82 運命に縛られた二人
森の中に吸い込まれるように入ったメッセージは音声になって返ってくる。
「ちょっと待ってて!」
ヴァネッサの声だ。
ほんとにこの奥に住んでるんだ。
目の前には隙間もない木々の枝がぎっちり詰まっていて、目印に2本の大きな木がとてつもない魔力を放っている。
鑑定をしても、その魔力がどう活かされたり張り巡らされているのかはわからない。
目印??
魔力を持っているものだけが分かるものだろうか?
山道が通っているが、周囲のものは誰も違和感に気づくこともなく普通に行き来している。
認識阻害...??がかかっている感じはない。
人は自分に関心がないものには気づかないのか?と思わせる。
しばらく待つと
「お待たせ。中に入ってもらえたらいいんだけど」
猫を抱え、目が真っ赤になったヴァネッサが出てきた。
「どうした?やっぱりお母さんのことで辛くなったのか?」
俺は慌てて駆け寄った
「なんで、私がお母さんのことで辛くなったとわかるの?」
「帰ったら魔女は一人って行ってたから。頑張って修行から帰って迎えがないのは辛いだろう」
ヴァネッサは、俺に抱きついてくる。
俺も、そのまま優しく抱きしめた。
ふんわり、ハーブのような自然の香りがする。
心地がいいような、彼女に似合う香りでほっとする。
「わかっていたのよ。だって、母は身体が弱かった。だけど、森が守ってくれるんじゃないか?私が一人前になって帰ったら元気になってるんじゃないかと思ったの」
「お母さんは?」
「いなかった。最後に安全な使い魔を作っておいたから、寂しかったら呼ぶようにって。魔女は、魔を使役できるから。」
「魔って、あの悪魔とかの魔だよな?」
話では聞いたことはあるが...絵本で子供の頃見たことがあるのは、黒い影がビヨーンと伸びるようなイメージだ。
それを伝えると、苦笑いしてヴァネッサが抱っこしている猫を見せた
「これよ。この子」
シルバー長毛のゴージャスな猫が腕にいる。
「魔...だよな?なんかイメージと違う。黒猫じゃないのか?」
俺はおそるおそる見る
「ニャーーー!人のことジロジロみるんじゃないわよ!」
「うわっ!喋った」
慌てて離れるが猫は俺のことをじーっと睨んでいる。
「使い魔って猫なんだな」
「なんでもいいのよ。だけど鳥だと家のなかで自由にはしにくいし、犬だと箒に一緒に乗る時にしっくりこないというか...とかげとか蛇も考えたんだけど、使い魔って姿を見せることも消すこともできるから、街の中ではちょっとね」
ヴァネッサの説明に妙に納得する。
蛇を首に巻いて箒で飛び回るとか、家の中で振り向けば蛇がいるみたいなのはちょっとな。
鳥だとフンが落ちてきそうだし...
「なんかムカつくわね。あのね、おトイレとか使い魔は不要なの。」
使い魔が、ニャーニャー騒ぎながら抗議する。
「なんだよ!なんで勝手に人の考えを読むんだ!」
俺はギョッと使い魔の喋る猫を見つめた、
見た目は完全に猫だ。
「考えなくても、鳥だとフンが上から落ちてきそうとか思ってる顔してるからよ!」
「どんな顔だよ!なあ、ヴァネッサ、もう少し優しそうな口調の使い魔にならないのか?ビジュアルの問題じゃなくて、こいつは性格の問題だと思うんだ」
「うーん?ビジュアルは変えられるけど性格はね。替える方法わかんないや。でも、猫っぽい性格で良くない?私はこの子が好きなの」
「好きなの」といわれると、俺もと言ってやりたいが...
絶対、黒猫じゃない段階でこだわり強そうな魔だってーー
「家、帰って困ることないか?足りないものとか。今度はいつ街に出てくるんだ?」
俺は矢継ぎ早に質問する。しかし、なんかヴァネッサの表情が冴えない。
「足りないものはないわ。森にいたら一通りの生活はできるもの。前もあったように、子種をもらうことを考える時に出ると思うわ。だけど、しばらくは母がいない生活に慣れて、自分が同じように母になれるか考えてからね」
帰って行く時とは違う。
今は少し迷うようなそぶりで俺から目線を逸らす。
「そ、それさ、絶対もらわないといけないわけ?自分で好きな時に好きな人と付き合ったり、結婚したらいいじゃん」
「時期は決められてないんだけど、若い時の方がもらいやすいって聞くから...魔女は絶滅危惧種だから、ルールとして必ず後継を作ることは条件なの。修行に出せるまで育てたら子育ては終わり。あとは、その子が魔女になれるのを祈るしかない。」
「で、でもさ!絶対じゃないよな。魔女はこうした方がいいって話だろ?」
「絶対だよ。それを守らなかったら、私は魔女の世界でペナルティを受ける。世界中に魔女の指名手配がされて、連行される。連行された後を知ってる人はいないけど...いないってことは殺されるのかな?よくわかってないけど人間で言う刑務所行きみたいな....」
俺はゾッとした。
生まれた時から王以外の道は選べない。
生まれた時から、王の後継を作る。
逃げたら...騎士団や魔術師団がどこまでも追ってくるだろう。殺されはしないだろうが...俺と一緒だ。
「なんか...アレク??あんたも何かあったんじゃないの?表情が暗いしさ。友達ってそういう時にいるんだよね。わたしとアレクは友達なんだから、何があったか言ってごらんよ」
ヴァネッサは心配そうに抱きついていた俺から離れる。
友達なんだからといいながら抱きしめてくるし、この間はキスされたし...
あれは、私たちこれからも友達よね!のキスだったのか?
「あのさ、ヴァネッサ。俺は前も言ったけど王族っていうくだらない人間の身分制度で決められた人間なんだ。ヴァネッサが好きだよ。でも、魔女や普通の人と添い遂げられないんだ。この間キスしただろう?今も俺は君を抱きしめたし。それを遊びだと思われるのは嫌だから、俺は君が好きだという気持ちだけ伝えておく。君は?俺にどんなつもりでキスをした?抱きしめてきた?」
俺の目の前のヴァネッサは、驚いたように俺をじっと見つめた




