98 魔女、武道場の片隅で
私ーーラベンダーは武道場の片付けだけでもと、なんとか騎士団に頼み込んで最後の武器の片付けや壊れた箇所や物の補修をさせてもらえることになった。
どうやら片付けに私が入るということで接触を避けたい人が多いのだろう。
いつもよりもみんなが去っていってしまい、残った騎士団の新人騎士たちも恨めしそうに私を見つめる。
本当に邪魔にしかならない。
でも、私が強気にいかないとルシアンも舐められてしまう。
すーっと息を吸い声をかけてみようと震える拳を握りしめる。
「あの...片付けはどこに持っていったらいいですか?」
「あ、ああ。でも剣も重いですし、怪我をされても困りますので...」
「大丈夫です」
騎士団のみんなが、やめてくれという視線で見つめる。
ここで帰った方がいいのだろう。
でも、ルシアンが好きなら周りに認めさせないと...
すでにこれだけみんなに嫌がられている妻なんだから。
せめて私ができる仕事をもらうわがままだけば通させてもらおう。
「じゃあ、少しづつでいいので...そこの槍と刀の山を倉庫に持っていってもらえますか?」
「わかりました」
一本刀を持ちあげてみる。
一本でもかなり重いし長い。
もし落としたりして傷を入れるわけにもいかない。
「風の妖精、武器を全て浮かび上がらせて、一緒に運んで」
私は、そっと手から杖を出して片付ける予定のすべての武器を浮かび上がらせた。
「うわわわわわああああ」
そばにいた騎士団の一人がその場で腰を抜かしている。
「大丈夫です。倉庫に持っていけばいいのですよね?」
他の騎士がコクコク頷く。
「わかりました。」
私が杖を振ると一緒に刀と槍が歩き始める。
「倉庫のどちらに??」
倉庫の中にいる騎士も
「わわああああああああ」
叫んでいる。
「安全です。でも、どちらに置くのか教えていただけると」
「槍は....右の棚、刀は左の....棚です」
私は頷いた。
「妖精たち、壊れないようにおいてね。」
はあーーーい!
元気よく棚に向かって片付けて行く。
「終わりました!」
笑顔で振り向いた時には、周囲の人間には私が槍と刀を空に浮かべ、猛スピードで棚に自由自在に戻して行く姿に完全に引いていた。
どうやら新たな恐怖を与えてしまったらしい。
あ...やってしまった。
周りの凍りついた空気がいたたまれない。
だが、一人だけキラキラした目で感激してくれる騎士がいた。名前はジェシーと名乗った。
「本当は魔術師に憧れていたが、平民だから魔術は使えないんだ。だけど、魔術師で全部の道具を浮かび上がらせた人はいない。姫様ってすごい人なんですね」
敬語と会話が混ざるジェシーは十八歳という。
「いえ、今日から社会人なので、どうぞご指導よろしくお願いします」
せっかく怯えずに声をかけてくれたのだ。
仕事をもらおう。
きっとチャンスだ。
「あ、あの...あとは片付けなんですけど...」
「ああ、魔術師団が壊したところは、魔術師団がまた直しに来るから放置でいいんだけど、騎士団が壊したところは直さないといけない。この後は壊れた的や服を破れを直したり、先輩たちの練習着を洗ったり...ああ、姫様はいいんですよ。それこそ魔女とか関係なく洗わせたと叱られてしまう」
ジェシーと話していると、おそるおそる他の騎士もやってくる。今日は新人5名で片付けるという。
「あの、どうして私が皆さんのものを洗うと叱られるのかしら?」
「そりゃ...姫様だし、魔術師団長の奥様に汚いものを触らせるわけには...」
「触らなければ怒られないなら、一気に洗って乾かすわ」
洗濯は得意だ。水の妖精にシャボンで遊ばせて、風の妖精にトルネードで洗わせたらいい。
ラストは火の妖精と風の妖精に温風乾燥させたらいい。
「多分ルシアンはわたしの洗濯には慣れているから怒らないと思うの。それに触らないわ。わたし出来ることが少ないの。だから役に立てると嬉しいのだけど」
他の騎士たち5人は、少し迷っていたが
「姫様がやったと言わないでくれるなら...」
とモジモジしながらも頷いてくれた。
「ありがとう!失敗したらわたしがみんなから奪ったっていうわ!」
私は杖を出して水と火と風の妖精に洗濯から乾燥までを伝える。
「妖精たち!後でご褒美ね。みんなの衣服をふんわり綺麗にしてあげて」
一斉にカゴからシャツ、パンツ、ズボンなど騎士団の土まみれの衣服が、水の妖精の作り出す水球の中に飛び込んでいく。
「わあああ」
今度は騎士団のみんなも恐怖の声ではないのを確認して安心して杖を振る。
「どろよごれきたない!」
「くちゃい!しゃぼん!しゃぼん!えすおーえすっ!」
水球はすぐ茶色くなり、水の妖精も大変そうだ。
「騎士の服は汚れているのね」
「地面で戦いますから。魔術師は空中なので綺麗ですけどね」
確かに、ルシアンもグレイ様も綺麗な服だ。
「じゃあ、真っ白になると気持ちも真っ白になるわね」
蓄積した汚れは大変そうだったが、何度も水の妖精が新しい水を作り出し、それを火の妖精がお湯にしてからは汚れ落ちが格段によくなった。
そして一気にトルネード温風乾燥
カゴの上にタオル、シャツ、パンツと分けて行く。
ふんわりしゃぼん、お日様の香りだ。
「後は....服の直しよね。糸の妖精、破れたものは全部直して」
ここまで来ると、ジェシーだけではなく、他の騎士たち目もキラキラしてきた。
壊れた的や刺さった矢も木の妖精や金の妖精に頼んで復元していく。
特に矢の復元は経費削減で助かるのだそうだ。
こうして、私と騎士たちの仕事は、一日かかるところを2時間もあれば、全ての仕事を終える。
「あ、最後に、もしよければわたし回復魔法を使わせてもらえないかしら?」
ジェシーたちは新人なので、多少の傷は我慢しなければならない。でも、顔の周りや腕には小さな切り傷があった。
みんな顔を見合わせて「じゃあ、お願い」と答える。
私はドライアドの杖に持ちかえ「ヒール」と5人の傷を一度に治す。
「えっ!!聖女様でも一人づつで無茶苦茶時間かかるんですけど!」
「魔女すげえ!」
そうほめてもらって心が暖かくなる。
ついでにこっそり魔術師団の壊れたところも復元魔法で戻してみんな解散したのだった。




