表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】天才魔術師団長は天才魔女姫を守れない  作者: かんあずき
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/124

73 嫉妬と真実のあいだで

ルシアンと私は、ラスカルの計らいで二人用の部屋を用意されていた。

中は誰もいなかったため、空気はひんやりとして冷たい。


ルシアンが指をパチンと鳴らすと、暖炉の前に火の魔法陣が浮かび上がり、柔らかな炎が灯った。

その暖かさに誘われるように、私たちは自然と暖炉へ近づく。


「怪我が……いや、全部だ。大丈夫か気になっていた。転移の時、すごい音がして……焦った」


ルシアンが低く呟いた。


「焦ったのは……クラリス様のことでしょう」


「……」


わかってる。こんな言い方、可愛くない。

でも、どうしても顔が強ばってしまう。

そして、ルシアンの沈黙は、私の胸の奥をさらに締めつける。


――これ、嫉妬?

それとも、最後の足掻きなんだろうか。


「俺のこと……嫌いか? もう離れたいのか?」


眉を片方だけ寄せ、ため息混じりにそう問うルシアンに、私はますます意地になった。


「離れたいのは……ルシアン様のほうでしょう。クラリス様、お父様の王妃じゃなかったそうよ。良かったじゃない。向こうも、あなたの部屋に行ったくらいなんだから……やり直したいんでしょうね。

お父様が、2人で望んだら、私との結婚の制約印は解除すると言ってくれたわ。

これで、ルシアン様は自由よ。

やっと……望む相手を選べるじゃない」


「……」


返事がないのがつらい。背を向けたまま、顔を見ないようにしているのに、視線だけが痛いほど刺さる。


「……なによ! なんで何も言わないの?」


「……」


ルシアンはゆっくり近づき、転移の時にぶつけた私の頭へ手を伸ばした。


「いやっ! 触らないで! その手は……クラリス様に触れていた手でしょう? あの部屋も、ベッドも、鍵も……全部、あの人のためだったんでしょ!」


私はその手を振り払った。

振り払った瞬間、ルシアンの表情が苦しそうに歪む。

それを見るだけで、胸が張り裂けそうになる。


「なんで言ってくれないの?

嘘だったって――

私のこと好きだって言ったのは、全部嘘だったって!

本当はクラリス様と結婚したかったけど、仕方なく私だったって!

こんな、不審者扱いされるような女なんか嫌だったって!

魔女となんか結婚したくなかったって!

いいから……何か言ってよ! 

惨めじゃないの……私ばっかり……」


視界がにじみ、呼吸が苦しくなる。


「もう嫌……期待なんて、したくない……」


涙が止まらず、私は手で顔を覆った。


「おいで」


「……え?」


振り向くと、つらそうな顔をしたルシアンが、同じ言葉をもう一度、静かに繰り返していた。


「俺のところに……おいで」


その意味がすぐには理解できなかった。


「……何を言っているの?」


「俺は最初からずっと君を望んでいた。ただ、護衛を始めた頃、君は十歳だった。そんな対象じゃない。

でも、天真爛漫で……それでもどこか寂しそうで、必死に頑張る君を見てきた」


ルシアンの視線は少し遠くを見ていた。


「姿を現さない時間が五年続いて終わった。君が十五歳の頃だ。その頃には……もう目が離せなかった。

可愛くて、努力家で、魔法もすごくて……護衛しているだけなのに、毎日が楽しかった」


「……」


「本当にダメになったのは、君が王城に帰って森に行った時だ。十六歳くらいだな。城に戻ったら会えなくなって、式典やパーティーで、必死に君を探した。

でも、闇の妖精がいつも君を隠してしまう。声もかけられない。苦しくて……その頃にはもう、完全に恋に落ちていた」


「私を……探してくれてたの?」


「当然だ」


ルシアンが微笑む。


「一度だけ会えたのは、ヴァネッサ王妃が王と喧嘩して城が火事になりかけた時だ。俺が王妃に嫌味を言ったせいで、君が落ち込んでしまって……会えたのに、チャンスを潰した」


「……あれは母が原因です」


「慌てて謝ったんだけど、あの後すぐ森に行ってしまったからね。俺は、護衛がしたい、君には魔術を教えないといけないと理由をつけてなんとか会いたいと願った。だが、俺は不要だった。森が君を慰め、君を守ってくれるからだ。」


そこまでいうと、笑顔は消えてルシアンは真面目な顔で、私をもう一度見つめて話を続けた。


「一年後、ラスカル殿に“君は戻らない”と言われ、クラリスと出会った。君に似た努力家で、惹かれていった。それは本当だ」


胸が締めつけられる。


「でも心は君を忘れられなかった。ある日、クラリスの家で眠ってしまって……寝言で“ラベンダー”と呼んでいたと言われた」


「……」


「自分では気づいてなかった。君への気持ちを“不完全に任務が終わって気になってるだけ”だと言い聞かせていた。

だから、クラリスに“君の方が好きだ”と証明しようと必死だった」


ルシアンは肩をすくめながら、ソファの背に腰掛けて笑った。その後、それはお兄様たちへの橋渡しにしかならなかったからだ。

でも私は笑えない。


「むしろ、私のことを好きだと思い込んでいるだけではないか?

