さようなら、わたしが愛したもう1人の君 〜前世の恋人は今世でわたしを知らない〜
初投稿です。
長編を想定していた物語ですが、今回は短編としてまとめてみました。
煌びやかな装飾と、荘厳な音楽がわたしたちを包み込む。
回るたびにフワッと舞う金髪が装飾と相まってキラキラしていて眩しい。
(いつ見ても眩しい髪色…)
ぼんやりとしているのがバレたのか、グイと手を引っ張られバランスを崩す。
(…まったくこの人は)
ポフっと目の前の人に顔面が突っ伏す。
ジト目で見れば、ウインクされてしまう。
「…ギル、」
「ダメだよ、リリィ。オレだけ見つめてくれないと」
なにを言ってるんだか、と呆れてしまうが、こんなイタズラもかわいく思ってしまう。
わたしもまあ、彼に甘いのだ。
「オレはいつでもキミを見つめてるのに」
ダンス中にも関わらず彼がわたしの頬に手を伸ばし、一瞬躊躇ってからなぞる。
なぞられた頬の熱が心地よい。
はいはい、と小さく呟いたのに素早く拾われる。
「ホントだよ、来世でも絶対キミを見つけられる」
「いや、それは難しいのでは…」
「いーや、オレが優秀だってことリリィも知っているだろ?」
それは知っているけど…とわたしは考え込む。
「…じゃあ来世でもよろしくね」
リリィ〜!とガバリと抱きつかれて少し固まるが、わたしはトントン、と彼の背を叩く。
ドクドクという心臓の音が重なり合う。
ああ、なんて幸せなんだろう。
…なんて、残酷な夢なんだろう。
はやく…目が覚め…
……。
ハっと起きて周りを見やるといつものベットの上にいた。
(やっぱり…夢だった…)
そっと胸に手を合わせて目を瞑る。
ギル…と呟いても返ってくる声はない。
ゆっくりと身体を起こす。
見慣れた広い寝台と、手入れの行き届いた豪奢な部屋。
前世とは大違いだ。
贅沢な暮らしをしているとは思う。でも、いつも虚しさだけが残る。
前世の記憶を持つ者は珍しくないこの世界では、王立管理局に申請するのが、歴史保護の観点からの決まりだ。色々照らし合わせて、前世があるかどうかが分かるらしい。
(こんなにも苦しいのに妄想であるわけない…)
ギルフォードのことを考えるだけで心臓がぎゅう、と押し潰されそうになる。
むしろ夢であって欲しかった。
真実を知りたいと思いながら、覚悟ができずにウジウジして、
(…気付けば16年も)
前世を思い出すたびに息が苦しい。
この苦しさが晴れる時が来るのだろうか?
コンコン、と控えめなノックが聞こえる。
お嬢さまというメイドの声に起きていると答える。
さて、そろそろ向かわなければ。
どうにも落ち着かず、ガタガタと揺れているのは馬車のせいなのかわたしのせいなのか分からない。
もうすぐ着きます、という御者の声にサァ、と全身の血の気が引いた。
「止めて!」
思ったより強い声が出て自分でも驚く。
慌てながら御者が馬車を止めた。
「…やっぱり、やめるわ」
「お嬢さま、」
「だって、楽になるわけではないもの…」
扉を開けてもらい、外に降りる。
少し歩いて、はぁ、と一息つく。
管理局は、すぐそこに見えていた。
流れ出ている人の表情が、明るかったり暗かったりと様々だ。
手続きを終え、現実を突きつけられたのだろう。
…前世の自分と今世の自分を。
(あそこに行くと、全部分かってしまう…)
真実だと突き詰められて、どうだというのだろう。分かったところでなにも起こらないのに。
わたしを好きだったギルは今生にはどこにもいないのに。
じわり、と心臓からなにかが溢れて痛い。
これ以上ここにはいたくなかったので帰りましょう、と声をかけ馬車へ向かう。
その時、人だかりができているのが見えた。
