77 魔女と王族、すれ違う常識
一緒に“活動(実質アレクの付き纏い)”が始まり、早くも一ヶ月。その頃には、ヴァネッサの調子が妙に狂っていた。
「……なんか最近、調子狂うのよね」
「俺に惚れたらダメだぞ。俺は好きな人とは結婚できない身だ」
「は? なんで私があんたと結婚する話になってんのよ」
「いや、大抵の国内の女は結婚したがるからな。王族だし」
「私、その「王族」っていうのよくわからないのよ。国内の女は物好きね。魔女は子種さえもらえれば誰でもいいし、結婚で固定しないから、そこの感覚わからないけど」
「いや、それは外で言わない方がいい。お前の方がかなり特殊だ、ヴァネッサ。友として忠告するが、危険だからな!」
「危険なのはあんたよ。……なんか、調子狂うのよね」
ヴァネッサは焚き火のそばで修行ノートを取りながら野営の支度を続ける。
今日は鳥を仕留めたのでありがたく、穀物と一緒に煮込む。
ヴァネッサは、周りの反応も、狙ってくる獣も、魔獣も気にしない。アレクは慌てたように周囲へ防御結界を張り巡らせた。
「調子狂うって、どのへんがだ?」
「私はね、ここで野営してても、誰か来たら返り討ちにする気でいるの。魔女の修行ってそうなのよ。やられて死ぬならそこまでなの。なのにあんたは、誰か来ても大丈夫なように防御を張る。……その、過保護みたいなのが、なんか……こそばゆいのよ。気持ち悪いの」
「...魔女だって守られていいと思うが」
「いやよ!気持ち悪いわよ。慣れていく自分も嫌だし」
彼女を男性の義務として守っているのに、気持ち悪いとあっさり言ってしまう女性は衝撃だった。
更に王族だと言っても流される。
魔女は、身分に関心がない。
しかも、特定の人にも興味ないわ。
そう言われて仕舞えばそれまでだが....
「王族の子種をもらったら...それはスキャンダルだ」
「そうなのね。じゃあ、アレク以外を探さないとね。魔力がある人じゃないとダメなの。だから貴族が多いらしいけど、貴族とは深い付き合いは御法度って母が言ってたわ」
そうなのだが、王族も貴族も大して変わらない。
そして欲しい解答はそれではない。
「いや、そういわれると...正しいんだが、多分何か大きく間違えている」
「何が??」
「子供は、魔女にするために産んではダメだ。その...両親に求められて生まれてくるべきではないか?」
「あら?王族は違うの?」
「いや、違わない...王も後継がいるから...ただ、王族は結婚するから誰とでもとはならない。妻は何人も娶ることができるが、無責任に関係を持ったものを放置しない」
「そうなの?似てるのに違うのね」
そう言われてアレクは気づいてしまう。
違うようで一緒なのだ。
結婚という特定の絆で、愛をかけているように見せて、欲しいのは王の後継者だ。
だから王は、妻が複数いても許されるのだ。
将来の王らしいふりをして、大人しくしているふりをすれば、俺がこうやって自由気ままにやっても、誰も俺のことに関心はない。
魔女は?欲しいのは魔女の後継者だ。見せかけの愛はいらないから、子が生まれるまで、愛は問わず子種をもらう。そして一人前の魔女になるために、魔女の森で人目を避けて暮らし、まだ甘えたい盛りの子供の時には修行の旅に出るという。
「ヴァネッサ、俺たち似てないようでそっくりかもしれないな。」
俺は今気づいた話を伝えると、目を丸くしてほんとね...と話す。そして、眉を少し下げて俺の頭を撫でた。
「修行から帰ったらわたしはもう親はいないの。でも、小さい時から今も、そして将来も妖精がそばにいてくれるし、対価を払えば使い魔もいてくれるんですって。だから寂しくはないわ。
でも、あなたの話を聞くと、これからたくさんの女の人と結婚しても、後継を産んだ後はあなたの話を聞いてくれる人はいるかしら?」
「いや、いないだろうな。今までもいなかったから、そういうものだと思えばいい」
アレクは父母も弟も困った存在で、どう退位を迫ろうかと思っている存在だ。
関わって欲しいと思うこともない。
「もし、あなたが寂しくてたまらなくなったらその時は、わたしにできることがあるわ。でも、誰にでもできるわけじゃないのですって。」
「なんなんだ?それは?」
「私の魔力を混ぜるんですって。それをすればあなたにも寂しい時には妖精がいるわ」
ヴァネッサは、口が悪いが妙に優しいところがある。
だが特別な思いを持ってないのに、一線が甘すぎる。
そこがアレクは危険だと思っていた。
「ヴァネッサ、魔力混合は絶対にダメだ。一生、君は俺と魔力を混ぜたという記録が残ってしまう」
「構わないわよ?わたしはだって、他の人とこれからたくさんそれ以上のことをするのよね。あなたもこれからたくさんの奥さんを作るんですもの。十人ぐらいと結婚したら、だれがどの魔力かなんてわからないわよ
みんなが、この魔力はどこの女?って聞かれても魔女の私のことは誰も知らないしね。」
ヴァネッサはイタズラを企んだように笑っていう。
「でも、これは最終手段ね。得も損もしない友情の魔力より、大切な人との魔力混合ができるように祈ってるわ。」
その笑顔に、ありがとうと呟く。
特別な思いはないのに、他の人のような下心もない。
アレクは、自分のことを思ってくれる優しさに初めて触れて、ヴァネッサにもその優しさを返せないか考え始めていた




