68 母の覚悟、男の愚かさ
「結局、クラリスは王子とも関係を持って、その後...王と関係を持ったのだと思ってたんだが、王妃にするというのは嘘だったなら何のためにあんなことを言ったんだ?」
俺はヴァネッサに、ずっと引っかかっていた疑問を投げた。
「おそらく、全部あなたを動揺させるための茶番よ」
ヴァネッサは肩をすくめ、悲しそうに話した。
「あなたが揺れれば、それだけでラベンダーは傷つく。実際に傷つけたでしょう?」
「……否定はできない。好きなのはラベンダーだけだが、クラリスのことで動揺して、思ってもない言葉をかけたのは事実だ」
俺は苦々しい気持ちでいっぱいだった。
間違いなく、ラベンダーが好きで、クラリスにはラベンダーを投影して、手に入らないラベンダーの代わりとして見ていたのがスタートだったと思う。
でも、自分の中では間違いなくクラリスに想いを寄せていた時期があったのは事実で、相手が踏み台にしか見てなかったというのは結果に過ぎないのだ。
その突然の関係の終わりの後、きっちり自分の中で整理してなかったところを突かれたのだ。
「責めてるんじゃないわよ。私もあの場にいたんだから」
ヴァネッサはため息をつき、少し目線を落とした。
「ずっと離婚を申し出ていたから、あの人とは最近は喧嘩も絶えなかったし、おそらく嫌がらせのつもりだったのよ。彼は、愛していないっていうくせに、私と離婚をすることは納得しなかった。だけど、私は、ラベンダーもあなたに任せて王家からあの子を救い出した後は、このまま生活を維持していく気にもならなかった。
実は、親子関係さえはっきりさせられたらと思って、私は何度か王とラベンダーの親子関係を測ろうとしたことがあるの」
「どうやって?」
「科学の国では、髪の毛や血液による検査もできると聞いていたわ。だから、閨の場で何度か髪の毛を引きちぎったり、背中に思いっきり爪を立てて流血する様に企んでみたの。それをとったら国外に出て検査してくれる国を探し回るつもりだった。でも、失敗するのよ...王も魔術は長けているから、すぐ回復させてしまうの」
ヴァネッサは真面目な顔をして俺とラスカルに言う。
「それは...」
「痛そうだな...」
俺とラスカルは二人でドン引きしながら、頷く。
「だから、今度は王を眠らせて多少の魔力をとろうと思ったわ。魔力を吸い取ればラベンダーとの親子関係は証明できる。そしたら魔力の吸い取りを発動させたと同時にルシアン、あなたが飛び込んできたのよ!」
「あっあれは、まさか!」
「そうよ!せっかく必要なものをとろうとしたのに、あなたは飛び込んでくるし、王には私が命を狙おうとしていたと誤解されるし散々よ。王の部屋で私がやることなんて、娘のためになることしかないでしょうに!!」
「すまない。他の王妃が怪しげな魔道具や薬を手にしてしまうことがあって警戒していた」
「私と王はそんなもの使う関係じゃないもの。そんなの使ったって虚しいだけだわ。だって、自分の子供のことすら信じてくれないんだから」
ふんっとヴァネッサは唇を噛む。
「まあ、でもこれでうまくいくかもしれないじゃないか」
ラスカルがヴァネッサの肩を叩く。
「王はヴァネッサに固執していてね。普段の行動の制限も激しかったんだ。離婚してやっと私の元に来て、先ほど言っていた魔力を使って今度こそ親子がわかる検査の結果が出た。そして、私との関係もわかったんだよ」
ヴァネッサは頷いた。
「これでダメだったら、私今度こそあの人をしばき倒すわ。」
「話を聞けば聞くほど、王がラベンダーをどうしようと思っているのか不安でならないが...とりあえずラベンダーが二人の子供じゃないってわかったんだな。それなら、早く彼女の元に行きたい。だが、そんな背景のある娘を、王はどこへ連れていったんだ?」
「私と王の魔力は混合されているの。あの人が少しでも魔法を使ったら、私は感知できるしその逆もあり。」
ヴァネッサは、杖を取り出した。
《私の魔力を探知し、妖精よ!その姿をみんなの前に見せろ!導きその道を示せ》
ヴァネッサの目の前に、闇の妖精がクルクル回る。
「お前たち、どこで王に呼ばれたの?」
「北だよ」
「まじゅうたくさん」
「その先には瘴気もあるんだ。かくさなきゃ!守らなきゃ」
俺は久しぶりに見る妖精に思わず寄って声をかける
「それは、先ほどまでラベンダーが飛んでいた北部のことか?」
「そう!」
「ラベンダー、いまもとんでる!」
俺はホッとする。とりあえず無事だ。
「先ほどまで北部に増えている魔獣と瘴気の視察に行ってたんだ。そこだ」
俺の言葉に、ラスカルが怪訝な顔をしながら聞いてくる。
「なんで、視察をラベンダー姫が?」
「ああ、結婚したばかりだし、彼女も王のことを調べたいというから、新婚旅行と視察と護衛が兼ねれていいだろうと思ったんだよ。でも、さすがに危険もあるから、視察の間はちゃんと宿に留守番させて一人で視察は行くつもりだったんだ。ただ、喧嘩になって、その後は、さらにクラリスのことまで....」
ヴァネッサとラスカルが顔を見合わせる
「あんたバカなの?新婚旅行になんで兼ねるものが必要なのよ。しかも、新婚旅行中になんで部屋に戻ってきてクラリスに襲われかけてるの!」
「それはいくらなんでも姫が可哀想すぎる!!」
俺は、二人の悲鳴の様な非難の声をきき、一般的ではないと理解する。
そして、ラベンダーがあの時に衝撃を受けていた気持ちをさらに知り、自己嫌悪に陥るのだった。




