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エッセイ

「ある意味、特撮の聖地……と思う」

作者: 仲山凜太郎
掲載日:2026/06/27

 毎年の定番となっている千葉県千葉駅から徒歩10ぐらい、千葉公園のハス祭り(+千葉城)。私がここを訪れたのは2026年6月20日。ハス祭り初日と言うこともあり、蓮の花は全体から見れば3分咲き程度、花よりつぼみの方がずっと多かった。咲いている花の数より見物人の方が多かっただろう。

 蓮が咲き乱れる(と言うほどではないが)ハス池こと綿打池。5分もあれば一周できるぐらいの大きさだが、見物客やら露店やら大道芸人などがいて元気。こういうのは大好きだ。

 蓮特有のあのでっかい葉。コロポックルのような小人がこの蓮の葉を傘代わりにして雨の中を歩くイラストはほとんどの人が1度は見たことがあるだろう。え、ない?

 葉の間から顔を出す無数のつぼみ、大きく開いた薄紫の花弁。花弁が取った後、中心部分だけがポツンと残った形で伸びているのが少しもの悲しい。

 この中心部分、蓮の茎を通る穴はそこそこ大きくて、葉っぱを茎の根っこの部分から取り、水道のホースを茎に差し込んで水を出すと、茎の中を逆流して葉っぱの中央や縁の部分から水がシャワーのように出てくる。要するに蓮の葉をシャワーヘッドにしたものだ。会場の隅ではそれを実際にやっており、その水を手に受けることも出来る。葉を痛めないようにか、勢いはあまり強くないが紛れもないシャワーだ。これ、ファンタジーものの世界に使えるぞ。大きな葉っぱが広がる中央部分から吹き出るシャワーで水浴びをする女性キャラ。うん、絵になる。

 茎の穴を利用したものでは象鼻杯というのもある。象鼻杯。競馬や競輪のレースではない。蓮の葉に酒を注ぎ、下から茎をストロー代わりにしてその酒を飲むのだ。これも会場でやっていた。私は下戸なので飲んだことはないが、見るからに飲みにくそうだ。何かの儀式などで使えるかもしれない。


 ここに生息するハス。大賀ハスというのだが、これ、昭和の特撮ファンにとってはそこそこなじみのあるハスである。

「日本でも2,000年前の地層から発見された蓮の種が芽を出し、花を咲かせたことがあるじゃないか」

 言い回しはそれぞれ違うが、映画「キングコング対ゴジラ」やテレビドラマ「ウルトラQ」などで生命力の強さを示す例として語られるこれ、創作ではない。実際にあったことだ。そう、この2,000年前の地層から発見された種から咲いた蓮の花こそが、この大賀ハスなのだ。

 1951(昭和26)年、大賀一郎博たちが博士の自宅で種を育て、芽が出たところを千葉県農業試験所(現・県農林総合研究センター)に移され生育を続け、さらに翌1952(昭和27)年4月に東京大学検見川厚生農場(当時)をはじめとする3ヶ所に植えられる。その3ヶ所の1つがこの千葉公園だ。そして1953年8月、公園の蓮は見事に花を咲かせた。ただ、残念なことに一番ではない。東京大学検見川厚生農場に移された蓮が1952年7月に花を咲かせている。もっとも種が発見されたのはこの東京大学検見川総合運動場の地層なので、本来あるべき場所で最初に咲いたと言うべきか。

 すでにおわかりだろうが、大賀ハスという名前は大賀一郎博士から取ったものである。

 その後も分根、栽培が進み今では国内海外合わせて200ヶ所で生息しているらしい。そして1993年、蓮の花は千葉市の花として制定され、今では「ちはなちゃん」という蓮の花をモチーフにしたゆるキャラまで生まれ、会場で愛想を振りまき、撮影会まで行われていた。


 もちろん、ここに植えられたのは70年以上前だから代替わりしているだろう。それでも何となく特別感がある。ゆっくりと蓮を見ながら、ちょっと中をのぞき込んだりする。もしかしたら一株ぐらいジュランが紛れているかもしれない。

 中国4,000年の歴史にはかなわないかもしれないが、蓮の花2,000年の命もなかなかである。昭和B級モンスターの放射線を浴びた、平成B級モンスターの自然環境破壊による突然変異、令和B級モンスターの地球温暖化の影響並の万能力がある。


「馬鹿な。あれほどのダメージを受けながらどうして生きていられる?」

「何驚いている。日本でも2,000年前の地層から発見された蓮の種が芽を出し、花を咲かせたことがあるんだ。命の力を侮るな!」


「まさか、数百年の前のミイラが実は生きていたとでも?!」

「あり得るさ。日本でも2,000年前の地層から発見された蓮の種が芽を出し、花を咲かせたことがあるじゃないか。数百年前の人間はみんな死んでいるというのは命の力を知らない連中の決めつけだよ」


「正気か?! そんなことをしたら確実に死ぬぞ」

「そうか、日本でも2,000年前の地層から発見された蓮の種が芽を出し、花を咲かせたことがある。命はそう簡単に死なないさ」


「今からか、試験明日だぞ」

「日本でも2,000年前の地層から発見された蓮の種が芽を出し、花を咲かせたことがあるんだ。一夜漬けだって奇跡は起こるさ」


「本当に告白するの? 無理じゃない」

「それでも思いを伝えるわ。日本でも2,000年前の地層から発見された蓮の種が芽を出し、花を咲かせたことがあるのよ。蓮の花言葉は『神聖』『清らかな心』私の思いがどれだけ神聖で清らかなのかわかるはずよ!」

(……蓮の花言葉には『離れゆく愛』ってのもあるんだけど……)


 きりが無いのでこの辺で止めよう。

 2,000年前の蓮の種には(無理矢理な)夢が詰まっている。何百年何千年経とうが夢はいつか芽を出し、花を咲かせるものなのだ。

 千葉公園(をはじめとする国内外200ヶ所)には蓮の形をした夢が咲いている。

 見回せば会場周辺には様々な夢の屋台が並んでいる。焼きたてパン、千葉牛丼、蓮の販売、柚味噌田楽、大道芸人、隣を見れば新たな夢の工事中だ。そして蓮シャワー、象鼻杯、ちはなちゃん。

 夢に囲まれたここは昭和特撮の科学者が示してくれた聖地だ。強引なのは認める。


 夢を背に大賀ハスを後にし、千葉神社でお参り、住宅街の向こうに見えるお城。

 千葉城だ。

 住宅街の高台、堀も塀も無い。外国人観光客が日本を歩くと住宅街の中にも神社が当たり前のようにある風景に驚くが、これもまた、街の中に当たり前のように建っている。観光地の城のような特別感は乏しいが、その分、街との一体感がある。平地でなく高台にあるのがせめてもの特別感か。

 そこにあるのが当たり前の城。それが千葉城。またの名を亥鼻城。またまたの名を千葉市立郷土博物館。そう、ここは正しくは城ではなく、城のような外見をした博物館。

 外国人観光客の姿はない。観光名所を壊してまわるゴジラもここは素通りだ。私はゴジラでないので立ち寄る。駅からハイキングのコースもここを立ち寄りポイントに指定している。

 観光客の姿のないお城を前に1人佇む私。風が気持ちいい。

 家に帰ったら、ウルトラQでも見るか。


(おわり)


 駅からハイキングも10年近くやっていると、毎年ここには行かねばという場所が出てきます。この千葉公園+千葉城はそのひとつ。いつもは千葉城から千葉ポートタワーまでコースが延びているのですが今年はナシ。ここに限らず、全体的にコースが短くなってきている気がします。

 ハス祭りは6月28日で終了。また来年。


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