だって、クラリス様への恋心があったことは認めているのに...私に対しての恋心は気づいてないわけでしょ?」


「……気づいていなかったというより、“護衛対象を好きになる”なんて、公私混同する人間が俺は嫌いだった。

俺は子どもの頃から魔力も能力も高くて、そのせいで周りとどんどん距離ができて、友人もいなかった。魔術師団に入ってからも、ラスカル殿ですら扱いに困るような奴だった。


そんな俺に任された初めての任務が――君の護衛だった。


ただ任務をこなして、最後までやり遂げる。

それだけを考えていたはずなのに……君と過ごす日々は楽しくて、君の天真爛漫さや些細な動きが気になるようになっていった。寂しそうにしていると抱きしめてあげたくなった。“邪な思いで守ってあげたい”なんて、そんな気持ちを抱く自分を、認められなかった。


一方でクラリスの時は、周りに勧めや策略もあって付き合い始めた。

それをきっかけに団員たちとの会話も増えて……“ああ、これは仕事をする上で自分にとって良いことなんだ”って、どこかで思っていたんだと思う。」


彼は困ったようにいうが、それなら私はもっと困る。


「私はご存知のように、人付き合いがダメで、あなたの仕事につながるような良いことは何もありません」


クラリス様と付き合うことは利点がある。

私と付き合っても足を引っ張るだけで、ルシアン様は良いことなんてない...

私はますます、顔がこわばってしまう。


「逆だよ。本当は俺が、今回も君をどんどん紹介しなくてはいけなかったんだ。俺が陽気でみんなと気軽に話せたら、君をどんどん連れ歩いて、君が可愛くて素敵な魔女だとみんなに伝えることができるのに、俺は苦手で...しかも、君を傷つける言葉ばかりかけた。

それに、十九歳の君は今後引くて数多だよ。他の男に会わせたら俺よりいい人に攫われてしまう。そう思うと躊躇してしまう」


ルシアンの真面目な顔に、私は、そうじゃないでしょうとため息をついた。


「修行が終わったばかりならともかく、城に帰っているにも関わらず、この間も不審者と間違えられてたでしょ。そしてこの髪です。しかも、魔女で父と母は現時点で離婚ですよ。ないですよ」


「あの副団長二人は訓練が足りないからまたしごいておくよ。ただ、ラベンダー、君の現れ方もなかなか激しかった。天井から落ちて、本当に変な音がしたから心配だった。

闇の妖精に君が命じた声を聞いた時は....胸が苦しくなったよ。君をまた傷つけた。また追い詰めた。それなのに離したくない。君が好きだって。こんな思い、君以外にしない。


クラリスに惹かれた過去は...許されないか?いや、許してもらえなくていい。嫉妬してくれないか」


ルシアンは切なそうに私を見つめた。

こんなに私泣いてるじゃない。

わかっててなんでいうの?

それとも、本当にわからないの?


私は、ルシアン様を見つめるが、ふとルシアン様の手の震えが止まっていないことに気づく。


「手....」

「えっ?ああ、君に拒絶されるのはやっぱり...きつい」


ルシアンは私を見て手をグーパーと広げて、ため息をつく。

それを見て私も悲しくなってくる。

信じて、もし今度一人になったら、怖いのだ。


「.......そ、そんなの!!嫉妬してます。嫉妬しかないです。悔しいです。苦しいです。もっとあなたに早く会いたかった。他の人なんて目に入れたくなかった。私には誰もいなかった。孤独だったから、あなたがそばにいてくれたこともっと早く知りたかった。ひどいよ...みんな...ひどい」


わあああああぁぁぁぁん!!


私はまるで子供みたいに泣きじゃくる。


「もっと大人な女性だったら?姫じゃなかったら?聖女なら早く会えたのに。好きじゃなくても嫌わないでくれる人がいるってわかるだけであの時は救われたのに。どうして?どうしてきてくれかったの?心配してるって、見てるって言ってくれなかったの?」


私は肩で息をしながら、しゃっくりを上げる

流れる涙は止まらなくて涙を手で拭う。

それなのに...ルシアン様は辛そうに私を見つめるだけだ。


「ラベンダー、おいで。自分で俺を選んで」


ルシアンがおいでと手を広げる。

私はくちびるをぎゅっと噛み締め、その胸に飛び込んだ











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