洗髪
今日は洗髪の日だ。
洗髪にはとても時間がかかるので、朝から準備が大変だ。主に女官の。
冬になると寒くて洗髪どころじゃなくなるので、今のうちに、という魂胆だ。
私の場合、もとの髪の毛は湯殿で流してさっぱりしているが、カツラの方を手入れせねばならない。
長い長い髪をほどいて、ゆするなるお水で軽く洗っていく。ちなみに普段使っている整髪料もゆする。これは米の磨ぎ汁だ。あとは大豆の粉やらでもんで、さらにゆするで洗い整える。
そして乾くまで放置……この間何もできなくなるため、先に写経用の準備をしておいた。私って賢い!
しかし、数時間同じ体勢でいるとさすがに疲れてくる。写経以外のことがしたい。
桃に言いつけて琴を持ってきてもらった。
これでしばらくは持つはずだ。
そうこうしているうちに、髪が乾いたらしく、椿油で仕上げに髪を解かれた。この油、微妙にすきじゃないんだよね……触るとべたつくし、塗らなくてもいいんじゃない?と言ったら、コンディショナーみたいなものですから、とたしなめられた。
ともかく髪を洗うのは大変だ。一日がかりの大仕事だ。
私の地毛もずいぶんのびてきて、襟足を小さく結べる程度にはなってきた。まだまだ伸ばさなきゃだけどね。
百合は地毛だろう。元々真っ直ぐで黒くて艶のある超ロングだったからね。
百合……どうしてあんなに変わっちゃったんだろう……
洗髪はあと一、二ヶ月でできなくなるだろう。その前にしっかりと洗っておかねば。
そういえば、先日桃と風呂に入った。桃と、というか、桃は私の背中を流すためにはいってきたんだけどね。
薬草の蒸し風呂で、いいにおいが充満していた。
桃の背中を流してあげると言ったら、桃がめっそうもない!とめちゃくちゃ遠慮していたが、私の命令が聞けないのか!とここぞとばかりに権力を振りかざして、流すことに成功した。
風呂あがりは薬草のいいにおいで充分まんぞくだった。前世でいうアロマテラピーみたいなものかな?
そのまま着替えると、桃がマッサージをしてくれた。なんという極楽。
平安時代は以外と不潔である。私は湯殿で必ず体を洗ってしかねないが、二日三日どころか一週間体を流さないことがよくあるらしい。信じられない。
私は洗髪も、週に一回、欠かさずにしたが、月に一回すればよいほうであるらしい。
おかげで、私のあだ名は潔癖姫になりそうだが。
◇
あれから文のやり取りはまだきちんと続いていた。几帳面な悟のことだ、文をもらったら返事を書くのが当然のようになっているようだ。
吉嗣とも文のやり取りは続いている。
時折顔を見にやって来る。顔を見ると言っても御簾越しだが、吉嗣はそれでも構わないと言う。
優しい性格なのだろう、
毎回文に私を気遣う文章が書いてある。
私がある商人の扱っている香が好きだと書いたら、わざわざその商人を探して香の詰め合わせを送ってくれたりする。
通いの姫ぎみが他にいないという訳ではなさそうだが、私を北の方に……とは思っているようだ。
一方、悟との仲は友達の域を越えていなかった。季節に合わせて香を焚き染めたりしている手紙も、わかってるのかわかっていないのか、のらりくらりと交わしていく。
もしかして、やっぱり私に気がないんじゃ……?
いや、そんなことは考えずにいよう。
でも、気がないのにどんどん押すのも迷惑か……
だよね……
唄には
「あなたと一緒にこの景色をみたいものだ」
とか何とか書いてくるけど、実際に顔を合わせても会話がなく終わる。
どうしたら悟に気になってもらえるのかな?
私は最近そればかりを気にするようになってしまった。