97 いい子では癒せない
「先日は、姫様を攻撃してしまうなんて...本当に申し訳ありませんでした」
副団長を紹介されると同時にカチカチになった二人が頭を下げる。
「いえ、あの時は髪型も服も男性の格好をしていたので不審者と間違えられるのは仕方ないことと理解しています。これからもルシアン...いえ、夫のことをよろしくお願いします。」
頭を下げられる経験がないので慌ててしまうが、妻っぽい挨拶はできただろうか?
「早速ですが、姫様は回復魔法が得意と聞きました。訓練で怪我をするものが騎士団も魔術師団も多いのです。聖女の数にも限りがありますし、回復を手伝っていただけますか?」
「わかりました。」
魔術師はみんな回復ができるというわけではないらしい。
ラスカルや父、ルシアンが特別なのだ。私は、本当は魔女ではなく普通の女の子で生まれたかったが、その血を継いで、魔女であり、全属性の妖精を使えることを羨む人もいるのだと自覚しなければいけない。
武道場は、魔術師団や聖女たちが回復魔法の練習のため控えていた。
「よろしくお願いします」
そういったものの、誰一人にこりとするものもいない。
明らかに視線を感じ、特に聖女集団からは視線で刺さるのではないかというぐらい全ての聖女から嫌悪感が滲んだ。
手が震える。
闇の妖精を呼びたくなる。
魔術師たちは、むしろどれほどのことができるんだか?といった好奇の目で見ている。
気のせいで思い込みだと思いたいが、その一歩が止まりそうになる。
副団長のグレイが「大丈夫ですよ」と声をかけてくれるのをただ頷いて、邪魔にならないように壁で過ごす。
その間、怪我をした人が治療を受けるが、間違えても寄りたくないとばかりに視線を逸らし聖女たちの治療を受けている。
かつて、魔女の力を使って市井におりたら、治療院などを開くことも考えたが、予想以上に魔女の忌避感は強い。
魔女は悪魔の手先、もしくは悪魔を操る存在なのだろう。
父が国で力を持つ家の二人の娘と結婚して、更に自分で王位を継いで、母を手に入れようとしたことの大変さがわかる。
本当に母が好きなのだろう
母もーー何もわからないところから王妃になってやってきて、私が産まれてからは父との関係も良くなかった。
あの性格のキツさは、不安の裏返しだったのだろうか?
やっと二人は幸せになったのだ。
私が辛い思いをしていたら、二人も辛い思いをしてしまうのだから、頑張らないとーー
「あ、あの、聖女様、私も何かできることはありませんか?」
勇気を出して声をかけてみたが、明らかに困ったように目配せされる。
「姫様はお遊びでしょうけど、ここにいる人は命懸けです。聖女と魔女どちらに治療をされたいがなんて流石の姫様でもわかると思うのですが...」
一人の聖女がムッとした顔でいうと、グレイが「おいっ!」と発言を止めようとする。
それを見て他の聖女も、邪魔だと言わんばかりに顔を顰めた。
「姫様が何もしないで、ただ見守ってくださることがみんなにとって一番です」
「申し訳ないのですが、姫様は聖女ではありませんしね」
そういって、去って行く。
魔術師団も誰も視線を合わせようとしない。
副団長のグレイが再び気を使ってくれる。
「おい、お前たちも姫様と一緒に回復魔法を使ってみろ」
「は、はい。姫様、こちらへどうぞ」
案内されるがまま回復を受けている騎士の目の前に行くと、ひっ!と怯えた声を出されてしまう。
「な、何もしないから!!安心して」
思わず、せっかく前に行く機会をくれたのに、自ら壁に行ってしまう。
だが、それをみてホッとしているみんなをみると、みんなを押しのけて自分に治療をさせろという気持ちにはならない。
母やクラリス様のやってきたことの話を聞くと、嫌われて平気な顔をしているけど、それが本心だったとは思えない。
おそらく、周囲から嫌がられても王妃やルシアンの彼女でいられるポジションにいるために、なりふり構わず自分をアピールし続けたのだ。
ルシアンだって、そんな自分を求めてくれるクラリス様にひかれたというのに...
