第3話 魔王軍撃退
「……婚約破棄、謹んでお受けいたしますわ」
少し間が開いた後、エレノアさんがそう言って膝をキュッと曲げた挨拶をした。さっきの件、まだ続いてたのか、と思ったけど、あの金髪男性と婚約してたんなら、相手が「婚約破棄」って言ったんなら、その機会に別れようと思うのもちょっと納得だ。
金髪男性は、フンッて感じで鼻を鳴らし、ピンク女子をぶら下げたまま、奥の方に行ってしまった。ゾロゾロついて行く人達がいる。王子って言っていたし、お付きの人達かな。
エレノアさんは、何事もなかったかのように、周りの人達にお茶を勧めたりしていた。
「……追放、なかったね」
「公爵様の派閥が結構強いんじゃない?
今も、二手に別れちゃってるよね」
同じ班の清水君と川村さんが、王子達が集まっている方を眺めながら言う。たしかに、避難所の人の集まりが、王子を中心にした方と、こっち側の二つに分かれているみたいだ。こっち側が公爵様派閥か。
ドーン! ドーン!
遠くから何か大きな音が響いてきた。そして少しして、歓声の様な声。
「報告します! 襲撃してきた魔王軍を撃破しました!」
「おおお!!」
避難所にも歓声が上がる。
とりあえず、迫ってきていた脅威みたいなのが、過ぎ去ったらしいと聞いてほっとする。魔族ってやつが、どんなだか、分からないけど。
ざわめきの中、大滝先生がロケットランチャーみたいなのを担いで現れた。
「おう! これから魔王城に向かうぞ!」
「ええ⁈」
修学旅行中の次の見物先に向かうって宣言するみたいな気軽な言い方をする大滝先生。そう言えば、修学旅行中だったけど。
「せ、先生……。魔王城って……?」
「うむ。魔王を倒せば日本に帰れるというからな。魔王を倒したら、そのまま日本に帰る事になるなら、全員で行くしかないだろう」
「魔王を倒す……」
大滝先生は本気で魔王を倒す気みたいだ。俺、勇者候補って事だったのに、何もできる気がしないんだが。
どうしよう。でも、もし魔王を倒してすぐに魔法陣みたいなのが発動して、日本に帰るってなるんだったら、一緒に行くしかない。ゴクリと息を呑む。覚悟を決めないと。
「あ、私、バス出せるみたいです。バスで行きますか?」
生物の中島先生がヒョイと手を上げた。
「お、中島先生、バスを出せるんですか?」
「ええ、大型免許持ってるからですかねぇ」
のんびりした口調で中島先生が言う。どうやら中島先生は、バスを出すスキルみたいなのを持っているらしい。
え? 魔王城にバスで行くのか?
修学旅行じゃないんだぞ。
いや、修学旅行中だったっけ?
その後、王様やら公爵様やらがやって来た。どうやら、魔王軍の撃退に貢献したのが大滝先生らしい。勇者がどうのと王様が何か言ってたけど、大滝先生は、魔王城行きの事を考えるのに忙しかったのか、王様の言葉はスルー。更に、王子も何か言ってきてたけど、スルーだった。
バスに乗り、魔王城に向かう。馬車だと数日かかるって話だったけど、馬車の場合、馬を休める必要があるからだろう。
先生達の計算だと、夕暮れまでには魔王城に着きそうだって。
「右に見えるのは、冒険者ギルドってところですよー」
街中は、バスはあまりスピードを出さずに走り、小林先生が街の案内をしてくれる。
皆、スマホで写真撮ったりして結構盛り上がった。
街を出たら、バスは恐ろしいくらいの速度で、突き進んだ。途中で昼休憩は、小林先生のスキルか何かで、「美味しい店」を選んで現地飯。
シチューが絶品だった。しかもタイミングが良かったのか、大人数で入ったのに、ギリギリ料理が足りたらしい。
景色の良い場所を通って、ちょっと旅行気分になってたけど、夕方に魔王城に到着。
緊張が走る。
大滝先生は、バスを降りて仁王立ち。
ロケットランチャーを構えた。




