5.奇跡
いよいよ5話目となり、話は終盤にさしかかります。
今回も、是非楽しんでいってください。
それから数か月後。
「いやあ、あの時は有意義だったなあ。寿司も美味しかったし」
「ええ。私は特に禅問答に興味が湧きました。それに茶室の円窓から見える和の風景が素敵で……」
「じゃ、近々行ってみる?」
「あ、いいですね!」
僕の自室にて、僕とルナは過去の日本視察での思いで話に花を咲かせていた。
と、その時、僕のズボンのポケットから会話を遮る異音が鳴り響く。
「も、もしもし?」
僕は内心緊張しながら、スマホを握り、話しかける。
理由は「スマホに母が入院している大病院の名前が表示されていた」からだ。
「す、すいませんが、お話したいことがありますので、大至急病院へ来ていただけますか……?」
「は、はい……」
僕は真っ青になりながらもなんとか返事をし、気を取り直した後、急いで病院へ向かう!
「……ルシル様お気をつけて」
心配気に僕を見つめるルナに「ああ、ちょっと行ってくるよ」と手を振り、僕は駆け足で外に出ていく。
今回は身内だけの内々の話ということで、ルナは残念ながらお留守番だ。
内心、色々不安でいっぱいだった。
「お前も来たのか……」
「そりゃ……ね」
大病院のエレベーター内で、父のベリウスとバッタリ出くわし、ついでに色々と話すことにした。
「なあ、父さん。頼むから病院へ来るときぐらい髭そってきてよ」
父の年齢は丁度42歳。母と同年齢だ。
でも、髭もじゃの天パでいくつか老けて見える。
僕はそれがなんか嫌だった。
「はは、こっちのが貫禄あっていいだろ? ん?」
「それは、そうだけどさ」
でも本当の理由は違う。ただ、めんどくさいから剃ってないだけ。
知ってるし、理解してる。けどなんだかなあ……。
まあ、研究者肌だから、超効率主義者なんだろう。
「はあ、母さんは、父さんの何処に惚れたんだろ」
ため息と共に、思わず僕の心の声がポロリと漏れる。
「あ、そりゃ知的なとことか全部だろ? それに俺がメーリンと結婚しなかったら、そもそも生まれてなかったんだぞ?」
「そりゃ、まあ……」
そう、父親の否定は自身の否定に繋がる。
だから、察した僕は無言になるしかなかった。
あ、ちなみにメーリンは僕の母の名です。
僕は、ひたすらに上がって行くエレベーターの眼下に見える綺麗な海を眺め、しばらく思慮にふけることにした。
当時モデルだった母はハワイで父とバッタリ出会い、恋に落ちた。らしい……。
慰安の意図もあるけど、父さんが此処に引っ越した理由。
それはきっと、母さんがこれらの理由で落ち着くからってのも、あるんだろうな、きっと。
それから数十分後、此処は10階にある別室。
「あ、あの気をお、落ち着かせて、き、聞いてください」
明らかに動揺している白衣の先生を前に、僕と父は思わず顔を見合わせてしまう。
誰がどう見ても、絶対に異常があったと分る。
だって、先生の瞳は忙しく泳いでいたから。
確か、半年前くらいに聞いた話では、母のガンはステージ2だった。
最終通告……。
だから、僕は脳裏にその不吉な文字を思い描き、目頭が熱くなってきているのがわかる……。
父は、父はどうだろうか……?
そう考え、僕は恐る恐る父を見る。
いつも笑顔の、のほほんとしている父。さっきもそうだった。
が、今回は違った。
その父が、震え、目に涙を浮かべていたのだ……。
「メ、メーリンは! た、助からないのですかっ!」
先生に懇願し、悲痛な声を上げる父……。
その声は枯れ、最早言葉になっていなかった……。
「あ、あんまりだ……。ううっ、あいつが何かしたっていう……の……か」
だからか、僕は次の言葉が出なかった。
いや、父の気持ちを考えると、だせなかったのだ。
「いや、あの落ち着いて聞いて下さい……」
「……え?」
父の呆けた声が、白くだだっ広い控室に響き渡る。
先生は急いでPC画面を立ち上げ、それを僕らに見ろと言わんばかりに指さす。
「えっと、先生これは?」
僕は声が出なくなった父の代わりに、先生と会話を進めていく。
「この二つの写真を見てください」
「は、はい」
僕は先生に言われるがまま、2枚の白黒のデジタル画像を交互に見つめる。
「これ、レントゲン画像ですよね?」
「そうです」と、頷く病院の先生は説明のためか、カチャリと枠梨のメガネを静かに身に着ける。
なるほど、本腰を入れて現状をストレートに説明していくってわけだな。
腹を括った僕は、緊張で生唾を飲み込みながら、言われるがまま2枚のレントゲン画像を見比べる。
一枚は、数か所を赤ペンで囲った画像。
これは、大腸ガンとそれが転移した結果の写真だろう。
で、肝心なそれと比較すべきもう一枚だが……。
……何故か、何も囲ってない⁈
「これ、もう一枚の何も囲ってない写真って、入院前のものですか?」
確認し、事実を受け入れたくない。
だけど、先生の懇意を僕は無下にはしたくない。
そう考え、僕はしたくもない確認の質問をする。
「そうですね。普通はそう思いますよね。私もそう思いましたから」
「……え?」
綺麗なスキンヘッドを伝う、一筋の汗。
それをハンカチで先生は拭い、小太りの白い医療服を揺らし、興奮し、言葉を続けていく。
「もう一回言いますが、落ち着いて聞いて下さい……。この臓器以外何も映っていない画像。これがメーリンさんの現在の状態なんです!」
「へ?」
僕と父は、先生の言っている言葉を受け入れられず、ポカンとするしかなかった。
「早い話、ガンが消滅しているんですっ! き、奇跡ですよ」
先生は大声で興奮し、その先生に号泣しながら無言で抱き着く父……。
不意に、病院の先生の「奇跡ですよ……」の言葉が、僕の脳裏でコンバートされていく。
奇跡・きせき・輝石……⁉
あっ!
「せ、先生ッ! 母の病状が回復したのって、いつごろからですかっ!」
「え? ええっと、確か……?」
先生は作業机に座り、PCの画面を必死ににらめっこし、作業していく。
「え、ええっと、確か。あ、丁度息子さんが見舞いに来た日からしばらくしてですね……?」
その話に確信を抱いた僕は、先生の開いている別の数枚の画像を瞬時に確認する。
そこには、日を追うごとに赤ペンの丸が少なくなっていく画像が羅列していたのだ。
この話は数年前に、実の父がガンの闘病の末、亡くなった事実を元に書いてます。
話は変わりますが、タイムリーなことにXのイーロンマスク氏がロケットの打ち上げに成功しているみたいですね。
ともあれ、なにかしろの成果で、世界が豊かになるきっかけが出来ることを願いつつ、この物語を完結させますので、共感出来た方はイイネや評価を是非よろしくお願いします。