いい子ではダメーーその言葉が私を追い詰める。
「すいません、姫様」
ここまで一生懸命、自分のためにお膳立てして動いてくれたグレイが申し訳なさそうに謝るので、更に申し訳なくなる。
「顔をまずは覚えてもらわないとね。魔女だし、今までは闇の妖精に顔を隠してもらっていたから。できるだけ覚えてもらえるようにするわね」
私もできる限り、今できることをしていこうという気持ちを強くして答えたが...失敗した。
「闇の..妖精?ですか?」
あっ!しまった!と思ったが、「闇」「妖精」というワードに更にざわめきが強くなる。
「よ、妖精はみんなの精霊と同じなの。ここにはたくさんの精霊ががんばってお仕事をしているけど、私は妖精を主に使うのよ」
慌てて訂正するが、見えない精霊や妖精の話をすればするほどかつてのように周りに見えない壁がうまれ、グレイも含めて更に一定の距離感を作られてしまった。
◆◆◆
「妖精は本当にいる。私は彼女と魔力混合しているから、彼女の魔力も引き継いでいる。信じられないだろうが、ここにもたくさんの妖精がいるのが見える」
昨日からルシアンも窓辺にお菓子を置いて、話しかけているから周りは何があったと何事かとみている。
「妖精がいる」
そうルシアンがいうと、副団長の二人もドン引きだった。しかし確かに目のまでお菓子がなくなっていくのだから本当にいるのだろうと目を丸くしていた。
「すいません、闇の妖精と言っていたので、悪いことをするのではないかと。可愛らしい姫様だと見ていて理解していたのですが...」
グレイも、ラベンダーに申し訳ない気持ちで一杯だった。
「ヴァネッサ王妃の娘とは思えないぐらい腰が低いし、姫なのに、聖女たちの嫌味にすっと引いてしまう。
自信がないとルシアンがいうのも納得できる。今日も、騎士が治療を受けたくないと怯えているのを感じて、チャンスだったのに強引にいかなかった。押しも弱いし、ああなると、自分も含めて周囲の人がラベンダー姫の存在を知らなくても不思議ではない。思った以上に魔女を白い目で見ていた自分に驚き反省している」
とグレイは話した。
「ラベンダーは今どうしている?魔女は...いや、特に彼女は防御が弱いんだ。今日は防御の魔道具を付けさせておいたが、心配だ」
ルシアンが心配そうにソワソワし始めた。
「せめて片付けだけでも一緒にさせてくれって騎士団にいうんです。私も付き添おうかと思ったのですが、私に付き添っていては仕事に差し支えるから帰って欲しいと言われました。お優しい姫様です。以前誤って攻撃してしまったことも責める方ではありませんし...」
ルシアンはそれを聞いてふーっとため息をつく。
やはり、自分がそばについていた方が良かっただろうか?
あの子の押しの弱さも優しさも自分にとっては長所で愛しい部分なのに、意外と使い魔もヴァネッサ王妃も、ラベンダーに厳しい。
「自分で乗り越えなければならないわ。それが嫌なら他の魔女たちのように森に篭っていたらいいのよ。魔女の理を捻じ曲げて表に出てくるんだからいい子をやめさせないと」
と俺の横で使い魔は足を舐めている。
それを見て
「猫がしゃべった!!」
と、グレイとミハエルは再び恐怖で顔が固まっている。
更にそれが使い魔であることを知ると一定の距離をとっている。
「あんたたち、肝が小さすぎるわ。なんなの?魔術師団の副団長ってこんな感じなの?ラスカルなんて私を抱っこして寝てくれたわよ」
呆れたように副団長の二人をじろっと睨みつける。
どうやらラベンダーもヴァネッサもそれぞれの伴侶と一緒に過ごすから、寂しくラスカル前団長と眠ったらしい。
こいつこそ、魔なんだから大丈夫とは言ってやれないが...
ラベンダーからしたら「猫ちゃん」だからな
ルシアンは、集まってくる妖精たちにラベンダーを見守ってやってくれと祈るしかなかった。




