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想い人

悟との文はまだまだ続く。

時折和歌を混ぜつつ……

私は和歌は嫌いではない。書く側でなければ、の話だが。書く側につくとどうしても想像力に欠ける直接的な文となってしまう。もっと、こう、捻りというか、例えを上手く使えたらいいのだが。


蹴鞠大納言の話をしたら、

「それは名誉なことだね(笑)」

と返ってきた。そう呼ばれていることは知らなかったらしい。

ふざけて次の文からは「蹴鞠大納言様」と書くようにした。うざいか?


お兄様から、

「彰悟と文のやり取りをしていると聞いたが?」

と尋ねられ、隠したかったのだけれど、隠し通せず白状した。

お兄様は、

「いいことだが、他の男性にも目を向けるように。」

と注意した。

他の男性……吉嗣か?


私は晴明の言う運命の人というのが悟だと信じて疑わなかった。だって、まさかお兄様が運命の人だなんて思えないし。


蹴鞠大納言はそれからもちょくちょく遊びに来た。主にお兄様と蹴鞠をしに。

時折私のところへ挨拶などで来たが、文でやり取りをしているわりには少しよそよそしい感じだった。


そんな折、悟が百合のところへ出入りしていると噂が流れてきた。

百合のところは女所帯だ。ということは、百合のところへ通っているのか。


百合は悟のことをよく知っているはずだった。私が一生懸命に話をして聞かせていたし、数回だが、一緒に遊んだこともある。


悩んでいても仕方ないので、百合に文を送った。


しばらくして、百合からの文が返ってきた。

やはり百合のところへ通っているようだ。

私は、

「あれは悟なの!返して……」

と情けない文を送った。

すると百合からは

「ご自分の力でなんとかなさいな」

という冷たい文章が届いた。


私は悩みに悩んだ。直接聞いてもいいのだが、そうだったときの覚悟ができない。それに、直接そんなことを聞くなんて、はしたないとまた桃に怒られそうだ。

でも、このままでいたら、悟は百合のものになっちゃう。


悩んで、悩み抜いた結果、お兄様に聞くことにした。

お兄様は、

「なんだって人の恋路の邪魔をしなきゃならないんだ?」

と言いつつ、綾の頼みなら断れぬと、私のために尋ねてくれることになった。


「百合姫のことか、あぁ。」

と悟は言った。

「あそこは女所帯で難儀をしているだろうから、何か用事があれば頼んでくれと言ってあるのだ。」

「通いの姫ぎみというのは……?」

「あぁ、それは周りが勝手に囃し立てているだけさ。何にも関係は持っていない。」

わざわざ私の部屋の前で話してくれるお兄様。綾はお兄様の妹で幸いです。

「では、他に意中の姫ぎみなどは……」

そう聞くと、悟は蹴鞠を手にとって言った。

「……いるにはいる……」

呟くようにそう言った。

私は一句も聞き逃すまいと御簾にびったり張り付いていたので、そのセリフにびくっとした時に、御簾の音をたててしまった。

「……桃が通ったのだろう。」

ナイスフォロー、お兄様。

「それならいいんだが。」

とため息をつくと、

「今日は何でそんなに質問攻めなんだ?」

と聞いてきた。

「いや、噂の百合姫とはどのような姫かなと思ってな。聞けば、絶世の美女らしいではないか。」

悟はさらにため息をつくと、

「それなら自分で確かめに行ったらどうだ?俺は百合姫なんて興味はないけどな。」

「興味がないのに助けているのか?」

「母方の親戚なんでね。」

と言うと、また蹴鞠を始めた。

私は心の底から安堵した。


だがしかし、なんで百合は通っているなんて嘘をついたんだろう?

それに……想い人がいると言っていた。あれは誰のことなんだろう……

私の心は休まらなかった。

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