85 王家の嘘婚
「ヴァネッサ、それならせめて食べられそうか?少しでも体力をつけた方がいい」
「食べられるわけないでしょう。吐いたばかりよ!」
布団をかばっと上げて、ふんっと顔を向ける。ラベンダーより子供だ。
森には行きたくないと駄々を捏ねるし、ご飯は食べられないというし...
ラベンダーがどうしましょうとルシアンの顔を見上げている。
「ルシアン、森にはいれるんだったら、あそこの果物やミルクをとってきてやってくれないか?」
俺はため息をついた。
「ああ!確かに。綺麗な魔力だし、あれなら食べられそう。」
ラベンダーが手を叩いて頷く。
「私も取ってくるわ。お母様、お父様と仲直りできてよかったわね」
「だから、仲直りしてないの!離婚したんだから!!」
ヴァネッサが睨みつけようとラベンダーを見た時には、ラベンダーは嬉しそうにルシアンの腕に手を絡めていて、ルシアンも見たことないぐらい破顔している。
そのまま、手を振って部屋を出ていった。
その姿に、まあいいかと思う。
ルシアンと自分は似ていると思ったが、見た限り自分のような間違いはおかしそうにない。
かつての自分も同じような顔をしていたのだろうか。
そう思うと、無性に苦しくなる。
「娘が幸せそうにしてるんだから、そんな顔しないでよね」
「あ、ああ。お前にもあんな幸せあげられたらよかったのに...と後悔したんだ。森に入れた時、やっと認められて君を幸せにできると思ってたのに。すまなかったな。」
ヴァネッサに起きるか聞くと、座りたいというので介助する。座るとやはり気分がすぐれないようだ。
「やっぱり横に...」
支える手を、おろそうとするとその手をヴァネッサに掴まれる。
「ねえ、エリザベートとセレスティアとは白い結婚だと言ったわ。ラベンダーの親子関係を突然調べようとしたのは、そのことと関係があったのよね」
しばらくお互いの中に沈黙が落ちる。
それは肯定だった。
俺は頷いた。
「ああそうだ。君には全て話さないといけない。」
◇◇◇
「とりあえず、毎日通う。そして、あったことを伝える。だけど...ヴァネッサ以外の女性も娶ることになるから、森が俺を受け入れる許可をしてくれるかどうかはわからないな」
森の入り口を見てアレクはため息をつく。
普通に考えて、可能性ゼロだ。
だが、ヴァネッサを娶るなら、自分が王になる。
そうしないと王族の結婚に必要な結婚印を体に打ち込めない。王族は、正式な結婚、血筋を証明するために結婚印を王が入れることで成立する。
父はろくでなしな上に王家の血筋に魔女を入れることを認める性格ではない。
だから自分が王になって、自分でヴァネッサとの結婚印をいれるしかない。
全てを放棄して、彼女を口説き、駆け落ちするかも考えた。だが、王族の駆け落ちなんて、短期間ならともかく良いことにはならない。
匿ってもらう国も探さないといけない。
そもそも、ヴァネッサはまだ自分に惚れてくれてない。
森という存在に認めてもらえたら、一時的には身を隠すのに手伝ってくれるかもしれないが、その後子供も含めて生涯森から出ないのかと言われると現実的ではない。
ヴァネッサを手に入れるには、他の女性を娶る。
不誠実だが、一番現実的だ。
ただ、それだと相手にも申し訳ないから、相手にも好きな人がいて、その人にも自由な恋愛をしてもらおう。
俺はそう決めた。
一つは、公爵家の娘、エリザベート
父親は三代前が王の弟か。
ここの両親は、血筋のみが利点。所詮おぼっちゃまなので、新しい事業に手を出しては失敗しており、金回りは実は良くない。
だから金があり身分の良いところへ嫁がせたいた思っているが...
こっそり隠蔽魔法で調べていくと、当の娘のエリザベートは自分の侍従と恋に落ちている。
王家の縁談なら両親は乗り気だろうし、エリザベートもどこまでも恋が思い通りになるとは思っていない。
侍従も自分の手元におけばいい。
俺との結婚を提案してみる価値はある。
もう一つは、この国の商業王の娘、セレスティア。
祖父の生まれは平民。その後我が国の発展に貢献したことで祖父、父と昇爵。現在は、伯爵の地位にある。それこそ、金で身分を買い続けているぐらい、後、欲しいものは身分だろう。
金を稼ぐことには先見の明があり、交通、食料、金融、医療、美容といった、平民から貴族を相手にあらゆる産業のトップを走る。
王家も父母や弟がやらかしているから、経済的な助けや知恵は欲しい。
問題はセレスティアの奔放さ。セレスティアはお金には困ったことがないお嬢様なのだ。それこそ、隠蔽魔法でみなくても、ちょっと注視したら札束を気に入った男の懐に入れ、そのまま消えて行くのが見えた。長く誰かと付き合う姿はない。社交界でも、いつも相手が変わる。
それが悪評になっても気にしない。なんだったら、悪く言う女たちの夫を寝取る悪どさ。
結婚さえしてくれれば、子供だけは作らないように気をつけて、自由にしていいといえばいいのではないか?
そもそもセレスティアを紹介してくれたのはエリザベートだ。おそらく、自分ではなくセレスティアと愛を育んでくれということだろう。
第一王妃が納得なら一番いい。
王の後継はエリザベートにお願いしたらいいのだし。
この二つの家と縁を結び、父に退位を迫るーー
そして、弟はタリー国へ政治的奉公という名の人質に出す。
自分が遊んで捨てた姫さんの使用人になって苦労したらいいんだ。
俺がヴァネッサを手に入れるのにこんなに苦労するのに。
俺は、それを実行に移す。
父も母も結婚に驚くが、公爵家なら問題はないとエリザベートは承認した。
それから半年後、セレスティアとの結婚について告げると眉を顰められたが、着服したお金のことを告げて、経済的支援を得られる婚家を身につけて置くことの良さを伝えるとしぶしぶ父は頷く。
こうして、俺は、予定通り第一妻と第二妻を手に入れたのだった。




