9 魔術師団長、姫の護衛を命じられる
俺ーールシアンは、ラベンダーとの会話を終わり、室外に出てほっと一息をついた。
久しぶりにみた彼女は、俺にとってはあらゆる面で衝撃を与えた、まさに人生に影響を与えた人である。
もっとも、本人はそんなことは知らないだろうがーー
ーーー
辺境伯第五子、かつて隣国との戦争が絶えなかったこともあり、防衛線となる領地を守れる強い血筋をーー
そうして産まれた俺は、隣国との戦争が終わって、第一子や第二子よりも高すぎる魔力と能力をもって産まれてしまった。
「第五子でよかった。これが家督争いに近すぎる順位なら、火種になるところだ。魔術学校に入学して、将来は国のために役に立て。それがひいては我が家の繁栄につながる」
父にそう言われて、高すぎる魔力と能力は家族の迷惑になると知った。
来る日も来る日も寄宿舎で勉学に励んでいた。
周りの生徒が親や兄弟、友達と関わる姿を見て羨ましいと感じていたのは最初だけーー
帰省しても、日増しに力を持ってしまった弟を疎ましく見る兄、どう扱おうか困っている両親をみると、どんどん休暇も領地から足が遠のいだ。
自分が化け物と言われるまでの成長を遂げていることには気づいてなかったわけではない。
「お前生意気だな。態度が偉そうなんだよ」
そう絡まれたのは3桁の数字では足りない。
だが、手を出さなくても防御を張っておくだけでみんな自爆するのだ。気づけば何人も病院送りにした問題児になっていた。
手は出してないので退学にもならない。
防御の発動を提示するだけでいい。
だが、そうなると自爆した上に、新たな罪を与えなければいけなくなり貴族子息たちの中でもあっさり浮いてしまった。
予定通り、卒業したら国の役に立つために魔術師団に入団する。
この時には、すでに名前は知られており、俺はすでにヒールだった。会ったこともない奴からも勝手に敵視され、関わったことのない上司から問題のある烙印が押される。
先輩魔術師からは嫌われる上に、教えを乞うようなレベルでもない。
そんな俺に、魔術師団長のラスカルから呼び出しがかかったのだ。
「魔女の護衛?」
座学の授業で、魔女についても学ぶ。
だが俺はまだ出会ったことがなかった。
「この国では第三夫人だけが魔女だったんだが、その娘も魔女の片鱗が見られているようでね。女の子だから、次の王の可能性がある王子たちとは別の教育を受けている。まだ10歳のかわいらしい姫だ。その子がいよいよ外に出て修行するらしいんだよ。その護衛をしてみないかい?」
みないかい?と言っても、決定事項だろうにーー
俺は頷くしかなかった。
「但し...これは姫の修行の場だから護衛をしていることは絶対本人に知られないようにすること、姫に害をなさないものであることというのが条件で...その、第三夫人と戦って第三夫人が認めたものという条件だ」
「魔女と...戦い方に違いはあるのでしょうか?」
第三夫人だ。怪我をさせてはいけないだろうーー誰も受けたくない理由はソレか。
ひたすら、傲慢な妃にフルボッコにされるなんて誰も引き受けたくないに決まっている
「何もない。審判は王だ。手は抜く必要はない。というよりも、手を抜くような奴は護衛にできないそうだ」
審判が王という段階ですでに平等ではない。
本気を出したら、王妃は死んでしまうだろう。
本気を出さなかったら、命令に背いたと言われても仕方ない。
(これは、詰んだな)
ラスカルが、俺が護衛を了承したあとにこの提示をしてくるあたりもいやらしい。
俺は、せめて魔術師団長ラスカルの目を逸らさずじっと見つめるぐらいしか抵抗は出来なかった。
ラスカルはそんな姿を見てふっと笑う
「ルシアン、お前ヴァネッサ王妃に勝てると思ってないか?先に言っておいてやろう。俺はあの人には敵わない」
俺は思わず目を見開く。
魔女...というのはそんなに強いのか??
人生で、負けた経験をほぼしたことがない俺には、ピンとこなかった




