64 愚かさの代償
話はクラリスが俺ーールシアンの部屋にいるとラベンダーに聞いたところに遡る。
クラリスが俺の部屋の合鍵を持って部屋に入っていることを知った時、俺はしまったと思った。
すっかりその存在を忘れていた。
俺とクラリスの別れは、突然だった。
俺が、クリス王子の部屋を訪れた時、まさに彼女だと思っていたクラリスとクリス王子が抱き合ってキスを交わしていた最中だったからだ。
「どういうことだ」
俺は思わず声を荒げて二人に詰め寄る。
だがクリス王子から出たのは予想外の言葉だった
「いいだろ。ルシアンとクラリスはもう別れたんだから、別れた後の女の動向まで口を出すことじゃないだろ」
「は?」
「やめてあげて、クリスさまあ。ルシアンってば、わたしのことを忘れられないみたいなの。仕方ないわよ。ずっと、ラベンダー様の子守りばかりで大人の女性を知らなかったんだもの」
「え?ラベンダーの子守り?マジかよ。あの田舎を回るやつだろ」
勝手に任務のこともバラされて、いやそれ以上にプロポーズを次に会った時にはするつもりだったから、何も言えずショックを受けたことを覚えている。
俺はちょうどラスカル魔術師団長が退職して、職務を引き継いで団長になったばかりだった。
そして、出世を機にプロポーズしようと思っていた矢先だったのだ。
慣れない仕事でクラリスにかまってなかったからかもしれない。
あんなに仲良く日々未来を語り合っていたと思っていたのは自分だけだったのかと落ち込んだ。
「王子と付き合っているので、もう関わらないで」
と伝言だけ受け、クラリスは、クリスだけではなく、リチャードにも手を出し、二人の王子はそれぞれに問題を起こし、その後始末は全部自分に降りかかってくる。嫌になって辞表を叩く。その間、ショックから立ち直ることに精一杯。
鍵のことはすっかり忘れていたが、あまりに詰めが甘いと言われても仕方がない。
結局ラベンダーを最悪の形で裏切ることになった。
だからこそ、きっちりクラリスに自分はラベンダーをずっと見守ってきて想いを寄せていたことやクラリスには何の想いもないこと、ラベンダーと結婚していて、彼女を悲しませる行動は一切とりたくないと言うつもりだった。
まさか、会ってすぐに抱きつかれてキスされそうになるなんて、しかも、それを転移した彼女に見られるなんて。更には、クラリスが侵入したことを察知して、駆けつけてくれた副団長二人が、まさか彼女を不審者と間違えて攻撃するなんてことが起こるとは予想もしてなかった。
「闇の精霊、完全に覆って!私を、部屋を覆って!」
あの彼女の悲鳴のような声が耳から離れない。
やっと、闇の精霊から離れて顔を出そうとしていたのに。
俺は、使い魔の件といい、初夜の暴言といい、彼女を傷つけることしかできていない。
「ラベンダー待ってくれ」
だが、部屋は闇の精霊が覆い何も見えない。
やっと落ち着いた時にはもちろん彼女はいなかったし、俺の叫びにミハエルとグレイもやらかしたと蒼白になっていた。
クラリスだけが、してやったと笑っていた。
「何あの子、あれがラベンダー姫?無様な格好ね。あなたの部下に不審者に間違えられるなんて恥ずかしすぎるわ。
だって、合鍵をわたしにくれたじゃない?鍵も変えてないなんて私を待っててくれたって考えていいわよね。
私とあなたが過ごしたベッドで、あの子は私の代わりをしていたのかしら?...あはは。なんだ、てっきりあなたは寝言で言うほどラベンダー姫を好きだったんだと思ってたけどそうじゃなかったのね。」
わざと大声で話すので、周囲に人が寄ってくる。
ざわざわ人が噂を立てていく。
クラリスがこの部屋に自由に出入りできる関係なんだ。
ラベンダー姫との結婚は.クラリスが王妃になったことの代わりだったのか
副団長が間違えて攻撃するような身なりをだったらしぞ
このままではラベンダーの悪評が伝わる。
俺は、みんなに聞こえるように叫んだ。
「俺が好きなのはずっとずっとラベンダーだ。クラリスには悪かったかもしれない、君がラベンダーの代わりだった。俺にとって、生まれて初めて好きになった人で、歳の差もあったし、ずっと届かないと諦めていた姫だ。勘違いさせて悪かった。
婚約者でも妻でもない君が私の部屋の鍵を持っているのはもちろんおかしいことだ。王に伝えて、王妃が私の鍵で私に不貞行為を持ちかけようと企んでいたことは伝えさせてもらおう。
さあ、鍵を返してもらおうか」
俺は副団長に命じてクラリスを確保し、鍵を奪い取った。
「彼女は監視の元、部屋に送り届けてくれ。以後逃げられないように」
そう告げると、ミハエルが頷き彼女を連行した。
「ラベンダー、ラベンダーはどこだ?」
目を閉じて結婚印から彼女を追う。
だが、彼女の居場所はまさかの部屋だった。
「王の部屋?王の部屋にいるのか?」
この間の王の様子を思い出し、体に震えが走る。
先ほどの落下で身動きすらとれなかった彼女が王の部屋に転移して、何もダメージを受けないとは思えない。
俺は身体中から流れる汗が止まらなかった。




