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天才魔術師団長は天才魔女姫を壊せない  作者: かんあずき


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8 ずぶ濡れ事件から始まる教育

「みなさん、ごめんなさいね、退散しましょ。お邪魔虫だったみたい。いいのよぉ。朝までごゆっくり」


ヴァネッサが侍女たちに声をかけたら、

「私たち何も見ておりませんわ」

と言わんばかりの笑みと共に、すっと扉が閉まっていく。

「あっ!待って!!誤解よ!」

そんな声ーー「濡れ場だわ!」の一言に敵うはずもなく...


おほほほほほ!!

あはははははは!


母ヴァネッサの高笑いと同時に足跡も水の妖精も消えている


わずか10秒


あれは、母ヴァネッサの企みか?

私のミスなのか...


「あ、あの...」


「もう何も言わなくていい」


ルシアンの低い声が、静寂にさらに冷たさを落とす。



ルシアンがパチンと指を鳴らすと、ふわっと温かい空気が包み髪や服が乾燥していく。

彼にかかれば、指パチンで全てが終わるのに、私が無駄な動きをしたばかりにーーいたたまれない。


「........」


帰ってまだ1日も経ってない。

どうしてこんなことに。

まずは、彼の名誉をなんとか回復させなければ。


静寂が...痛い。

まもなく沈黙を破ったのは、ルシアンの声だった。


「......あのお茶は、なんだ?魔力が高いようだが」


「冷めちゃいましたね」


わたしはがっかりしながら、お茶を用意している台に近づいた。

こうなった今、飲もうとは思われないだろう。


「魔女のお茶です。今日のこともですが、兄のことも色々ご迷惑をかけたと聞いたので、お詫びに癒しの妖精と一緒に作って……でも、結果的にもっと疲れさせてしまいました」


「君のせいではない。あれは、ヴァネッサ王妃の策略だろう」


ルシアンは、頭を微かに振ってため息をつきながら、わたしが入れたお茶のある台までやってきた


「いえ、先に掃除をしておけばよかったんです」


歌をさっさと歌って作り上げたかったのだ。

まさかルシアンの前で歌うわけにはいかない。


「元気のいい歌が廊下まで響いていたが...」


「えっ!?……え、ええっ!!?」


ひゅっ!!

わたしは思わず息が止まる。

外まで聞こえて...いた!!


「ついでに部屋から魔力も漏れていた。だが、心地よい魔力だったから、悪いことに利用するものではないことは気づいている。なるほど、噂には聞いたことがあるが、魔女の歌か」


ルシアンはカップを手に取り、クンクンと鼻を寄せた。


「飲んでもいいか?ついでに分析もしたい」


「どうぞ。あ、でもその前に...」


わたしはもう一つあるティーカップのお茶を、ルシアンの目の前で飲み干す。


「こ、今度は誓って何も入っておりません」


ルシアンは呆気に取られたような顔をしてため息をつく。


「それは、臣下の仕事だ。」


ティーカップに口をつける姿は、姫のわたしよりも優雅で色気がある。

目を瞑り、しばらく味わっているのが伝わってくる。


「うまいな。さっきまでの騒々しさが消える。中身は、フフルの実のさっぱりした味わいと蜂蜜?か、少し変わった甘さがあったが」


「魔女の森の花の蜜を吸った蜜蜂からとった蜜で、綺麗な魔力を持っているから、体の浄化に役立つんです」


魔女の森で作ってきたものなので、初めて接する素材に違いない。


「あとは...なんの葉だ?メインになっている葉は、覚えがない」


「これは、森の中心に立つ大樹で、名前はないです。でも、妖精が体にいいって教えてくれたの。飲んだら、翌日に体が軽くなっていたから、若葉を摘んで干しておいたわ。それを少し細かくしたのよ」


話すと少し楽しくなってくる。自慢の一品なのだ。

ルシアンは、少し柔らかい目をして、頷きながら考えている。


「全く魔術とは違うのだな。私たちは、例えばその葉があれば必要な成分を抽出し、必要な量をきっかり測り、適切な材料をなんかも試して一番最適で最大限の効果を求める。だが、魔女のそれは、なんとなくいろんな妖精の意見を聞いて最適解を出す」


「そ、そうね。ルーズというか、アバウトよね。」


先ほどまで、だんだん楽しくなっていたが、よく考えれば妖精の言いなりになってお茶を作って、人に与えるなんてとんでもないかも...

しかも、魔術のような勉学とは程遠い。


「君の持っているものは大切にしたらいいが、魔術は同じ手法を取らない。だからその行動は浮いてしまう。せめてどんな手法で魔術は君と同じ効果を出しているのかは知った方がいいと思うがどう思う?」


「学びたいとは思うの。でも、見たでしょ。お部屋の掃除だって、簡単に出来ないし、魔法陣だってさっと描けないの。前もって紙に準備して、やり方をみてゆっくりやらないと今日みたいになる。」


「今日の行動を見ていても、それらの生活でも、防御の面で君の危なっかしさを感じている。わたしの指導はとても厳しくて、君のお兄さんたちはついてこられなかったが、学ぶ気はあるか?」


「……あるけど。わたし、お兄様以上に魔術知らないし。きっとあなたが退職したくなると思うの。今日みたいな騒動に巻き込んで……。そうだ!今日の件!あなたに恋人がいるなら誤解だと書くわ。説明をーー」


「いない。それに、お兄さんたちの件は、一つの出来事ではなく、色々気になっていることがある。退職したい理由も……君が信頼に足りると判断したら話す」


「気になっていること……?」


「君は気にしなくていい。……どちらにしても、そんなポンコツ魔術の娘は嫁にはもらえない」


ガーン。

ポンコツって言われたんですけど!?


いや、事実だけど!


「よかったじゃないか。ヴァネッサ王妃に“朝までごゆっくり”と言われたからには……」


ルシアンが冷たい笑みを向ける。


「二十四時間、君と私でみっちり勉強できるということだ」


……ひぃぃ。






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