どこにいても目立つ人がいるせいだ。
キラキラと銀色の髪が光を弾いている。
「見て、ギルバートさまよ」
「この間と違う令嬢とご一緒だわ」
「元王子でしょ、あの方」
いいわね〜身分が高い方はご自由で、とはしたなく噂する周囲。
王籍を外れた元王子、ギルバートさま。
いつも違うご令嬢と一緒にいる人。
…誰のものにもならない人。
まるで世界から彼だけを切り取ったかのように喧騒が消える。
いたずらっ子のように笑う顔は同じなのに、輝く太陽のような金色から冷たさを感じる銀色の髪へ変わってしまった。
それでも、社交パーティーで出会った瞬間わたしは気付いてしまった。
この人が、わたしのギルフォードだと。
勇気を振り絞って声をかけたあの日、「どこかでお会いしましたか?」と素っ頓狂な声で言われてどれほど打ちのめされたか。
「…嘘つき」
キミしか見てないとか来世でもキミを見つけるって言ってたのに、
(忘れてしまったら探しようがないじゃない…)
ホントはわたしの方が離れられなかったのかもね。
だからわたしだけ記憶持ちとして生まれてしまったんだろう。
幸せも不幸も全部、いらないのに。
一緒に過ごせないのに記憶だけあるなんて、酷い拷問だ。
それなのに、憎めなくて、目が逸らせない。
笑い声が近づく。
ハっとして、なるべく視界に入れないようにわたしは歩みを早くする。
それが大間違いだった。
足がもつれて、そのまま地面にこんにちはしてしまった。
カシャーン、と装飾品の音が派手に響く。
人だかりが静まり返り、注目されていることが分かる。
(ああ、もう大っ嫌い…!!)
こんな重くてヒラヒラしたドレスも、ジャラジャラと付いている装飾品も、青白い肌も、漆黒の髪も全部!
全てがわたしに似合っていない。
転んだところがジクジクと熱い。
「えっ、ちょっ…大丈夫?」
人混みを掻き分けて、誰かがわたしの目の前で膝を下ろしてくれた。
(誰か…だなんて。もう声で分かるのに)
弱っている人を放っておけない、優しい君。
差し出された手に戸惑うが、そっと触れる。
グイ、と引き上げられ長い睫毛が見える距離まで近づく。
そして、一瞬躊躇ってからわたしの頬に触れる。
泥がついていたのだろう、そっと拭ってくれた。
それだけで、身体の緊張が少し解ける。
(あぁ、なんでその仕草もそっくりなの…?)
魂が、この人がギルだと叫んでいる。
ぐしゃりと顔が歪むのを感じ、わたしは下を向いてスクっと立ち上がる。
「お見苦しいところを、お見せいたしました」
もう大丈夫ですので、と優雅に一礼をする。
立ち去りたいのに足が動かない。
先ほど触られた頬が熱を帯びて全身に伝わる。
カチンと身体が固まっていると、気をつけてね〜とヘラヘラ笑いかけられる。
元王子とは思えない軽さに張り詰めていた力が抜ける。
(軽い人だわ…)
性根は記憶がなくても変わらないのだろうか?
若干呆れながらも、もう一度深くお辞儀をし、今度はきちんとその場を離れる。
人の流れに乗って群衆に入り込む。
ふと、これだけ近づくことはもうないかもと思い、令嬢をエスコートするギルバートを盗み見る。
群衆に溶け込んだはずなのに、
ギルバートの氷のような瞳がまっすぐわたしを捉え、なぜか揺らめいた気がした。
分かってる。
前世はもう終わった。
わたしとギルの関係も終わっている。
君が幸せなら、わたしも幸せ。
だから、安心して他の人と幸せになってね。
わたしは彼に向かってヘラっと笑う。
(…さようなら。もう笑いかけないでね!)
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