62 父が抱えていた孤独
向かってきた羽音は百は超える。
私は手から杖を出し箒に跨る。
「いい、お前は手出しなんてするな。」
父は、私の動きを手で止める。
そして、口の中で何か囁くように呪文を詠唱したかと思ったら、炎が一直線に螺旋を巻いて魔獣の鳥に向かって突き進んでいった。
その炎は、魔獣を飲みこみ、散り散りにして羽も骨も焼き切って殲滅させてしまう。
ほんの一瞬の出来事だ。
私は思わずポカンとしてしまう。
「お父様って...実はすごいんですか?」
「そこで、そうです。私はすごいんですっていうやつがいたら、そいつはバカだろうな」
ふんっと鼻を鳴らす。
「うーん、でも、同じことをお兄様がやったら二人とも俺ってすごいっていう気がするわ。」
「....頭が痛くなる。あいつらのことは聞かさないでくれ」
「はい...」
私はお兄様との会話を思い浮かべて、バカ云々の前にタチが悪かったことを思い出す。
でも、お父様の反応を見ると、お兄様を部屋に呼んで話をしていたようだし、なんとか改善を考えていたのよね。
それなのに、恨んでいる血のつながらない娘から、知らないくせに兄のことを追求してくる私の言動には腹が立っても仕方なかっただろう。
「お父様...この間のこと、わたし兄だと思ってたから...ごめんなさい。お父様は色々耐えたのに...」
「別に、お前が幸せになるようにお膳立てしてやったのに、文句言われるし、ルシアンのバカがあんまりにもバカだからおかしくなっただけだ。」
父は決まりが悪そうに進行方向を見つめていた。
「兄のことを言われて、ヴァネッサといよいよ言い合う日々が続いて、どうせお前はルシアンとうまくやるんだからちょっとぐらい意地悪するぐらいの気持ちだった。
ヴァネッサの娘だからもう少し性格的に立ち向かうタイプに育っていると思ってたしな。
でも、髪はなくなるわ、頭に怪我するわ、背中の骨は折れてるわ、挙句にルシアンがクラリスと浮気するとか思わなかったんだよ。想定してなかったんだ」
「あはは、私の幸せのお膳立てにはならないですよ。ルシアン様は私の心配をしてくださる魔女の理解者ですけど、だからと言って自分に心がない人がそばにいるのは辛すぎます」
私は苦笑いするしかなかった。
その横で、ニャニャニャと使い魔が再び口を開く。
「そ、それなんだけどね!!」
慌てて会話しようとするので、父が再び一喝する。
「お前は黙っとけ。お前が口を出すとどんどんおかしくなっていくだろう!」
「猫ちゃん、いいのよ。もう。お父様、この国に魔女はいないとダメなのかしら?みんなに嫌われて、幸せになれない魔女なんて私は産みたくないの。」
それを聞いて、息を呑んで父は困ったように答えた。
「先ほど伝えただろう。瘴気を使い魔に出来るのは魔女と魔女から魔力をもらったものだけなんだ。
この国に魔女がいなければ瘴気は聖女頼みになる。それでも限界があるから、魔女がいなくなればこの国は魔獣を常に討伐することになるだろうな」
「お父様は...お母様から魔力をもらったということですね」
父は、ちょっと声に詰まり「ああ」と小さく声にする。
だから杖を取り出せるし、瘴気を使い魔に変えられるのか。
私は今までの父の言動に納得した。
「でも...それってお母様もお父様のことをやっぱり好きだったんじゃないかしら。だってルシアン様の話を聞くと、魔力混合は一生消えないタトゥーのようなものだって言ってたわ。だから、よく考えて渡さないといけないものなのよね」
父は、はあっ?という顔をする。
「お前は、母親の性格をもう少し知っておけ。ヴァネッサは、むしろ私のものだと見せつけて歩きたいタイプだろうが。」
「そうでしょうか?だって、瘴気を操って使い魔に変えられる人がたくさんいたら、それこそ大混乱です。やっぱり、お父様を選んだんだと思いますけど...」
私はそんな信頼する人はもう現れない。
なんでそこまでするほど信頼していたのにお母様はラスカル様と関係を持ったのだろう。
「そういえば...こんなこと興味本位で聞いていいのかわかりませんがーーお父様の体には、他の王妃のお二人の魔力も入っていますの?体で喧嘩しないのかしら??」
私からすると純粋な疑問だったのだが...
その後父からは爆弾発言が落ちてきた。
「第一王妃と第二王妃とは、後継を作る目的で結婚をした。ヴァネッサとも話し合いをしたが、魔女は男は産めないらしくてな。
だが、ヴァネッサにも言ってないんだが....第一王妃と第二王妃とは、白い結婚だ。だから、お前の兄二人も私の子ではない。」
「えっ!」
今私何を聞いたの?
いえ、これって雑談で聞いていい話じゃないわよね
でも、お父様はやけになったのかしら?
なんか、なんでも教えてやるって感じなんだけどーー
「いいか、考えてもみろ、ヴァネッサとの結婚を認めてもらうために政略結婚したんだ。なのに、なんでわざわざ第二夫人に長男を産ませる必要がある?余計なトラブルが増えるだけだ。だが結局、お前も違う。私には、子は誰もいない。」
やっぱり聞いちゃいけない話じゃないの!!
その発言に、なんで迂闊な質問をしてしまったんだろうと戦慄した




