96 薄橙の口紅は、独占の色
「猫ちゃん、今日からルシアンを独占する嫌な女になるわ。よろしくね」
久しぶりに魔女らしいローブを羽織る。
そして、気合を入れて自分が作った化粧品を自分につける。
口紅は...真っ赤だと悪い女っぽいけど、怖い魔女だと思われるかもしれない。
薄いオレンジにしよう。
果実から色素だけを抜き出し、修行中に手にした鉱石や油脂と混ぜたものだ。
お母様もだけど、化粧をすると派手な顔になるのよ。
もう少し地味に...いえ、ダメダメ。
私はルシアンの妻...ルシアンの妻...
「もう少しオシャレに気を配れば良かったかしら。もうちょっと綺麗に見せる化粧品を開発すれば良かったわ。」
母のヴァネッサに言われるがまま化粧品を作っていたものの、社交界では闇の妖精に隠してもらっていたし、顔出しする、しかも朝から自分に使うのは初めてだ。
「ねえ、猫ちゃん、化粧どうかしら?ルシアン様の妻として少しでもよく見える?」
使い魔はじーっと見つめて、ニャーっとため息をつく。
「それこそ、聞くのはルシアンでしょ。と言うか、あなたたちえらくあっさりした朝をお迎えだこと...」
きらっとした目で睨まれ、私は真っ赤になる。
「付き合う期間がなかったし、相手はもう決まっているのだから、子種を急いでもらわなくてもいいって。もっと、じっくりお互いを知り合おうってことになったの」
「あらあら...煽るなって言われたからそこまでは煽らないけどね。クラリスとは大人の関係なのに、そんな子供扱いされたままでいいのかしら?」
ふふんと使い魔は尻尾をピンと立てる。
ドキッとする。
「意地悪だわ」
思わず涙目になる。
「いくら嫌な女だとしても、過去の女の人と張り合って閨のことでやきもちを焼くのは流石にダメだわ。それに、ルシアンだって、今までの経過を考えて、もっと、子供の時にできなかったことをする時間をつくってからにしようって言ってくれたんだもの。」
しゅんとなる。でも使い魔の言うことも正しいのだ。
強引に結婚関係に持ち込んだのだから、もう少し強気に出た方がいいのかしら?お母様は、他の王妃より強気だったわね。
「落ち着いたら...落ち着いたら強気に誘うわ。」
思わず下を向いて言ってしまうのは、言える自信がまだないからだ。
使い魔の視線は昨日と同様に厳しかった。
ーーー
「ルシアン、お待たせです。これでどう?怖い魔女には見えないかしら?化粧してみたんだけど」
ルシアンと顔を合わせると、ルシアンが固まっている。
「ダ..いや、ダメじゃない。」
「ダメじゃない?いいわけでもない??」
「いや、いいけど...」
褒められてない気がする。
やっぱり口紅は赤にするべきだっただろうか?
「口紅をかえたらどうかしら?そうしたらもう少し良くなるかしら?」
「いや、このままでいい。このままがいい。これ以上、目立っては...ダメだ」
ルシアンの顔が少し赤い。
目立ってはダメ?ダメだったかしら?
「ルシアン、こう言う時にはちゃんと正直に言うのよ。言わないからラベンダーが泣きそうじゃないの。相変わらず進歩のない男ね」
ニャーーー!!と少し猫の喧嘩のような威嚇した鳴き声を出して使い魔が怒る。
ルシアンもハッとして慌てながら手を振る。
「ち、ちがう!化粧した姿は昔も見たことがなかったから...魔術師団は男が多いし、騎士団とかも王城は出入りするから、君に見惚れたら嫌だと思ってしまった。よく似合っている」
「なんか...言わせてしまったみたい」
「本当に違う!せっかく勇気を出してくれたのに。でも、他の男性にはあまり微笑まないでくれ。不安になる」
「そうそう、まだルシアンの方が進歩があるわ。ちゃんとやきもちを焼きそうだって伝えるだけマシ。そう思わない?ラベンダー??」
鋭い使い魔のツッコミに、私は閨の提案を思い出し真っ赤になる。
「は、はい。わかってるわ。猫ちゃん、まるで、お母様みたいだわ」
「おい、猫!あまりラベンダーにちょっかい出すなら、ヴァネッサ王妃と王のところに連れて行くぞ!あっちは、目のやり場に困るほどラブラブでみんな困っているらしいからな」
それを聞いて、使い魔は露骨に嫌そうにする。
「やあよ、あんたたちの初々しさがつまみになるのに、あっちは熟しすぎてて胸焼け起こすわ」
「じゃあ、いい子にしてろ」
そう軽口を叩きながら、みんなで転移陣にのる。
目を開けるとそこは、魔術師団本部で早速みんなの目線を感じる。使い魔は、私の肩になり、私も深呼吸。
ギクシャクしながらも、いよいよ勤務が始まった。




