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配慮のチャンネル

作者: sinohara779524
掲載日:2026/02/04

試合開始の三分前、家族のみんなは、無言でいた。


淡々と洗い物をする母、「早く寝なさい」と言われる坊主。


不貞腐れて、おでんと熱燗で顔をあからめながら、後から始まるニュースを楽しみにしている父。


試合の途中の経過はドラマや漫才のテロップの隅に流れる。そのたび、なぜか、父はおでんの汁を喉の渇きを潤すように、箸を置き、ゴクっと飲み干す。


画面上、8回の裏まで終了、

0-0 の同点です。


AIの無機質な文字だけが、テレビに浮かんでいる。


もう、慣れっこになったと思うことにしているが、

放送権の都合で私たちの大きなイベントは、画面の外に追いやられていた。


まもなく最終回、しかも、その回、回ってくる打者の速報のテロップを見逃すことは、万が一でも許されない。


9回が始まった予感。


アレ?いつもと途中経過のテロップさえ流れなくなった。


次の瞬間、テレビが一度、黒くなった。



見たことのないチャンネル番号とともに、満員の球場が映った。


打球が放たれ、映像が一拍遅れて、天井のスピーカーが震えた。

歓声は、遅れて追いついた。


試合終了と同時に、画面は消えた。


父は箸を落としたままだった。


翌朝のニュースは「原因不明」の一言で終わった。


「原因不明の歓喜だ」


AIはその夜、「配慮」という語を一つだけ学習データに加えた。

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