65 彼女を失った瞬間
俺は迷わず王の部屋に転移した。
だが、弾かれて部屋の入り口の外扉の前から進めない。
《なんだ?この防御の層の厚さは...》
ここは、森から戻ってきたラベンダーと自分がかつて再会した場所だ。
今回も、扉の前には通常運転の護衛たちが立っているが、その異変に誰も気づいていない。
「おい、王の部屋にラベンダー姫がいるはずなんだ。取り次いでくれ」
護衛が、敬礼するが困った様に答える。
「ルシアン様、王からは必要時以外誰も通すなといわれてるんです。ラベンダー姫はここを通られておりません。」
「魔術陣が誤作動で王の部屋に飛んでしまったんだ。絶対いる。結婚印が反応しているから間違いない」
「誤作動ですか...問い合わせてみますが....」
護衛は室内に入ろうと外扉に触れるがびくともしない。
「あれ?さっきまで普通に開いたはずなんだけど」
「そうだよな。」
外扉の中に、王の衣装室や食堂、謁見室、王の部屋がさらにある。
だから外扉は普通に出入りできるはずだった。
「魔術で強固な防御がかかっている。解除させてくれ」
俺は普通にすぐ解除できると思っていた。
だが見たことがない複雑な術式で解除したのを合図に三重ロックが新たにかかる、
それを解除しているうちに前の防御が復元したりと全く歯が立たない。
「なんだ?この術式は??見たことがない」
ラベンダーではない。
王妃や王子はこんな高度な魔術は使えない。
とすれば...王か?
「くそっ!」
考えればわかることだ。
王子二人と、魔術は使えないラベンダーのイメージで、王家は魔術は苦手と思っていた。
でも、魔女は魔力もちの子種をもらうのだ。
この国で魔力があるのは王家、貴族、ごくわずかな一般人。その中で王が強力でもおかしくない。
いやむしろ政略結婚を繰り返すのだから最強なのが自然だろう。
下手をして解除の失敗が続いたら、そもそもの防御のロック解除ができなくなる仕組みもいれられていそうだ。
俺は紙を持って来させ、いくらか魔法陣に時を止める術式を描き続ける。
そうこうしている間に時間が経っていくが、ミスしたら許されない。
一つ魔法陣を解除しては時止まりの魔術を展開させつつ次の魔法陣も解いていく。だが、その解除も見たことがない難解なものが多く、それが明らかに何重にもなっているのがわかる。
「焦っては...ダメだ。ラベンダー待っててくれ」
ひとつ、ひとつ...順番に解除していくが、再び背後で騒がしい声が聞こえる。
グレイとミハエルだ。
「すまない。大変そうな時だが報告だけさせてくれ。クラリスだが、王妃になっている話はデマで彼女の部屋はないらしい。牢屋に入れる方がいいかは判断つかない。本人はラベンダー姫の部屋が自分の部屋だと言い張るので入れたがいいだろうか?」
「なんで、ラベンダーの部屋を??」
苛立ちが抑えられない。
なんでこの二人も、本物の姫に攻撃しておきながら、偽物王妃のクラリスになんで気を使うんだ。
周りのそういう反応に、ラベンダーも沈み込んでいくんじゃないか。
いや、落ち着け!まずはここを開けたい。
恐ろしい数の魔術陣で気が遠くなる。
グレイとミハエルも俺が悪戦苦闘していることに気づく。
「時止まりの魔術陣はあと何枚いる?」
「俺も一緒に解除する」
ミハエルとグレイもその難解な防御を見てしばらく固まったが、すぐ一緒に動き出した。
そばで見ている護衛たちはオロオロし、何があったと周りも遠巻きに見始めた。
「あと防御は何枚だ?」
「五枚だ。だいぶ減った。でも一枚でも失敗したら元に戻る。気を抜くな」
だがそこでふっと、結婚印のチリチリ感が消えた。
ハッとその結婚印が入ってる見えない印に触れる。
「しまった!どこかに移動した。」
「移動したって?彼女が?それとも王が??」
「わからない。彼女の結婚印や魔力が消えた。」
「とりあえず、ルシアンこの扉を開けよう。なにか次のヒントがあるかもしれない」
次の転移先を探すにしてもよほど近くないと探せない。お茶の茶葉から探し出したように、何か彼女に関わりがあるものを持っていないと....
俺は、この結婚印以外何も繋がりがない。
関係は夫婦だというのに、共有のものも持たずに、お互いがただいまと帰る家もなければ、連絡手段すら作っていない。
呆然としている俺を慌ててミハエルとグレイがなんとか励まそうとしている声が聞こえる。
だが、それも遠く聞こえる。
俺が全部撒いたタネだ。
せっかく、森まで俺を入れてくれたのに。
彼女を再び傷つけてしまった。
そして、今王と二人でもっと心がボロボロになるような目に遭わされているかもしれない。
唯一の得意な魔術ですら、この防御の前に敵わない。
俺は...どうしたら?
「お前が崩れたら誰が姫を助けるんだ!俺たちも助ける!しっかりしろ!!」
グレイの声が遠くに聞こえるが...
思わず膝を落として絶望的な気持ちになる。
その時ーー
「なによ!数日ぶりに元夫のところに遊びにきたら、なんの騒ぎよ?ちょっと、そこ邪魔なんだけど?ルシアン何してるの??入らないならどいてくれない?」
高いピンヒールに、黒いドレス、大きなつばのついた帽子に、さらさらの長い黒髪、美しい目鼻立ち、赤く細い魅惑的な唇ーーー
これぞ魔女、いや魔女ではないと着こなせないと思わせるダイナマイトボディ
「ヴァネッサ王妃...なんで?」
空気が一瞬で甘い香りに変わり、この周辺の雰囲気を支配していく。
「どうした?ルシアン」
俺は、さらに目を見張る。その後ろにいるのは...
「ら、ラスカル殿...」
俺は目の前に現れたヴァネッサとかつての上司だったラスカルが現れる展開に、何があったと動揺せざるを得なかった




