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【完結】天才魔術師団長は天才魔女姫を守れない  作者: かんあずき
第二章

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88 愛せなかった父と、愛されなかった娘

過去、なぜ白い結婚になったのか――。


事情を語り終えると、ヴァネッサは大きく目を見開き、頭を抱えた。


「……あんた、バカなの?」


「どうにもならなかったんだよ」

俺は苦く笑う。

「エリザベートの実家は貴族を抱き込み、父に退位を迫っていた。

セレスティアの家は商会のパイプを使って、弟のやらかしたタリー国との交渉に動いてくれた。賠償金は免除、代わりに弟自らの政治的奉公。タリー国は弟をテレサ姫の“下僕”として扱うことを望んだらしい。そのおかげで、王家は経済的に救われた」


「で、セレスティアの家は、あんたを王位につけて娘を王妃にしたかった……そういうことよね」


「そうだ。だが――二人とも俺の子じゃない」


そう言うと、ヴァネッサは呆れたように睨んだ。


「わかってる? その重さ」


「分かってる。けれど証明できなかった。白い結婚だったと知るのは俺とそれぞれにあの二人だけだ。王家の魔力や遺伝子は秘匿事項だから検査もできない」


「じゃあ……なんでラベンダーだけ検査されたの?」


ヴァネッサは、ささくれた声で問う。

俺の遺伝子で検査できない。だから俺以外で国内で一致するものがいないかを検査したのだ。

本当なら該当なしがでるところだった。


「疑うこと自体許されないと分かってた。でも……あの二人は“後継さえ産めば干渉しない”と約束しておきながら、他の男との子供を産んだ。

それなのに、俺との子ではないと知りながら自分の息子を王にしようと争いだした」


ヴァネッサは忌々しげに鼻で笑った。


「あの二人なら当然だわ! なんで私に早く言わないのよ! ぶっ飛ばしてやったのに!『別の男の子どものくせに騒ぐな』ってね!」


あまりの剣幕に、思わず吹き出す。


「そう言うと思って、余計に言えなかったんだ。

君を迎えた時――やっと家族ができたと嬉しかった。君はすぐに俺の子を身ごもって、今度こそ普通の結婚だと思えた。

なのに、二人の争いを見ていると……不安が湧いたんだ。

“もしかして君にも、俺の知らない男がいるんじゃないか”って」


ヴァネッサは一瞬、呼吸を忘れたみたいに黙り込んだ。


「そして……ラベンダーがラスカルとの子だと判明して、あなたは変わったのね?」


「……そうだ。最初は父母が俺を陥れようとしているのかと思った。でも二度目も魔力が一致し、ラスカルが父親だと言われて……“結婚してすぐ、君たちは出来ていたのか”とまで思ってしまった。みんなどの子も俺の子じゃない。それなら育てるなら平等に、と。」


ヴァネッサの頬が、怒りと羞恥で赤く染まる。


「平等って子供のことだったの?あなたの愛を競い合ってるんだと思って、わ、わたしバカみたいじゃないの。王妃二人をどれだけ牽制して罵ったと思ってるの?」


「二人は、俺がヴァネッサを好きなことは知ってるから、寵妃の子供を女の子とはいえ王の座に座らせたいのだと思われて王妃たちは君に喧嘩腰だったんだ。あと、お前には白い結婚であることが知られていると怯えていたようだ。お前は、俺の愛情の牽制をしてくれていたんだろうが...」


ヴァネッサは青白い顔色の中で、少し頬が赤くなった。


「それなら、な、なんで??なんで突然離婚を許したり、ラベンダーと関わったりしたの?」


ヴァネッサは横になったまま、ぎゅっと再びこの俺の腰に回した手に力を入れた。


「一つは弟がまともになって、結局テレサ姫と結ばれたんだ。子供が二人いて男児だ。一人はタリー国に残すとしても、王子二人より、弟の子供に王位を継いでもらった方がいいかもしれないと考えた。

もう一つは、俺が三人の子供の関わりを終わろうと思ったことだ。

そしてもう一つは、第二王妃のセレスティアが半年前から男と蒸発してしまったことだ」


「はあっ!!」

ヴァネッサは驚き慌てたように再び起きあがろうとする。

「や、やっぱりちゃんと聞きたいわ。ベッドで横たわって聞くことじゃないわ」

「横になっても縦になっても聞く内容は一緒だぞ」

「おバカアレク!そういう問題じゃないのよ」


ヴァネッサは、ゆっくりベッドを背もたれにして座り直す。

俺はヴァネッサを見つめて謝った。


「謝って済むことではないが謝りたい。俺は3人の子供を自分の子供とするのなら、平等に愛すると決めた。

ところが、俺の心は平等とはいかなかった。クリスとリチャードには王になるための勉学や声かけを行っていた。元々この二人の母親には何の思い入れもなかったので、子供にも冷静に対応できた。ただ、この二人は...ラベンダーのいう通り、王としては不適格としかいいようがなかった。


