72 孤独な魔女姫が帰り着いた場所
両親はまだ絶対安静で眠り、ラスカル様からは私の祖父だったと衝撃の事実を聞かされる。
そんな私はこれからどうしたらいいのだろう。
もう、一緒にいられないと思っていたのにーー
震える手で、私の手を離さないルシアン様を見ると、私も離されたくないと期待してしまう。
これは彼が、本当はクラリス様が好きだという罪悪感をもっているからであって、私を想っているわけではないのだとこんなに言い聞かせているのにーー
◆◆◆
私は幼い頃から誰にも愛されない子供だった。
父は王様、私が簡単に会える人じゃない。
母は魔女だった。母というよりは、魔女の師で甘えたとか、愛されたという感覚はない。
兄二人には、それぞれに優しい母がついていた。
魔女には、母はいないと思うようにと言われていた。
魔女は、早くに修行の旅に一人で行かないといけないから、そして行ってしまったらもう親はいないから。
その代わり、私には他の人にはいない妖精がいつもいた。
妖精は優しい言葉をかけてくれるけど、それは嘘のこともほんとのこともあり気まぐれ。
でも、唯一の友達だった。
だが、それはますます人を遠ざけた。
一人で笑い、会話をする怪しげな魔女の卵は、人からは奇異なものにしか見えなかった。
みんなの反応が最初はわからなかった。
だって、私には妖精が見えるんだもの。
でも、魔女の卵だけど、姫なのだとも言われていたから一生懸命笑って、普通の女の子のフリを真似ようとした。
妖精さんから話しかけられても、見えないふりをした。
外に出て恥ずかしい思いをすることがないように、必死で行儀作法やダンス、流行も覚えた。
魔女の訓練はみんなが寝てから、みんなに見えないように必死でやった。
だけど、無視していた妖精たちから嫌われてお話もできなくなり、明らかに訓練時間が落ちて魔法がうまく使えなくなってしまった。
私には必要時以外は、周囲に誰もいなくなった。
時々、どうしても人前に出なければならないことがある。
だが、華やかな王妃や兄に比べて、地味で魔女の私はそこにいるだけで、不快にさせるようだった。
社交界でご挨拶をしても、他の貴族の子供たちが集まる場に行ってもさーっとみんなが避けていった。
私は姫だから邪険にできない。だけど関わりたくない。
そう聞いたのは、私が闇の精霊を使って自分を隠し始めた頃だった。
みんな、私がいないとほっとしていた。
いるだけで、人を不快にすることを知った。
そんな私の様子を心配していたのはラスカル魔術師団長だ。
そーっとパーティの壁で影を使って溶け込んでいる間、手招きして、パーティのお菓子をとってきて食べさせてくれた。
「なんで私のことわかったの?」
「魔術師団長だからね。姫がかくれんぼしても分かってしまうんだよ」
そう言っていた。
部屋で一人なのを私から聞いて、防御魔法や転移魔法を教えてくれたのもラスカル魔術師団長だった。
それを時々練習していたが、そのうちふと気づくと誰も私の存在を気にしていないことに気づいた。
いてもいなくても同じになったのである。
もちろん母は毎日訓練のために私と過ごしていたが、修行に旅立つ日に向けて、宿題は増えたが、その関わりはどんどん減っていった。
むしろ、私もこのお城から出たいと思い始めていた。
旅立つ時、母は初めて抱きしめてくれた。
そして、用途に合わせた杖を私に、そして空間バッグを持たせて、修行の書がすべて終わるまでは帰ってきてはいけないと伝えた。
その場に父はいなかった。
それでも、初めて抱きしめてもらったことが嬉しくてたまらなかったことを覚えている。
旅では勝手に期待していたのだ。
そこには物語のように多くの出会いが待っているのだと。
私を迎え入れてくれる人たちがいるのだと。
だが、毎日孤独だった。
誰でもいいから、魔女の私を好きになってくれる人はいないだろうかと思っていた。
いや、すきじゃなくていい。せめて嫌わないでくれないだろうか?そうしたらもっともっとみんなに嫌われないように頑張るのに。
修行中の目に映る月を見て、私は毎夜祈っていた。
辛い環境になればなるほど、死にそうな目にあったが、時々母に抱きしめられた時と同じ感覚を夢に見た。
だから、少し楽しみだった。
私には見えない妖精のようなものが、私を好きでいてくれているのかもしれないと勝手に想像していたのだ。
そんな日々を何年か過ごして私は修行の書を終えた。
これから...私はどう生きていくのだろうか?
不安になる。
誰も私のことを知らない、
みんな魔女姫がいなくなってほっとしているのに、私は戻っていく。
王城についたばかりの私は不審者と間違えられるので、闇の妖精に隠してもらってお城に入り、母と対面した。
「帰ってきたのね。せっかく自立したんだから、そのままどこかに行ってもよかったのに」
母から言われた言葉は、母なりの愛情の言葉だったのだ。
こんな国の牢屋から逃げるチャンスだったのにという意味だったと後の父の言葉から知る。
だが、やっと帰ってきた時にかけられた言葉としては、これ以上にない傷ついた言葉だった。
更に、化粧もしなければ散髪もしない私を誰もが汚いもので見るような顔をした。
母が急いで私を侍女たちに磨かせたが、人の噂は早い。
母の美貌とは似ても似つかないだけでなく、ひどい身なりをした魔女姫が帰ってきたと指をさしていた。
私は、闇の妖精にとにかく姿を隠してもらえるように頼み続けた。
誰にも会わず、誰とも話さず、極力外にも出ない。
だんだん食欲もなくなりご飯も食べなくなった。
流石にこれはやばいと感じた母から魔女の森に行く提案をされる。母が長く住んでいた森らしく、魔女には優しい妖精が生まれる森だと、きっと気にいるからと勧められて私は頷く。
ただし条件があった。魔女は、必ず後継に魔女を残さないといけない。その時が来たら必ず受け入れるようにーーと。
どうか、神様がいるのなら、
どうか魔女を嫌わない人にしてください。
どうか私を嫌わない人にしてください。
どうか私に触れても嫌じゃない人に、
もしよければ、少しでも私を好きになってくれるなら、きっと私もその人を好きになるわ。
だって、私を初めて好きになってくれた人だもの。
そんなことを思って出会った人がルシアン様だった。
願いは虚しく、父と母に強要され婚約しただけで、私を好きどころか別の女性を想っていた。
結婚した初夜に私に対して懲り懲りと告げて出ていってしまう。
森まで追いかけてきてくれて、心を開きかけたところで、好きだった人とのラブシーンを見せられ、臣下からは姫とすら気づいてもらえず、攻撃魔法を放たれる。
使い魔の話だと、好きだった人とのラブシーンは誤解だと聞くが、私はかつての彼の言葉から本心を知っている。
わたしとは望まない結婚を王に強要されただけだ。
本当にしたくてもできなかったのは、好きな人との結婚なのだ。
私は手に入らないものの代わりにすぎない。
今再び彼と会ったところで、もう私はこれ以上傷つきたくないと悲鳴をあげていた。




