来客
吉嗣の文に文を返すときに今日は珍しく香を焚き染めた。
このくらいならしてやってもいいじゃないか。
今日は絵合わせの遊びをする。絵と絵を合わせて物語を作り出す遊びだ。
遊ぶことが仕事な私たちにとっては外せないお遊び。
絵合わせには対にすむ義姉ぎみも参加した。どうせならチーム戦にしたほうが面白いということで、姉上とわたしとで別れてチームにした。
まずは姉上から、月の絵と兎の絵で、月見兎の話を作った。
私も負けじと、月の絵と少女の絵とでかぐや姫の話を作った。
これには大層姉上も感心しておられた。
そう、まだ昔ばなしが確立する前にその話を作ってしまったからだ。これでかぐや姫の作者は私ということに……なってしまう?
そのあとも絵合わせは続いた。
しかし、前世、いろいろな物語を習ってきた私に姉上が勝てるはずもなく、私が圧勝した。
姉上からは
「宮中に上がった方がいいのでは?」
とお褒めの言葉をいただいた。
絵合わせは意外と好きな遊びだったりする。他にもいろいろなルールで絵合わせを行う。例えば神経衰弱のような遊び方、こちらのほうが一般的かもしれない。
貝合わせも同様のルールで遊ぶ。けれど、幸運の星の下に生まれた私は絶対に勝負には負けないのだった。ちょっとズルっ子かな?
吉嗣からは相変わらずラブレターが届く。今日はひまわりと一緒に、
「このひまわり畑をあなたと一緒に見れたなら命尽き果てても構わない」
と唄が唄われていた。
私は
「では、その命尽き果てるまでそこで待っていればよい」
と返した。
ところがその唄を、
「待っていれば私も一緒に見たい」
という意味に取ってしまわれて、吉嗣が夕食に遊びに来ることになってしまった。
しまったー!和歌は弱いんだよね。そこまで深読みされるとは思わなんだ。
夕食に来た吉嗣には充分気合いが入ってみえた。髪の毛は寸分違わずにきっちり整髪料であげてあるし、あ、この頃の整髪料ってさねかずらの汁とかだったりするんだけど、とにかくきっちりあげてあって、着物も微妙に新しそう。重ね色まで気遣ってあおいの重ね色目にしていた。
私も吉嗣様をお迎えするのなら、と、わざわざ十二単を着せられた。くそ重い上、暑いー!!
そそくさと縁側に腰かける吉嗣。
「今宵の月は一層きれいですね」
などと懸命に口説いてくる。
私は乗り気じゃないんだからね!!そこわかってほしいの!まぁ、わかんないだろうけど。
御簾越しに見える吉嗣。まあまあイケメンなんだけど、私の触手は動かない。いい人なんだけどなぁー。友達としてならありかな。
酒が回ってきた吉嗣は、唄を唄いだす。
「今宵の月を一緒に見上げれた私はなんと果報者よ。いまならあの月を満月にだってしてみせる」
という唄。
私は返唄として
「満月ならすべてよいわけではない、今日はこの辺で勘弁してくれ」
と、なんとも風流に欠ける唄を返した。
その唄を聞いた吉嗣、さすがにしょぼんとなってしまい、そわそわと、
「もう帰ろうかな……」
と言い出したので、
「おう、帰れ帰れ。」
と言ってしまった。
吉嗣はしょぼんとしたまま帰って行った。
◇
またしても方がえで人が泊まりに来るらしい。
今度は藤原彰悟という人物らしい。
吉嗣のときみたくならないように気を使いながら彰悟なる人物を垣間見る。
すると、そこにいたのは
「悟くん!!」
悟だった。
私は御簾をあげてバタバタと悟の方へ走って行った。
「姫様、なりませぬ!!」
桃の雄叫びももう聞こえない。
私には悟しか見えていなかった。