70 狂い咲く母の炎
私ーーラベンダーは、パリンパリンという音の先に、お母様とルシアン様、そしてラスカル様を視界にとらえた。
私はその殺気にやられ、使い魔の猫ちゃんを抱きしめる。
でも...その中でお母様の目が変だ。
なんかおかしくない?
「お父様...お母様、様子おかしくないですか?なんか、持っているのも...杖にはみえないんですけど」
上半身と同じくらいのでっかい木槌。
あれは何に使うの??
「なんだ...お前を守ってルシアンが頑張っているのかと思ったが...ヴァネッサの独壇場か。残りの二人は何のためにいるんだ?昔あれで、せっかく描いた魔法陣を....うわっ」
母ヴァネッサは、声をかけることもなく、身体に炎を纏いながら、目を真っ赤にして無言で突然木槌を振り下ろしてくる。
「お父様、大丈夫ですか?わああぁぁぁぁ!!」
父は私を守るため跳ね飛ばし、瞬時に防御の魔法陣を貼る。
だが、貼った瞬間叩き割られる。
父は母を睨みつけた。
「離婚して、浮気相手?今は恋人か??それを連れて俺に木槌のご挨拶とは大したもんだな」
「どぅぁーーーれが浮気相手じゃい!!てめえ、こっちが下手に出てたら人のこと責め立てやがって!死にやがれ!」
何?この声!お母様じゃないわ!!
ぶん
ぶんっ
ヴァネッサが木槌を振り回す中、父から突き飛ばされた私はルシアン様にキャッチされる。
はっと気づくが、震える手で、ルシアンにぎゅっと抱きしめられ、逃げることもできない
ルシアンは、ラスカルに目配せして目の前に大きな防御を張り巡らせる。
「大丈夫か?王に何かされなかったか」
「大丈夫もなにも...何があったんですか?むしろお父様には助けてもらって何も私は困ってません。まるでお父様が悪者みたいに言わないで!」
そう言われたルシアンは、悲しそうに、でもきゅっと唇を引き締めて、むしろ抱きしめる力を加えた。
私を傷つけたのはあなたよ!
転移で怪我した私をお父様が助けてくれたのよ!
そう叫びたかったが、母の様子がおかしく、それどころではない。
更に、あれだけ魔術に優れていた父が追い詰められている。
「お母様はどうしたの?なんで、わたし突然お母様に攻撃されそうに...」
「すまない。話をゆっくりしたい。だが、ここの防御を解除する過程で、ヴァネッサ元王妃の様子が突然おかしくなったんだ」
ルシアンは、私が怒っていても抱きしめる手を緩めることはなかった。
手は変わらず震えている。
だけど、その手でクラリス様を抱きしめたんじゃない!
キスしてたんじゃない!
「触らないで!!クラリス様を抱きしめた手で抱きしめないで!これ以上、これ以上惨めにしないで!」
私は振り払おうとする。
それなのに、ルシアンは離れない。
その横で再びパリンと魔法陣が割れる音がして、猛スピードで、母ヴァネッサが木槌を振り回しながら暴れる。
母が流す涙は血の涙だ。
私にまで容赦なく襲ってくるのをルシアンが、地面に私を押し付けた状態で、全身で庇う。
うっ!
