74 魔力が溶け合う夜
「やっと、やっと俺のものになった」
ルシアン様がポツリと私の耳元で呟いた
私は泣いて泣いて酷い顔の状態で、子供をあやすように、顔と体を向かい合わせるような抱っこをしてもらっていた。
冷静になれば恥ずかしい。
色気も何もない。
「その...すいません。ルシアン様、恋愛慣れてなくて、めんどくさい人になりました。」
「なんで謝る?もっと嫉妬して、そして、もっとぶつけて。ラベンダーはこれから子供をやり直し。甘やかされなかった分、せめて王子ぐらいのわがままは言ってほしい。そして、おれに「様」はつけない。」
お兄様ぐらい??それは...むずかしい。
「前も言いましたが、敬称なく呼んだことはなくて...」
「俺にだけっていうのが、いいんだ。呼び捨てにして」
「ル...ルシアン。でも、なんか、行儀悪くないですか?」
あんなに人前で泣いたのも、めんどくさいことばかり言ったのもルシアンが初めてなのだ。
怒っていないか、呆れていないか?心配になるのにルシアンはご機嫌だ。
「俺たちをつなげるものって結婚印しかなくて、居場所もわからなかったから、なにかプレゼントしたいな。なにがいいかなあ。指輪とかはありきたりだし。共通に何か身につけるもので欲しいものはないか?」
「ほしいもの...ですか。ルシアン様がいてくれるから別に....」
「ルシアンだよ。呼び捨て」
わたしは真っ赤になる。
急に夫を呼び捨てにするなんて...
あれ?普通なのかしら??
「じ...じゃあ...あの...欲しいです」
「ん?欲しいものがあるか?宝石か?カバンか?服か?」
「いえ、宝石はつけたことないですし、カバンは空間バッグがあるし、服は...あ...欲しいかもしれません」
「わかった。じゃあ、可愛い服を選ばせて。何色が似合うかな....ふふっ」
ルシアンはすごく楽しそうにわたしを撫でる。
ここで、もう一度勇気を振り絞るべきだとわたしは自分に叱咤激励する。
「あの...でも服は欲しいというか、必要になるんです。その...ルシアンの...魔力が...欲しいです。わたしのも、もらっていただければ...」
ルシアンの動きがピタッと止まる。
顔が....見れない。
「あの...わたしの独占欲です。
そうしたら、わかる人にはわかって、わたしのものって言えるんですよね。
でも、そうしたら、髪の毛がルシアン...がわたしの代わりに対価を受ける話になってるって前に聞いたから、男の子の服は....」
ルシアンがぎゅっと抱きしめてくる。
「それは、俺が欲しいものの間違いじゃないか?俺のものだとみんなに自慢できて、一生俺がついてまわる。
今それを言ったら、今度は前みたいに絶対好きな人となんていう気はないぞ。俺以外は許さない」
ルシアンはそう言いながら額や髪にキスを残す。
でも、前と違いこの機を逃すつもりはないという感じの強めのキスだ。
顔つきも動揺しているというよりは、言質をとったという空気が伝わってくる。
ルシアンも、了承してくれているのだと私はホッとすると同時にゆっくり二人の唇が重なる。
最初は優しいキス
お互いを大切に思っていると伝わってくる。
ただ、ルシアンは意識をしているのか、私の体に相手の魔力を感じるような迫る波動のようなものはあって、魔力を集めているのだと分かり、少しだけ緊張する。
時間をかけて、触れる手や指、重なる頬、服から伝わる体温から、その魔力は入ってはこないのに、これから当たり前にお互いの魔力の存在を感じることになるのだと知らせてくる。
わたしも、さらけ出す方がいい。
ふっと力を抜き、体から巡る魔力を集めていく。
どのくらいもらってもらうものなのかもわからない。
魔力に相性があるのだろうか。
もらった瞬間、静電気みたいに弾けたらどうしようか?
私はふと不安になる。
だんだんキスが深くなってくると、よりその相手の魔力を身近に感じ始めた。
細く甘い綿菓子のように感じる魔力をお互いが、絡め取り分け合っていく。魔力をもらっているのか渡しているのか、もう感覚はない。
一つに溶け合うような、最初からそこにあるべきだったと主張しているような、それでいてお互いに求め合いその新しい魔力を共有している実感だけが残る。
時間はどのくらい経ったのか。
唇はお互い深く触れ合い続ける。
お互いを味わい、感じ取り、一緒になるような感覚がーー
どれだけでも、その時を過ごしても構わないと思うぐらい幸せな時間が流れて、だんだんその新しい魔力が自分に馴染み始めた頃、やっとお互いが少しなら離れてもいいような感覚になった。
そーっとお互い唇が離れて、少し息を吸う。
.....はあっ..
ふう.....
息をお互い吸うのを忘れていたぐらい時間が経っていたらしい。
「苦しく...なかったか?途中から何も考えられなくなって...」
「同じ...です」
「これは...迂闊にやったらダメなやつだとわかるな」
快感というより解放されたような感覚と、お互いをさらけ出して全てを見せ合ったような感覚に陥ることを言っているのだとわかり頷く。
「片側だけに魔力を送るとか無理ですね。頭が真っ白になって流しているのかどうかも分からなくなって、すっかり身を委ねてしまって」
当初片側だけ流せば...など思っていたり提案されたこともあった。触れる前はお互いが流すのだと思っていたが、どちらかが流すというより一つに溶けてしまう感覚に近かった。
「ああ、片側だけに魔力混合がついている奴は...片思いでしたといってるようなものだな」
ルシアンも夢から醒めたような顔をしていた。
そして、わたしの顔を見て微笑む。
わたしは、使い魔の魔法が発動して、いつの間にかルシアンの髪色をそのまま受け継いだ薄いミルクティーのようなクリーム色の髪と以前の紫のような目の色になっていた。
一方でルシアンは、あれだけ長かった髪が短く黒くなり、黒目になって雰囲気が中性的な空気から男性的に変わっている。
「俺のもの感が増して、なんか...いいな」
ルシアンが真面目な顔で、嬉しそうにわたしの髪を触る。
「女の子に...見えますか?」
「俺からすれば、どの髪も可愛いラベンダーなんだけど、一般的には隠したいレベルで可愛い女の子だよ。うー、見せたくないな。もう一回森で暮らそうか?二人で」
それを聞き、思わずぷっと吹き出す。
「女の子に見えるならホッとしました。今度はルシアンがそばにいると思えるだけで、少し強くなれそうです。」
私は、そう言いながらはたと気づいた。
「そうだ!魔獣はお父様の指導で消滅させました。でも、瘴気が強すぎてその次が進めなかったのです。今度は、ルシアンの魔力が一緒ですからね。ヤキモチ妬かずに聖女様たちに瘴気を浄化をお願いできそうです。瘴気では魔女のわたしもお役に立てることがあるって知ったんです!」
わたしは、早速魔術師団長の妻として、魔女として出来ることを自信を持って嬉しいと伝えた。
それなのにルシアンは不服そうだ。
「いやだ!君を他のやつに見せたくない!魔力混合してるってことを鑑定能力なしのやつにも見せる方法はないかな??」
と真面目な顔で呟いたのだった。




