桃
わたくし、桃と申します。綾姫様の側近をさせていただいています。
綾姫とは幼い頃からのお付き合いで、私の親が綾姫様のお屋敷に奉公に出ているため、幼い頃からご一緒させていただいています。
幼い頃から姫様は活発でいらっしゃって、兄ぎみや彰悟様と蹴鞠をしたり、雀小弓をなさったり、打毬をなさったりしておいででした。
私は幼い頃は病弱で臆病者でもあり、そんな姫様を羨ましく思ったりもしたものです。
姫様とは雛遊びなどでよくお供しました。姫様は活発でいらしたので、毎回のように雛を壊してしまい、そのたびに雛に泣きながら、ごめんね、と謝っておいででした。
私はそんな姫様の優しいお心を拝見していて、いつかこの方にお仕えしたい、そう思っておりました。
そうこうしているうちに、思春期になり、私は成人しました。
通ってくる異性も数人いらっしゃいましたが、どの方も北の方をお持ちでいらっしゃって、念願成就、とはいきませんでした。
そんな折に降って湧いたように、綾姫付きの女房を募集しているという話。
私は迷わずその道を選びました。
成人された綾姫様はとてもお美しく、ご聡明でいらして、
「桃、これからよろしゅうおたの申します」
と言われたときなど、小躍りしそうなくらい喜びました。
それから数年。綾姫様はますますお美しさに磨きがかかり、まるで夜を照らす満月の様でした。
しかし、なぜか殿方がお寄りになられない。
なぜだろうと周りを当たってみるが、特に問題も異常もないご様子。
姫様もあまりそのことをお気になさるわけでもなかったので、そのまま数年を過ごすことになりました。
そして数年後に気づいたことが。
兄ぎみである成明様ののご影響では?と。
成明様は大変な美男子であり、また官位もよく、スポーツもできて勉強もできる。完璧すぎる男性です。そのお側にいらっしゃるので、綾姫様にお声がけする殿方がいらっしゃらないのでは……?
そんな折、綾姫様がお目覚めになってすぐのこと。
「綾様、お起きになられましたか?」
と問うと
「はい、起きました。」
とおっしゃる。何か様子がおかしい。そう思って御簾をあげると腰を抜かしてしまった。
髪の毛が、ない。尼でもこの短さはない。
私はパニックしかかったが、当の姫様はケロリとなさっている。
「早よう、陰陽師を!!」
と叫びながら私は綾姫様のお側へ駆け寄った。
陰陽師はやって来ました。
屋敷に入るなり、
「禍々しい気配がする!」
と言い出し、すぐに祓いの準備をしました。
祓いが終わって、陰陽師は御簾をあげて姫様のところへ入って来ると、何かを確認するかのように頷いて
「綾様、これで禍々しい気は晴れましたぞ。」
と言いましたが、姫様の御髪だけはどうにもできぬとのこと。
私は泣いた。泣きもせずにいられなかったのです。
姫様のあの見事な御髪が、このような羽目に遭うとは……
それからしばらく、姫様の行動が何やらおかしかったのです。邪気に当てられたのだろうと、皆気にしないようにと努めておりました。
ですが、私はそういう訳には参りません。
姫様に確認すると、どうやら以前の記憶をなくされているご様子。
お可哀想に、姫様……
そうこうしているうちに、私は姫様から飛んでもない秘密を明かされました。
姫様は以前の姫様ではなく、未来から来た別人とのこと。
しかし、私は動じませんでした。
なぜなら、実の姉の仕える姫ぎみが、未来から来たと言う話を聞いていたからです。
私は、いつでも姫様の味方でおる所存でございます。
姫様あっての、私なのですから。