90 家族が増えた日
「では、私は本当に娘だったのですね。良かった」
私ーーラベンダーはそれを聞いてホッとした。
そして、ラスカル様というお祖父様も、ルシアンという夫もできて家族が一気に増えた。
「こんな夢みたいなことがあってもいいのかしら。魔術のことも教えていただけるのよね。」
「ああ、なんでも教えてあげる。そんなことで私の罪は軽くならないがわかることは教えてあげよう」
お父様はニコニコ微笑んだ。
嬉しい!夢みたい!
いつも誰も声をかけてくれる人はいなかったのに...
「これが夢なら覚めなければいいのに...」
私は夢見心地でいうと、お父様は少し切なそうな顔をして、ルシアンは慌てた。
「目を覚ましてくれないと、俺は困る。これから新婚生活が始まるんだからな。だが、何を一番知りたいんだ?わかることなら先に教えておくが...」
「ええと、転移魔法ね。魔法陣はかけるんだけど、うまく着地が出来なくてこのあいだみたいに怪我しちゃって」
えへへと微笑むが、お父様の顔が一気に険しくなる。
「おい!ルシアン!ラスカル!お前たち、ラベンダーにどんな転移を教えてるんだ?」
ルシアンとラスカルは顔を見合わせる。
「子供の時にちょっと私は書き方を教えただけだが...」
「私はこれから教えようとおもっただけで、浮遊魔法しか教えてないが...」
「あれ?私、ラスカル様に習った気でいました」
「えっ!!だめだよ!あれは魔法陣の書き方として例題に書いた陣にすぎない」
ラスカルは慌てて手を振る。
お父様はそれを見て真っ青な顔をする
「おい!一から教えるからそれなら全て忘れろ。頭を強打してたんこぶ作って、背骨は折れて動けなくなってたぞ。運良く私のところではベッドに落下したから良かったが、普通死ぬところだ」
「えっ!!」
今度はルシアンが真っ青になる。
わたしも、死ぬと聞くとぞっとして空間バッグから書いておいた魔法陣をすべて出してみた。それを三人は見つめる。
お母様も見ようとするが「魔法陣って細かくてよくわからないのよね」と首を傾げていた。
「これは...だめだろ」
「円の輪っかが切れてる。転移中、どこに落とされても文句は言えない」
「この隠蔽魔法をつかったら、半分だけどこかにいってしまうぞ」
「古代文字の途中が、みみずになっている。」
「これは...防御するはずなのに、肝心の防御指示が虎を召喚する指示に変わっている。喰われるぞ」
三人が言葉を失っている。
そこまで酷かったのかしら?
「書き方を教えてもらえたらちゃんと書けるわ。虎に守ってもらおうと思ったんだけど、まずは出てきてもらわないといけないでしょう。その後飼い慣らして、守ってもらったらいいかと思ったの」
「飼い慣らすまでに防御がいると思うが...」
ルシアンは、片方の眉を上げて固まっている。
「輪っかがあちこち切れているのはどうしてだい?」
「それはインクが切れたからよ」
ラスカルも、そう言われたらそうかというしかない。
「輪が切れると指示も切れるから、天井から落ちてしまったのだろうな。ヴァネッサ、お前も久しぶりに一緒に魔術を学んではどうだ?」
お父様は、お母様に声をかけた。
なんだか二人は仲良くなったみたい。
とてもうれしい
思わず笑みが溢れるが....
「やあよ!古代文字?そんなもの学ばないわ。ラベンダーも考えてもみなさいよ。あんなに緻密なものを描いても、少し私が木槌で叩いただけで割れるのよ」
お母様はブンブン首をふる
「魔法陣だと言っているのに、古代文字と答える段階でお前が覚えていないことがわかるよ。ほんとに」
お父様はため息をつくが、そこにカチンときたお母様と言い合いが始まる
「古代文字なんて、一文字間違えたらもう違う指示になってしまうでしょ。そんなものなんてそもそも使いません!」
「だけど、今回みたいに転移したかったら魔法では無理だろ。また怪我したらどうする?隠蔽魔法は気づかれないけど、闇の妖精だと、黒塗りで気づかれて、変な目で見られるだろう」
「転移は無理だけど、風の妖精に高速移動で吹っ飛ばしてもらうことはできるわ」
「どこに吹っ飛ばされる気だよ」
「うるさいわね、元気になったら一番に吹っ飛ばしてやるわ」
どこまでもエンドレスに夫婦喧嘩は続く。
仲良くなったと思ったんだけど....
おかしいな??これが二人の仲良しなのかしら?
「まずは専用インクを準備した方がいいな。」
「紙も、魔法紙の方が間違えていた時に発動を防いでくれるから安全ですね」
ラスカル様とルシアンは魔術師団長だけあって冷静だ。
「練習したらかけるようになるかしら?」
「ああ、せっかく俺の魔力も入ったんだから、うまくいけば空間にも描けるようになる。早速一緒にインクを買いに行こう」
そう微笑むルシアンに心が温かくなる。
ルシアンも肩に手を置き、頑張ろうなと声をかけてくれるのでホッとした。
「それで、本題なんだが...」
ルシアンが声をかけ、お父様が、表情を引き締める。
「今、王城の牢屋にクラリスがいる。ラベンダーへの敵対心や王家へのこだわりが強いが、俺の部屋に勝手に侵入したり、リチャードとエリザベート王妃を追い出そうとしたり、捕まっても魔術師団を騙してラベンダーの部屋で待機しようとしたりして、ラベンダーへの攻撃をいつするかわからない危険が大きい。
クリス王子にも襲われかけたが、彼女には護衛もいない。
私としては、城下にある私のタウンハウスを新居にしたいが仕事に行っている間彼女を一人にするのは心配なんだ」
「第二王妃とは離婚する方向で考えているが、今後もクリスがラベンダーを更に敵対視する可能性は高いな」
お父様はお母様と頷きあう。
「ルシアンとラスカルにも知ってもらっていた方がいいな。特に兄二人が私の子供ではないことは、すでにラベンダーには伝えているわけだからな」
私は、ハッとする。
ルシアンとラスカルは、えっという顔をして目を見開いている。
自分は父の娘だったという。
お兄様たちも、実はやっぱりお父様の子だったということはないかしら?
だが、話を聞けば聞くほど驚くことが多く、お兄様はやはり血のつながりはないと知る。
そしてニコラス宰相が、エリザベート様の肌が赤く爛れた時に私を睨みつけていたのは、愛するエリザベート様に危害を加えたと誤解されたからだったのね。
自分が辛かった日々の裏でそんなことが起きていたとは...と驚くことの連続だった




