95 いい子じゃない妻のわがまま
「おかえりなさい」
ルシアンはその夜遅く帰ってきた。
「遅くなってすまなかった。ご飯はもう食べたか?」
帰ってすぐ、私をみると同時にぎゅっと抱きしめてくる。
私はそれが嬉しくてたまらない。
これが私の欲で、私の想いなのだ。
「ルシアン、ルシアン、ルシアン!!」
胸に顔を埋めると、ふわっと香るルシアンの香りがして私は抱きしめ返した。
「ラベンダー、寂しかったのか?どうした?」
ルシアンは驚いたように声をかける
私の背中をポンポンと軽く叩き、しばらくそのままでいてくれる。
「ルシアン、わたしあなたが好きなの。」
「?ん??」
「もしあなたに好きな人ができても、きっとこの結婚印は解消しないってわめくわ」
「うん。あっさり解消しようと思われる方が困るからいいよ。本当にどうしたんだ?」
ルシアンは目を見開き、どうしたものかと私を見つめる。
そんな姿を見ると、やっぱりクラリス様に渡したくない欲がむくむくと湧き上がる。
「嫌な人になるわ。だって、今だってほんとは嫌なの。ここもクラリス様と一緒にいたことがある部屋よね。こんなに恵まれても私は嫉妬するの。
明日からは、外に出て王城にも顔を出すわ。
だって貴方が気づいてないだけで、もしかしたらクラリス様以外にも貴方を好きな人がいるかもしれない。魔女だから、ルシアン様を好きになったらみんなを呪いにかけちゃうっていうわ!そうしたら、私、すごく嫌な人になるけど、あなたは嫌いになる?」
「んん??ちょっと待て」
ルシアンは、いよいよ困惑した顔をして、困ったような動揺したように目を泳がせる。
そしてちょっと固まり、一呼吸考えるように視線を彷徨わせた。
「おい、猫!!ろくでもないことを吹き込んだのはお前か?」
天井に向かって怒りを抑えるように叫ぶ
「うーん、ラベンダー!だめだわ、あんたまだいい子だわ」
天井からびよーんと影が伸びたかと思うと、猫が形作られる。
「クラリスぐらいのなりふり構わない感じに比べると弱いわね。あんたよりクラリスの方が、まだルシアンを思っている気がするわ」
前足をぺろっと舐めて私を睨む
「やっぱりお前か?ラベンダーの様子がおかしいと思ったら」
「あら、この部屋はクラリスと過ごしてたのでは?ぐらいのかわいいモヤモヤすら口に出せないいい子ちゃんじゃ、また同じこと繰り返すわよ。」
その言葉に、ぎゅっと胸が苦しくなる。
まだクラリス様に負けてる...でも...これ以上はーー
「猫ちゃん、もっと私、嫌な女になれるわ。でも、そうしたらルシアン様に嫌われるかもしれない。それも怖いの。
だって、今も仕事が疲れて、ゆっくり疲れを取りたいだろうに、妻は昔の女のことを掘り返すのよ。
これ以上、嫌な女になるとルシアンはきっと困ってしまうし、休めない。続きはまた明日分割するわ」
使い魔は、はあっ?と言う顔をしてため息をつく。
「ラベンダー、君に言っておくがここは誰も入れてない。機密事項を対処するための家だからな。それから...俺に気遣いはいらない。このぐらいの嫉妬はむしろ嬉しい。分割も不要だが、嫌な女に無理してなろうとしなくてもいいし、嫌な女になってもいい。」
そういうと、
「おい猫!不自然に煽るのはやめろ」
と使い魔を睨む。
「それから、クラリスは君よりも貪欲なのは確かだ。それは俺に対しての愛情ではなく、君の地位に対して貪欲なんだ。だから成り代わろうとする。
今日、副団長や王たちとも話し合ったんだが、魔術師団で働いてみないか?私は君のことが気になって仕方ないんだ。これは俺がいい子じゃないから君に言うわがままだ。どうだ?」
私はその言葉に思わず顔をあげて、笑顔になる。
そばにいていいの?
働くことも許されるの?
「うれしいの。すごく嫌な女になっていくの。だって、私しかこの家に入ったことはないんでしょう?それが、こんなに恵まれても嬉しいの。
魔術師団ではきっと、魔女だから色々言われちゃうわ。でも、今度はあなたの妻だから隠れないように妻ってアピールするわ。お母様みたいに光の妖精を使って、自分を必死で光らせるわ」
私はルシアンにしがみついた。
「これは...だいぶ煽ったのにダメね」
使い魔のため息が聞こえる。
ダメだったらしい...
もっと強いアピールが必要かしら
「それ以前に、俺が妻にした人は君しかいないんだから、もっと愛されてると思ったらいい。だが、助かった。クラリスとクリスが何らかの反撃をしてくることはわかっているから気をつけたいが、いつまでも閉じ込められないからどうしようかと思っていた。
クラリスは結局王妃じゃないから、どこにいるかもわからない。それに俺の部屋に勝手に入ったぐらいの罪では、牢に入れることはできない。俺の過去のせいで迷惑をかけるが一緒に戦ってくれるか?」
私はコクコク頷く。
ルシアンは、ホッとしたように笑って再度私を抱きしめた




