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涙

作者: 雪猫
掲載日:2026/09/29


この世から涙が失われた


誰も涙を流せなくなった



彼女は泣きたかった


しかし、涙は出なかった



哀しいことがあった


辛いこともあった


しかし、彼女の思いは


彼女の胸で


重く暗く渦巻いて


出て行かなかった



大声を出しても暴れても


その胸のどろどろとした何かは


胸の内で渦を巻くだけだった



それは心の内で


闇となり


叫びとなり


怒りとなり


悲鳴となった





彼女は涙を流したかった



涙は彼女の想いだった


彼女自身だった



涙を流せないことにより


彼女は自分になれなかった



彼女は自分を取り戻したかった


この世がどうあろうとも


涙を流せない自分は


自分ではないと思った



彼女は海の向こう


水平線を睨んだ


目が眩む日の光を


じっと見つめ続けた



日の没する前の最後の光を睨んで


目の奥が焼けるような痛みに燃え


その頭の奥まで


燃え盛るような痛みが貫いても


彼女は睨み続けた











そして



彼女の目から一筋




血が流れた





両目から血が流れ出した








それが


涙が失われたこの世で流せる唯一の



彼女の涙だった











血と共に


彼女の


胸の内に渦巻いていた


全てが


外へと


流れ出した







自分の


泣き声と共に


彼女はゆっくりと


胸の内の哀しみが


溶けて


小さくなっていくのを


感じた









血が止まった時



彼女は数年ぶりに


微笑む自分を見つけた








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