第2話 ここで婚約破棄、ですか
「お怪我はなかったかしら。 どうぞ、こちらにいらして」
案内された場所で、出迎えてくれたのは、銀髪をポニーテールにした美女だ。真っ白な肌に、アイスブルーの瞳。お姫様かと思ったら、公爵令嬢だって。
エレノア・ゴールドウィン公爵令嬢。さっきのナイスミドルがゴールドウィン公爵だったらしい。
「さあ、こちらのお席にお座りになって」
エレノアさんは、まるでパーティとか結婚式の席案内をするかのように、俺達を奥の方のテーブルと椅子が並んでいるエリアに案内してくれた。メイドらしい格好の人達が、お茶セットを運んでくる。
あれ? 魔族が襲撃してきて避難してるんじゃなかったっけ?
パーティー会場にでも案内されたみたいな感じで戸惑っていると怒鳴り声が響いてきた。
「エレノア! 何だ、この場所は!」
「うう……、エレノア様……、酷いですわ。私が男爵令嬢だからって、このような場所に……」
金髪の煌びやかな格好をした男性が、ピンク色のふわふわ髪の女性を腰に抱いて、エレノアさんに向かって怒鳴っている。
「何だ? 何か始まるのか?」
クラスメイト達が、興味深げに首を動かして様子を見ている。
エレノアさんは、背筋を伸ばしたま、落ち着いた口調で金髪男性に言う。
「ジョアン殿下。こちらは臨時に用意された避難場所ですわ。
王族用の避難場所は別でご用意されていたはずです」
「あっちには、ミイナは入れないって言われた! お前が騎士に命じたのだろう!」
「エレノア様、酷いですぅ」
「おーい、点呼とるぞー」
金髪男性がピンク髪の女の子の腰に手を回したまま、エレノアさんを責める。そこに大滝先生の点呼の声。
クラスメイト達は、「え? 今?」って顔してる。
「わたくしは、その様な事はしておりませんし、王宮騎士に命じる権限もございません」
「どうだか! 俺とミイナの仲に嫉妬したのであろう」
「エレノア様、酷いですぅ」
「班ごとに、メンバーがいるか確認して、班長が報告に来い!」
エレノアさんと王子らしき金髪男性が揉めているところに、大滝先生の声が響いてヒヤヒヤする。
「エレノア・ゴールドウィン公爵令嬢! 貴様との婚約を破棄する!」
「三班と五班、報告まだかー!?」
金髪男性が一際声を張り上げ、周囲が緊張で満ちるより前に、大滝先生の声が雰囲気をぶち壊す。
キッと、金髪男性が初めて大滝先生の方に顔を向けた。
「貴様! 何故邪魔をする!」
「避難場所では、安全確保が最優先だ! 場違いな事に付き合ってられるか!」
「は!? 貴様、何者だ!無礼であるぞ!」
「知った事ではない!」
「な……っ」
金髪男性は、激昂した様子で何か言いかけたが,大滝先生に睨まれたら、黙ってしまった。大滝先生は迫力があるんだよなぁ。




