流浪の旅人 【月夜譚No.381】
旅に出てからどのくらいが経っただろうか。目についた時計台の上から景色を眺めながら、青年はぼんやりと考えた。
眼下に見えるのは、偶々立ち寄った港町の街並みと何処までも広がっていく海の青。物思いに耽るには丁度良いシチュエーションだった。
旅に出なければならない理由も、目的地もなかった。それでも、青年はあの町から旅立った。
自由気まま、当てもなくあちこちを旅する生活は、楽しくもあり辛くもあった。色々な人々と出会い、色々な景色を見てきた。
それでもまだ、世界を全ては見切れていない。一生旅を続けても、きっと世界の全ては分からないのだろう。
それでも、青年は故郷に帰るつもりはなかった。自分の力で行けるところまで、見られるものを見てしまえるまで、旅を続ける。
いつの間にか沈む準備を始めた太陽の眩しさに目を細めて、青年は微笑む。
これから何が待っているのか。それを考えながら、今夜はこの町でゆっくり休もう。




