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天才魔術師団長は天才魔女姫を壊せない  作者: かんあずき


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7 お茶どころじゃない事件

部屋の荷物をしまい、わたしはこれから来るルシアンのために、お茶を入れることにした。


火の妖精に温かいお湯を準備してもらうよう伝える。

そして、魔女の森で私が育てた魔力たっぷりの茶葉ーー


心穏やかになれるように、癒しの妖精と一緒に歌う


〜お茶入ってちゃぽん、お湯入ってどかん

ぐっつぐっつ煮込めば、濃すぎるの♪

いっちにのさんで漉すがいい♪

そしたら、器にそそいじゃお⭐︎

そこに癒しのスパイスをぉ〜


演歌調にこぶしを握って鍋の上で、私だけでなく癒しの妖精も共に拳を突き上げて歌っている



それを注ぎ、妖精たちにもお礼の一杯を部屋の端のテーブルに...


「うわぁ!久しぶりに帰ってきたから部屋が埃まみれだわ」


テーブルになんて、妖精の足跡がつきそうなレベルで白い。

ここ……人が住める部屋だったっけ?


侍女がいないこの部屋では、掃除も自分でやるしかない。

時間がないので清浄魔法の魔法陣が描かれた紙を広げ、水の精霊を呼び出した。


「ええと……部屋の掃除してくれるかしら」


水の精霊は、無表情で首をかしげてこちらを見るだけ。

あ、しまった。

妖精と違って“お願い”じゃ動かないやつだ……!


どうしよう、指示し直さないと……と思った瞬間、コンコン、とノックが。


「ああ! どうしよう! はい!! 今出ます! えっと、水の精霊は……えっと……!」


扉が開き、ルシアンの声がのぞいた。


「入っても大丈夫だろうか?」


「だ、大丈夫なんですけど! その、埃が……すいません、すぐ綺麗にできると思うのですが!」


ルシアンは一歩中に入り、積もった埃と、お茶と、まだぽかんと浮いている水の精霊を見て固まった。


「……すぐ綺麗にって、侍女はどうした?」


「いません。小さい時からずっと」


ルシアンの眉がきゅっと寄る。

「なんで?君は姫だろう」


「なんでって、魔女の子で、魔女ですよ。見えもしない妖精と話をする子供なんて不気味ですから...」


「どういうことだ?」


ルシアンは、意味がわからないらしい。

私は困ったように笑った。


「かつては侍女はいるにはいたんです。でも、妖精や精霊と話している自分をみんなが気味悪がるようになってしまって。そうなると、今度は私もだんだん精霊や妖精と話せなくなり魔法が上手く使えなくなっちゃったんです」


それを見て母が必要以外は侍女が不要としたのだ。

実際、食事さえさせてもらえば、掃除も魔法を使えるし、久しぶりに魔術を使ってもいい。

身の回りは社交の場にでない限りは問題ない。



ルシアンはしばし沈黙し、ゆっくり部屋を見渡した。


「……なるほど。だから、こんな状態の部屋で暮らしていたのか」


ぐるりとルシアンは部屋を見ている。

なんか……言い方が優しいが、この汚部屋を見られるのも、恥の上塗りーー


「とりあえず、掃除を手伝おう。しかし……侍女がいないのは困ったな……」


彼はぱちん、と指を鳴らした。

次の瞬間、空気が震え、部屋の埃が渦を巻くように吸い込まれて消えていく。


「え?この規模をこんな軽く!?」

(いやいやいや! 指鳴らしただけで!? うそでしょう!?)


私と水の精霊はぼーっとソレをながめる。

そうだ!精霊を呼び出したままだった。


「あ、せっかくでてきてもらったんだけど大丈夫みたい。そうね、あとで調合に使うから《水の精霊、ここに聖なる清き水を注げ》」


水の精霊は、そばにあるピッチャーにたっぷりの水を注ぎ去っていく


「掃除するのに、魔法陣もいらなければ水の精霊も使わないんですね」


「むしろ、妖精や精霊に話しかけて思い通りに動かす方が私には出来ないが...そんな事よりも、侍女がダメでも誰か置かなくてどうする?」


ルシアンは慌てたようにいう。


「王子ではなく姫だと言っても、安全なわけではない。ましてや、私と部屋に二人きりなんて、誰に何の文句を言われても文句は言えないぞ!」


「ええっ!そんな、ただお茶をお出しして、これから話をしようとしただけですよ。」


「その《しただけ》を君はかつてどのくらいこの部屋でした?」


「どれくらいって...」


わたしはひたすら思い出す。

そうだわ!いたいた!


「15年ぐらい前に兄が来た時かしら?ああでも侍女はまだいたわね」


「......その時君は何歳だとききたくなるが。つまり、侍女がいなくなってこの部屋に男性が訪れたことはない...」


わぁ、この人、完全に引いてる。

いや、正しいけど。

ルシアンが焦ったように顔を押さえたその瞬間だった。



ざっぱーーーーん!!


私とルシアンにまるでバケツがひっくり返ったような水が落ちてきて、二人ともびしゃびしゃに!!


上を見上げると、水の妖精がぷりぷり怒りながら腕を組んでいる。


あっ!!!!

水の精霊を使うとき、水の妖精には“理由を説明しないと嫉妬する”んだった……!!


「だっだめよ!水の妖精!説明しなかったのは落ち度だけど、ルシアン様は関係ないでしょ!怒らないで!」


ルシアンは髪も服もずぶ濡れになりながら、困惑したまま天井を見上げていた。


「……妖精、怒るのか……?」


「怒ります!! 感情的だし、嫉妬深いので。すぐ、拭くものをもらってきますからお待ちください」


拭きものを取りに行こうとした瞬間、ルシアンが腕をつかんだ。


「待て!まずはーー」


ちょうどその時、扉が開いた

ちょうどルシアンが私の腕を掴んだ時だった。


みんなの視線がその腕と二人揃ってずぶ濡れの体に集まる。


「あっらぁ〜!せっかく掃除に来たんだけど、お二人で早速濡れ場だったかしら?」


ニンマリ笑った母ヴァネッサの後ろには、侍女たちが何人も掃除のためについてきている。


「ち、違いますから!!」


「……濡れ場……」


ルシアンが真っ赤になって固まった。

侍女たちの目が釘付けに...そしてどよめきに...

これはまずい


——完全に、やられた。


私とルシアンは同時にそう思った。











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