76 魔女と王子の最悪で最高な出会い
ーー数日後
ヴァネッサは、周りを見たことがない円盤のような乗り物に乗ってしつこく追走してくるアレクに頭を抱えていた。
未来の王であるアレクの「火だるまになった恋心」と「魔女の実態への好奇心」に火がついてしまったせいである。
「アンタ、火だるまになってもまだ懲りずに来るのね」
「…あれは衝撃だった。だが火傷しない攻撃はよくない。相手が恨んで、また攻撃してくる可能性もある。君は口と態度が悪いのに一押しが弱すぎるんじゃないか?」
「無意味な殺生はしないわ。それに、余計なことが一言多いそんなへんちくりんな円盤に乗ってる男に言われたくないの」
「へ、へんちくりんだと!?これは魔法陣だ! いかに安定して飛ぶか、自分で構築したんだ。その箒よりは安定性があるはずだ!」
「ふぅん……これが魔法陣ね」
ヴァネッサは箒に跨ったまま、空中から本を取り出した。
「おいっ!? 今どこから本を取り出した!?」
アレクは慌ててヴァネッサの周囲を色んな角度から眺める。
「どこって空間よ。空間バッグ。うるさいから、あんたも入れてあげようか?」
「入れてくれるのか? 興味がある!」
「……ほんとネジが外れてる男ね。これは大事な素材が入ってるの。入れるわけないでしょ」
ヴァネッサはため息をついた。
その仕草に、アレクはなぜか胸の奥がムカッとした。
(俺は将来の王だぞ……?草や虫より価値がないみたいな言い方……!)
「そ、素材って……俺と素材、どっちが貴重なんだ?」
ヴァネッサは手を止め、きっぱり言った。
「決まってるでしょ。素材よ!」
「……っ」
「アンタ一匹でどれだけの人を助けられるの?でも、この中の素材を使えば、いろんな人の生活が豊かになるの。」
アレクは言葉に詰まる。自分が作る魔法陣が、人の生活を良くするものではないことは分かっている。どんなに頭を使い、どんなに位が高くても、魔女の価値観から見れば草や虫の死骸以下。妙に納得するどころか、今までにない雑な扱いにドキドキする自分がいる。
俺はマゾだったのか!!
「な、なあ……俺、魔女みたいな魔法が使いたいんだけど。
お前に弟子入りしたら、男でも魔女になれるのか?」
ヴァネッサは「えっ」と一瞬驚き、それから「うーん」と考え込んだ。虫を見るような目で見るくせに、こういう“真剣な質問”を熱心に考えるし、昨日みたいな攻撃は妙なところで甘いし...魔女、恐るべき生態だ。
「魔女は、子種をもらって魔女を産んで……その子が一定の年齢になったら“修行の書”をクリアするまで旅をするの。そして一人前なのよ。
だから、あなたがどれだけ魔力が高くても、勉強しても……魔女にはなれない。だって生まれながらに魔女じゃないもの。魔法では妖精と精霊を使うの。でも、あなた魔法陣には精霊を組み込んでるけど、精霊見えてないでしょ」
「そうなのか……。確かに風の精霊を組み込んでいる。精霊は少しだけ魔力で動きを感じられるけど、見えたことはないな。そういう古代の魔法文字で必要な精霊に魔力を込めたら動いてくれる感じだ。俺、国内では結構魔術を勉強したんだぞ?なのにお前の魔法に太刀打ちできなかった。お前の魔法はすごいよ」
「そんなふうに人に言ってもらったことはないから...わからないわ。そもそも魔術師も初めて見たのよ。私からしたら、妖精も精霊も見えないのに人工的に魔法を作り出す方がすごいと思ったわ」
ヴァネッサは褒められなれてないのか、アレクの熱烈な褒め言葉に悪くないわという顔をする。
アレクは、猛アプローチをかけた。
「なあ、俺はアレクっていうんだ。お前名前は?俺、魔女のことしりたいんだ。あげられるものは、魔術のことぐらいしかないけど。友達にならないか。」
「え??友達...って何かしら?それはなんか得することなの?」
「得も損も考えずに一緒に楽しく過ごせたらそれは友達だ」
ヴァネッサは、何それ??という顔をする。
「友達、知らないなら俺が第一号だ、よろしくな」
「はあ、まあ、まとわりつかないでくれるなら、なんでもいいわ」
ヴァネッサはため息をつく。
こうして、ラベンダーの父と母は、父の一方的な恋心で一緒に活動していくことになった




