69 ヴァネッサ、反撃開始
俺、ヴァネッサ、ラスカルは、北部の魔獣討伐地域まで一気に転移する。
転移するがーー真っ暗である。
「闇の妖精たち、全員撤退!」
ヴァネッサがポケットからクッキー出すと一斉に
「お疲れ様でした」と言わんばかりに闇が晴れ、妖精たちは消えていく。
だがーー
「なんだ!更にまた防御が何重にも」
俺はしまったと舌打ちした。
俺たちが追ってくることを想定しているのか、ラベンダーや自分を守るためなのか...
何枚か転写した時止まり魔法陣を描くべきだった。
「さすがに物理攻撃でと言うわけには行かないわね」
「三人で一枚づつ破っていくしかあるまい」
だが、部屋の時の魔法陣の解除と同じで、時間を置いたら新たな防御が作られたり、一つ間違えると新しくロックされたりと難解で見たことがない物が続く
「どうしてこんなに厳重なんだ?」
「王は若い時から天才的な魔術の構築者だった。まるでパズルの様な魔術を時々俺たちに解かせるんだよ。王じゃなければ、魔術の研究者になりたかったそうだ」
俺とラスカルはひとつひとつ、絡まった糸のような魔法陣の防御を解除していく。
ヴァネッサは途中まで頑張っていたが、何かがプツッと切れたかのようにぽつりと語った。
「ここまで...ここまで私やラベンダーはなんであの人に嫌われなきゃいけなかったの...」
そして、突然解除の手を止める。
「そうよ!あの人すっごい細かい魔法陣を描いたわ。見てる側は芸術で、こんな緻密な魔法を作る人がいるんだと思って、私は感動したのに...それは私をーー私たちを攻撃するため?」
そして、目の前の復活していく魔法陣をじーっとみて、下を向いていた目が怪しげに真っ赤に光り始める。
「ヴァネッサ??」
ラスカルが恐る恐る声をかける。だが、聞いているのか聞いていないのか...ゆらゆら揺れるように、そしてその周辺はメラメラ炎が見え始めた。
「だけど、出会ったあの頃から性格に難があったわ。何もあの人は変わらない。あのクソ!人が王妃になってやったのにえっらそうに!」
そういいながら、ヴァネッサは杖にむかって呪文を詠唱すると、杖の先が膨らみ大きな木槌になる。
そして、声にドスが聞いた低い太い声にかわった。
「あいつ、まだ可愛い盛りだった魔女修行中の私に、一方的にこうやって勝負してきやがった。ふん!この、俺の攻撃を防いでみろって言うし、防御をとってみろっていうからさ、破ってやったのよこうやってぇ!!」
だんだん形相も魔女から般若のような顔になる。
「お、おい!どうした??ヴァネッサ...??」
「思い出したぁ!あの野郎、あの時も一方的!ラベンダーの時も一方的!腹たってキタァ!!」
ヴァネッサは突然、豹変してその木槌を振り回し続けた。
「何が緻密な魔法陣じゃい!何が平等に妻にしてやるじゃい!こちとら貞淑な妻でいてやったのに!!このやろう!!」
ヴァネッサが怒りと共に振り回す体ぐらいある大きな木槌で防御陣を叩き割っていく。
「気に入らないなら、さっさと離婚しろや!!腐れ外道が!」
パリン!
もちろんすぐに次のものが構築されるが、それよりもヴァネッサの方が早い。
俺たちは唖然とするが、更にヴァネッサの暴走が止まらない。
「ヴァ、ヴァネッサ!? 本当にどうした!?」
「まずくないかこれ!? 暴走……いや、怒りの魔力暴走か!?」
次の瞬間、ヴァネッサは木槌を振りかぶり――
ドガァァァァン!!
防御陣が粉々に砕け散る
パリン
パリン...
パリン
「ヴァネッサ??どうした?耳をこっちに傾けてくれ!!」
人が変わったかのように、突然ブンブン木槌を振り回し始めるともう、俺たちと会話ができない。
ただ、確実に魔法陣は減り始めている。
「何が起きたんだ!」
間違いなく俺とラスカルが防御を解除しているよりも早い。
スピード勝負で叩き割っている。
いやなんだったら俺たちが解除中のものまでガンガン割り続ける。
更に、ヴァネッサは箒を取り出し、空へ飛び上がる。
そして更に木槌を振り回しながら 暴走特急 のように上から下まで完膚なきまで防御陣を叩き砕きはじめた。
俺とラスカルは唖然として立ち尽くす。
「ヴァネッサ何も聞こえてない……完全にトランス状態だ……!」
「やばいけど……進める! とりあえず追うぞ!!」
俺たちはヴァネッサが割った防御が復活しないよう、時止まりの術をかけながらその後を追った。
道は細く、ヴァネッサから離れるとすぐ塞がる
だが、そのヴァネッサは、もう俺たちのことをみていない。
「いたわ!!あの野郎!!覚悟ぉ!!」
ヴァネッサが叫んだ瞬間、俺の視界の先に――ラベンダーがいた。
しっかりと目が合った。
なぜか、その隣には使い魔の猫もいる。
あいつ!いつの間に...クラリスのことがあった時はまだ部屋にいたはず。
だが、ラベンダーは無事だ。
それだけで胸が熱くなった。
しかし、俺の視線の先では、ヴァネッサが王を睨みつけ、木槌を構えていた。
どう見ても、これから壮大な元夫婦喧嘩が始まる。
……その前に、俺はラベンダーに触れたくて、声をかけたくて仕方がなかった。
彼女はガタガタ震えていて――今にも逃げそうだった。




