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【完結】天才魔術師団長は天才魔女姫を守れない  作者: かんあずき
第三章

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92/124

92 思い出せない人

それから1週間ぐらいすると、母もまだ青白い顔をしながらも、室内を歩くようになった。


「魔力を使うこと、激しい運動は避けてくださいね」


医師からそういわれて「ちっ」と舌打ちをする母ヴァネッサをみて、みんなやっと元に戻ったと安心する。

「とりあえず、物理攻撃は禁止だが、まあ良かった」

「ちょっと、一応王妃よ。なんか舌打ちで安心されるって、極悪王妃みたいじゃないのよ」

「実際、他の王妃に喧嘩を売る姿は極悪王妃そのものだろうに。」

父はため息をつく。

父がいうには母のイメージはいつもツンツンして周りに当たるように見えるが、物言いがきついだけで、基本は他の王妃様以外には当たらない。というより、他の王妃がヴァネッサにちょっかいを出さなければ攻撃しない

誰かから何か言われても、堂々として言い返さず、じっと見ているのみ。それだけで恐怖を与えるらしい。


あとは、私への教育は厳しかったけど、戻ってきてから段々沈み込む私を誰よりも心配して森に行かせてあげたいと願ったのも母らしい。


「普段は、意外かもしれないが畑で泥だらけになりながら薬草を育てたり、勉強机でずっと魔術の本を読んだり、いろんな薬を試している。これからは私との生活がずっと続くから、もう少し会話の時間も増えるかもしれないがな」


父は、愛おしそうに母を見ている。

やっぱり父は母がとても好きだったのだ。

平等にと自分の気持ちを押し殺すのは苦しかったに違いない。


「他の王妃様にだけって...ヤキモチ?」

私が小声で父にそういうと

「きこえてるわよ!そんなわけないでしょう。あの不細工な嫁二人が嫌味ばかり言うからやり返してるだけ」

と母の怒りの返答が返ってくる。


だけど、二人の距離感がグッと近づいたのは私にもわかる。


私の出生のことでずっとわだかまりがあったのよねーー

自分ではどうにも出来ないとはいえ、申し訳ない気持ちになる。

それに気づいたのか、ルシアンがそっと肩を抱いて微笑む。

私といる時には、いつも私の様子や変化にすぐ気づく。

長く護衛をしていたら、分かると言われたがそうなのだろうか?


「みんなが一気に帰ると寂しくなるな」

ラスカルがため息をついた。

母が娘と分かったものの、実感はないし、何を言っても祖母の記憶が全くないらしい。


「頭にずっと残っている女性なんだ。彼女以外に娶る気も起こらないと思っていた。どんな人だったかと言われたら、ヴァネッサに性格は近かったんだが...名前も顔も全く思い出せない。ヴァネッサに性格が近いと思ったのも血縁関係が出てからの話で、それ自体思い込みなのかもしれない」


ラスカルは肩を落としている。

ヴァネッサも、そうなのよねと頷きながら同意する。


「実は私もなのよ。お母さんが教えてくれたことは残っている。そして、見送ってくれたことも...なのに、顔も思い出せない。家にもその記憶の断片もなくて、森に帰ってから余計に辛かったことを覚えているの」


母も祖母の話をする時は辛そうだ。

名前すら思い出せないらしい。


「きっと、そう言う魔法をかけられたのね。でも、娘にも娘の父親にも自分のことを思い出してもらいたくなかったのかしら?そう思うと、なんだか私は望まれてなかったんじゃないかと苦しくなることがあるの」


母が遠い目をしている姿は、かつて誰かに好きになってもらいたいと寂しくて外で月を見ていた自分と被る。


「望んでたって思いましょ。だって、それがあったから、ラスカル様がお祖父様で、お父様もいて、ルシアンもいるんだもの」


私は慌てて母の手を握る。


「あらあら、娘に慰められるようになってしまったわ」

母が笑う姿を、目を細めてじっと見つめるのは使い魔だった。

「猫ちゃんは、お祖母様のことを覚えてるの?」

そう聞くと、ソファーから降りて伸びをする。

「私が覚えているのは命令内容だけよ。後は、対価ね」

「お祖母様の対価ってなんだったのかしら?お母様が帰ってきたら猫ちゃんがそばにいられるようにって使い魔を先に作ってくれたのよね?」

「やあね、ラベンダー。他の人の契約は教えられないのよ。でも、それ以来私は彼女と会ってないし、何も知らないわ。ラスカルも、昔の女を思い出そうとするより、新しい出会いを作ったら?」


ラスカルが目をぱちくりする。


「いやいや、使い魔殿。すでに孫が19歳で、結婚したというのに、今更祖父の私が出会いなんて!!よっぽど、ひ孫を抱ける方が早そうです。それにヴァネッサとの仲を誤解されるのは困りましたが、血縁関係があるものが側にあると分かっていたのでここまでの人生は楽しかったですよ」

そう笑う姿を使い魔は見ながら、

「ラスカルって欲がないのねえ。ラベンダーの大人しいのは祖父の貴方似ね。そっくりなんだから」


そう言って、じとっとなぜか父と母を眺めたのだった



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