綾は向日葵だ。
俺はいつでも綾に邪険に振る舞ってきた。それでも綾は俺の後ろについてきてくれた。
そう、俺にとって、綾は――――
そこで目が覚めた。なんだったんだ?今の夢は?綾姫が俺の子とを悟って呼んで、そして俺は――
いや、先程の陰陽師がいらぬことを言ったせいであろう。忘れよう。
忘れようと思えば思うほど忘れられないのはなぜだろう。
◇
今日は曇り。私の心の中みたい。
悟はしばらく来ていないし、なんだか退屈。
桃が、
「姫様、州浜づくりでもなさいますか?」
と聞いてきた。
退屈だし、それもいいかな、と思ってつくることにした。
州浜づくりとは、砂浜をイメージした箱庭あそびのようなもので、貝や石を飾って砂浜を作り上げる遊びだ。
私はまず砂を三段にして、石と貝を設置した。この、砂を三段にするところが苦労した。砂浜で波が押し寄せた後のイメージだ。枯れ木も置いてみたりして、流木のつもり。
あまりに出来映えがよかったので、お兄様にあげることにした。
お兄様はちょうど出仕から帰って来られていたところで、私の作品を大変褒めて下さったそう。
私は大満足でもう一つ作り上げた。
これも思いの外よくできたので、部屋にかざることにした。
悟からの文は途絶えることはなかった。いつでも丁寧に返事をくれていたし、私も丁寧に返事をした。
十月の風が吹くある日、悟が私に用事だと言って来訪した。
私は再び十二単を着せられて、悟を出迎えた。