ルシアン様の呻き声が聞こえる。
「ル、ルシアン様??」
「大丈夫、治癒できる。」
だが背中なので治癒の場所が当たりにくいのか、少し治癒魔法を展開させては、呻き声をあげる。
「大丈夫だから。守るから逃げるな。」
そう言って自分の体の影に私を隠そうとする。
「やめろ!ラベンダーはお前の娘だろう。ラスカルもお前の大事な人だろう!正気に戻れ」
父が叫ぶが母は攻撃の手を緩めない。
「やめてたまるかぁ!あんただって、私の一番大切な人だったのに!!このやろう!!」
その振り回す先に私がいても、見えていないようだ。
ぶんっ
魔法陣を壊して、振り回した先に私がいても気にしない
私は急いで、ドライアドの杖に変え、ルシアン様の背中にヒールをかけた。
それと同時に、母の動きに合わせ、先ほどまで魔獣がいた瘴気に満ちた土埃が舞い上がる。
ルシアンが私を抱き上げながら再び移動し、防御を展開させていく。
「ラスカル、どういうことだ!ヴァネッサに何があった!」
「話はゆっくりしたいのですが...ここにくる防御を解除する過程で様子が変わった。どう止めるか。ヴァネッサに攻撃は許されますか?」
「許されるわけないだろう!」
父は怒鳴るがーー
ラスカルも防御をどんどん作り、わたしを守ろうとしてくれるがなまじ攻撃できないので、守りを続けるしかない。
「ヴァネッサ、落ち着け!俺の声を聞け!」
「聞く?はあ?聞く??あんたが聞いてないんだろうが!!私を避けて!ラベンダーを避けて!!ちきしょう!!」
ぶんぶん木槌が風を切る音がする。
「お母様、落ち着いて!」
急いで杖を出す
《糸の妖精!お母様の動きを止めて》
糸の妖精が、しゅるしゅる糸を出す。しかしーー
「引っ込めや!燃やすぞ!」
とヴァネッサにどなられ、涙を流しながら糸の妖精は繭になって撤退してしまう。
私は真っ青になった。
「魔女が妖精を怒鳴るなんてありえないわ。お母様、やっぱり普通じゃないわ」
これはいよいよおかしいと知る。
「お母様、お父様は何もわたしにしていないわ。どうしてそんなに怒っているの?」
「そうよ!何もしなかった。いつもいつもいつも!平等といいながら、何もしなかったのよ!なによ!!あんたの子よ!ラベンダーはあんたの子だ!!」
ヴァネッサの怒りは凄まじい。
会話が成立しているようで成立しない。
血の涙もどれだけ流しているかわからない。
父は、母と一定距離を取り、拘束の魔術を展開し始めた。
だが、拘束すると、母は大暴れをして体は血まみれに、そして、体の周りをメラメラ燃やす炎で焼き切ってしまう。
父も、母のまるで死んでも構わないとばかりに流れる血にそれ以上の手出しができない。
ただ、体力と魔力がなくなるまでひたすら攻撃が終わるのを待つしかない。
「ラベンダー!先ほどの対価一分ちょうだい」
使い魔が飛んでくる。
「おまえ!ダメだ!俺のをつかえ!!」
ルシアンが使い魔に怒鳴る。
「あなたじゃダメ!魔女じゃないもの」
このまま血を流し過ぎたら母が危ない。
「猫ちゃん、何かいい手があるの?」
「あの杖にのりうつるわ。ヴァネッサの心がコントロールできなくて杖が暴走してるの」
「おい、猫!契約なら、俺としろ!」
父が遠くから叫ぶ。
この辺りの音や動きを把握しながら母から身を守っているようだ。だが、すでに何度か掠ったのか明らかに怪我をしている。
「だから....契約は魔女じゃないと...ああ、ヴァネッサの魔力をもらってるのね、わかったわ対価は?」
「俺の命一分だ。それで止めろ!」
「あなたの命はラベンダーの代わりにはなれないわよ。あくまでもラベンダーか魔力をラベンダーと交えてないと。」
そう言っている先から、母の木槌は使い魔の猫ちゃんの上も飛んでくる。
「ニャニャ!!ちょっと、わたしもねらわれたんだけど!わかったわ。特別出張契約成立、命一分あなたに!」
ニャーーーッ!
使い魔は手を挙げて契約成立と父の方向に金色の光を飛ばす。それと同時に、暴れる母の木槌は、暴れる使い魔の猫に変わる。
「なんだぁ!使い魔!!どいてろ!」
母は木槌を振り回そうとしたが、猫に変わってしまったら攻撃できない。
「みんなばかにしてぇ!!!っ!」
ふんっと使い魔を地面に放り投げたと同時にやっと木槌を手放したのだった。