ラベンダーにも二人のように関わる予定だった。だが、君とラスカルの子供だと思うとそれだけで、腹が立って、苦しくてたまらなかった。ラベンダーが一人でいるところも、妖精と話しているところも、周囲が悪くいうところも、孤立しているところも見ていたのにだ。お前が魔女の特性上厳しく接するなら俺が優しくしてやらないといけないことも知っていたのに...」


なんてことをしたんだと思う。

俺とヴァネッサのかわいい待望の子供だったのにーー

俺は魔女の修行すら見送りもしてやらなかった。


「時々ラベンダーが小さい時に、ラスカルが声をかけ、魔術を教えているのを見た。それを見ると余計に憎しみが湧いてしまった。本当は俺が子供に教えてやるはずだったのにって。そして、修行に護衛をつけるようにラスカルが言ってきたときも同様に腹が立って勝手にしろと思ってしまった。

でも、修行から帰った後、ラベンダーが周りと馴染めなくて、森に篭ってしまってから俺はやっと自分がしでかしたことの大きさに気づいてしまった。

その頃から、ヴァネッサ、君からも離婚の願いが出るようになった。お互いが結婚を続けても壊れ合うだけだとわかってきた。」


「そうね、なんとかしないといけないって。離婚してとにかくここから離れないと、ラベンダーの父親を証明してあげられない。魔女だけど父親は誰か?ちゃんと証明してあげたかったの。

そうしないと、私もラベンダーのことを憎んでしまいそうだった。ラベンダーさえいなければ私たち二人は幸せになれたんじゃないか?と思ってしまったし、どうして魔女の技術を全部受け継いでるのにそんなに自信がないのか?この間のクリスに襲われた件もそうね、なんで素直にやられているのかと腹が立ってしまった。

でも当然よね。私は修行に出るまで母の指導だけじゃなくて母から愛情も受け継いだ。私は...あの子に指導はしても、森にいる時のような充分な愛情をかけてあげられてなかったわ」


ヴァネッサは目尻から涙をこぼしていた。

ここまでヴァネッサを追い詰めたのは自分なのだ。

俺は、胸が苦しくて、ヴァネッサとラベンダーにすまないという気持ちでおかしくなりそうだった。


「可愛がらなかったせめてもの償いに、ルシアンを夫にしようと思ったんだ。あれは、若い時の自分にそっくりだったから。きっとラベンダーに愛情をかけてくれると思った。

ただ、ルシアンには、ラベンダーが森にあった後に知り合った別れた恋人のクラリスの存在があった。その恋人は、クリスとリチャードにも手を出していて、私の妻になる画策をしていることを知った。

やめておけばいいのに、私はまたラベンダーとルシアンの幸せを望みながら、同時にヴァネッサと自分は幸せになれなかった恨みを、再びラベンダーに見てしまった。

その気もないのにクラリスを王妃にすると宣言してしまった。もちろん大勢の臣下の前で結婚する気はないことを告げたから王妃になることはない。

ルシアンはどうせ心揺れないと思ってたんだが、思った以上にこの二人に亀裂を作ってしまった。」


俺は大馬鹿者だよーー

愛する人と、その間に生まれた子供をこんなに傷付けて...


「ちょっと早くに関われば良かったんだ。

ラベンダーと魔獣を二人で退治していたら、思った以上に繊細で優しい子で...俺は関わってなかったから知らなかった。一人前の魔女なのに知らないことがたくさんあるし、怪我も絶えない。使い魔にいいように対価を与えてしまうから色々教えてあげないとって...実の子だなんて知らなくてもそう思えた。早く関わってやれば良かった」


ヴァネッサの頭を撫でながら彼女に伝えた。


「セレスティアの蒸発、クリスが国を巻き込むような問題行動をしたことは、すでに彼女の実家に伝えてある。これに合わせて、白い結婚であることも伝えたんだ。

この間のクリスからラベンダーへの危害は、自分が俺の子供ではないことを知ったことによるラベンダーへの怒りだと思う。

クリスには、世間向けには俺の子供として扱うが、セレスティアもいなくなってしまったし、王位継承はないことを告げていて、セレスティアの実家からは同意を得た」

「じゃ、じゃあどうするの?エリザベートとだけこのまま婚姻を?」

「エリザベートとニコラスにも、私との離婚後、再婚を勧めようと思う。

ニコラスも宰相になった時に一代ではあるが子爵の貴族身分を与えているから、退任する時にもう一つ昇爵させてやれば結婚も可能だろう。

リチャードも王にするのは問題がありすぎる気質なんだ。だが、エリザベートの家に離婚を同意してもらうのは難しいから、いよいよ私の魔力と血液の遺伝子で、リチャードとの検査を実施するよ。

王を辞めるなら私の遺伝子情報が多少漏れてもいいだろう。その検査を見せて外向けには私の子にするが王位継承はさせないといえば納得するだろう」


「そ、そうしたら..あなた一人じゃないの!」

ヴァネッサが悲痛な声を上げた






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