80 娘の幸せと、若き日の恋
「お父様、お母様、ご機嫌はいかがですか?」
ヴァネッサはぐったりしたまま、アレクは父としてどう謝って今後向かい合えばいいのかわからないのに、ラベンダーはモジモジしながら部屋にやってきた。
心の準備ができてないが...それ以前に...
「あ...ラベンダー....えっ!」
「あはは、お父様、はずかしいのですがルシアンとは仲直りしまして、使い魔に頼んで私の対価の髪の毛をルシアン様が被ってくださることになりました。新しい髪色いかがでしょうか」
ラベンダーはルシアンの髪色とそっくりに以前のような長さに戻る。
「いかがって....」
ぼんやり誤魔化してるが、要は魔力混合して髪の毛を返してもらったの...どう?ってことだろう。
どうって、いいわけがない。
ラベンダーは私の娘...なんだよな。
別の男の魔力と混ぜましたと聞いて良かった良かったと思う父親は...いない。
でも、二人が仲違いした原因は自分なのだから、良かったとホッとする場面なんだろうか?
じっと見つめ、幸せそうにチラッと上を見上げているその先は...ルシアンか。
ルシアンは地肌が見えるほど短く黒くされた髪の毛でも、似合っている。それが腹立たしい。
こいつの、押しの弱さにはイライラくる。
だが、そもそも私たちの親子関係に巻き込まれただけの可哀想な男ではある。
でも...自分の娘の男なんて...もう敵でいいよな。
いや、自分が無理やり結婚させたんだった。
自分の娘の夫は...敵??
身内になるのか...
ルシアンが身内...かわいくねえ
「王、いえ、お父上、体調が落ち着かれたら彼女の今後のことについて話し合いをさせていただきたい」
「ああ、ラベンダー...どこまで話してある?」
「あ...いえ。なにも...」
ラベンダーは口が硬い。
王子二人と似てないのは、唯一の私に似ているからだ
さすが私の娘!!
許可を得ないと例え夫であっても、大切なことは漏らさない。
自分の娘....自分の血縁の子供をもつことは諦めていたけど、その響き、最強じゃないか?
今までラベンダーにやっていたことは酷いことなのに、心と裏腹に嬉しくなる自分に嫌悪する
「お父様、お母様に回復のヒールを入れたいのだけど魔力暴走の時に魔力は使わない方がいいのかしら?」
ラベンダーは、心配そうにヴァネッサに触れる。
自分も同じことを考え、回復魔法の使用について二の足を踏んでいた
「壊れてしまった魔力を、新しく再生しないといけないが吐き気がひどいらしくて悩ましいんだ。食事が取れないと体力が弱ってしまうし...」
ラスカルのところで休ませたとしても、王城で過ごすよりは過ごしやすいということにしかならない。
「森にお母様を連れて休ませましょうか?あそこは空気が清浄だし、魔力も循環するし、大樹様もいい知恵を出してくれると思うの」
大樹か...
アレクはため息をつく。
◇◇◇
一方的な片思いと思っていたのに...
結局、自分はヴァネッサ以外の女性は考えられなかった。
彼女は修行を終えて、またね!と元気よく魔女の森に帰っていく。
「あ、あのさ!俺たちは友達だよな」
「そうね、困った人だと思ってたけど、意外とあんた面倒見もいいし、魔法陣の書き方も教えてくれるし助かったわ。」
「ま、魔術!!あんなんじゃダメだ!もっときちんとできるようになった方が良くないか?」
「え、なんで?基本は魔法を使うし問題ないわ」
「いやいや、防御もいらないとはいうけど、あった方がいいからさ、俺、教えたいんだよ」
それは、ルシアンを見た時にかつての自分を思い出す会話のようだった。
そして、なんとか彼女と継続して会いたい。そのために、魔術を教えたい。それしか理由が作れない。
大きく違っていたのは、ルシアンはそれが恋心だとは気付いておらず、自分の場合は気づいていたが、王族だから言ってはいけないと自制していた点だ。
「いらない。森は、魔女以外は入れない。だから、防御は不要なの」
「もう、出てこないのか?」
「いや、子種をもらう必要があるから、定期的には出るし、魔女の秘薬は世界中から要望が多い。仕事では出ると思う」
ヴァネッサはけろっという。
仕事の要望を出す人間はどんな奴らなのだろう?
王族なのに知らない。
魔女は基本人とむつみ合わない。
だとすれば、要望を出す人は、関係を持つもの以外いるのだろうか?
そして、ヴァネッサは今後後継を作るために出るという。
別の男と関係を持つためだけに...
俺は偶然外出出会った時に平然とできるだろうか?
「せめて、友達なんだから連絡の取り方だけでも教えてくれ」
「ん?いいけど...なんで?」
「友達になんで?なんてあるわけがない。理由がなくても連絡を取るのが友達なんだ」
「そうかな?」
俺は魔女の森の入り口まで案内してもらった。
「ここが私の住んでいる森よ。住所とかないから、手紙は送れない。でも、ここで伝言を書いたらきっと森が中まで手紙を送ってくれる。」
「そうなのか?魔力で飛ばしたいんだが..」
「できないわけじゃないけど、魔女以外の他の魔力を遮断するかも。アレクなら転移できるんでしょう。こっちの方が私もすぐ顔も出せるし早い」
「顔を見られるならそのほうがいいか...」
俺は納得して頷いた。
そして離れ難い思いをして森の入り口からヴァネッサが入って行こうとするのを見送る。
だが...本当に次に会えるのか..
「ヴァネッサ、まって!!」
ヴァネッサが振り向く。彼女も、少し目が赤い。
多分泣いてるーー
「ヴァネッサも..泣いてたのか?俺、好きなんだ。ヴァネッサのこと!色んなことがあって、うまく言えないことが多くて...だけど、俺はヴァネッサが好きだ」
ヴァネッサは、目を見開く。
そして、入りかけていた森から俺の元まで戻って抱きつき、そのまま、俺の唇に唇を重ねたかと思うと、ふわっと離れて慌てたように森に入ってしまった。
俺は..抱きしめ返すことすらできず森の入り口で呆然とたたずんでいた。




