93 守るための選択
俺ーールシアンは、結婚休暇後久しぶりの職場に戻った。
髪は短髪で黒髪になって現れたのだから、まわりの凍りつくような目が突き刺さる。
俺は幸せなんだからほっといてくれと思う。
「結婚してすぐに、魔女姫とクラリスがトラブってたわよ」
「綺麗な髪だったのに、ルシアン団長、髪が真っ黒だよ」
「変な呪いでもかけられたんじゃないか?」
ボソボソ言っても聞こえている。
こんな中でずっと過ごしてたんだから、ラベンダーが闇の妖精に隠れるはずだ。
「おい、俺の妻の悪口が聞こえるんだが...この髪は妻とは無関係だし、惚れ込んで口説いて結婚してもらったのは私だが?」
そう声の方向に告げると、みんなの目が固まる。
今までこんなことを言われて反論するような人間じゃないし、ましてや惚れ込んで口説くなんてクラリスの時にも使ったことがない言葉だ。
団長室を開けると、大量の決裁文書が山積みになりすでに机の上は作業をするスペースもなかった。
「今日はこの仕事がメインか?」
おそらく、今日から王も本格始動だから同じ状態だろう。
結局、
「私だって、ヴァネッサと再婚し直したから結婚休暇をとるんだ!」
と最後の最後まで、王は俺たちと共にラスカル前団長の家に居座った。
ヴァネッサ王妃の体調の心配もあっただろうし、娘と意識したラベンダーが可愛くて仕方ないと言う感じだった。
魔法陣の書き方を王から数日学んだラベンダーは、毎日毎日書き方や古代文字を必死で復習して、王に質問するのだから、そりゃ可愛いだろう。
だが、気になるのはーー
リチャードとクリス王子だ。
話を聞けば、リチャードは母の魔力こそ高いが、父の宰相のニコラスは平民だったからそこまでではない。
クリスも同様で、おそらく父は貴族なのだろう。だからそこそこの魔力はあったが、セレスティア元王妃は父が平民だったので魔力は高くない。
一方で、祖父が魔術師団長のラスカルで、王とヴァネッサ王妃から産まれたラベンダーは、とてつもなく魔力は高い。もちろん性格が勤勉なこともあるが、かなり魔法に関しては恵まれている。
知らなかったとはいえ、彼女と王子を比べるような指導をしてきたことに対しては、王子二人に申し訳なさを感じる。
王子二人の様子とクラリスの現状の確認をした方がいいな。
コートを部屋のハンガーにかけたところで、副団長のグレイとミハエルが飛び込んできた。
「ルシアン!って...髪が...ああ!そんなことは後回しだ。クリス王子が、クラリスを解放させて二人とも行方知れずだ。」
俺の手は瞬時に止まる。
「なに??」
「何度もすまない。クリス王子が牢までやってきて、彼女は私の監視下におくと。やった罪が、王妃が不貞行為を行う目的でお前の部屋への侵入したことだったこともあって、クリス王子が、クラリスは王妃ではないし、お前の部屋の鍵を返しに行って誤解を受けたと説明して解放させたんだ」
そう言われて仕舞えば、牢にとどめてはおけない。
事実王妃ではなかったし、そうなるとただの男女間のトラブルにされても仕方ない。
クリス王子は、今後廃嫡予定だが、出生の秘密を明らかにする予定はないという。そのため王城内では多少の力は持ち続けるだろう。
ラベンダーは城下のタウンハウスにこれでもかと防御を入れておいたし、クリス王子やクラリスに声をかけられたからって、家から出ることはないだろうが...
王とヴァネッサ王妃に現状の連絡を入れておく。
ラスカル殿にラベンダーの護衛をお願いした方がいいかもしれない。
だが、いつまでそれを続けるのかという問題が出てくるし、困ったな...
特にクリス王子からすれば、父だと思っていた王は父ではなく、母は蒸発、母の実家が面倒を見るといっても、歓迎されていないことはわかる。
出入りしていた他国が経営していた娼館も営業停止にしたし、廃嫡された王子は国の情報も大して持っておらず、価値はないとなれば今までのようにちやほやはされないだろう。
ラベンダーを襲おうとしたことといい、自暴自棄になっているのは間違いない。
クラリスも同様だ。王妃になれると思っていろんな人間を踏み台にしたが、結局、王妃にはしないと宣言された上に、俺も、リチャード王子も復縁は無理だった。
クリス王子は、クラリスを遊び相手としては歓迎するかもしれないが、本気にはならないし、もはや王を継ぐこともない。
俺に対して本気ではなかったくせに、なぜか、ラベンダーを何とか貶めてイメージを悪くしたいという行動が見えたし、俺もそれに反応して、ラベンダーこそがずっと自分の好きな人だったとみんなの前で告げたから、逆恨みしてもおかしくない。
「ミハエル、グレイ。私の妻の安全を確保するために何か良い方法はないだろうか?」
二人はクラリスがラベンダーへの中傷をしたり、ラベンダーの部屋が自分の部屋だと言ったり、ルシアンは自分が好きだと言い張る異常行動を知っているため、俺の相談を聞き顔が曇る。
「いっそ、ルシアンの目の前で過ごしてもらった方がお前も安心して仕事ができるんじゃないか?」
「魔女の魔法を見てみたい魔術師も多いだろうし、閉じ込めるぐらいなら、魔術師たちと交流させてみんなに守ってもらう方が安心だよ」
そう言う二人に、俺は思案する。
「王の許可はいるが、試しにここで一日過ごしてもらおうか。」
ずっと隠して閉じ込めたい衝動に駆られるが、彼女が自分に自信をつければ、俺よりも実は強いんだよな...
俺は、どんな選択をしても後悔する気がして心がざわついていた。




