61 使い魔の秘密
どうして本当にこうなったんだか...
結婚して、魔力混合をするかどうかといって考えていたところまでは幸せだったのだ。
私も、彼に惹かれ始めていたし、不器用だけど優しいいい人だと思ったし、誠実に見えた。それが...
私は、泣きたくなってきた。
この後、ルシアンと別れて、他の人と関係を持つこともなく、後継も作らないとなれば...どのタイミングで魔女のペナルティは来るんだろうか?
無言の父を横目で見ながら、私は箒を空間バッグから取り出した。
こんなもの!とルシアン作成の箒を投げつけたい衝動になるが、とても出来栄えが素晴らしい上に、大樹様の貴重な枝を使っている。
しかも、なんだったら捨ててもスペアがもう一つあるという状態。
捨てられないわよ。もういいわよ。
でも、箒を使うたびに、私は彼を思い出さなければならない。
完全に何かの罰ゲームみたい。
それこそ、再びルシアン様とクラリス様が二人でいる時に、私が、ルシアン様お手製の箒を大切に使っている姿なんて見られた日には...惨めすぎるわ。
いいわ!
とにかくこの箒これでもかと早く壊れるまで使いまくってやろう!
私はぐっと涙を堪えて、箒を撫でた。
箒に罪はない。
そんな私を横目で見ながら父は使い魔と話している。
「おい使い魔、魔獣までの距離は?」
「うーん、魔獣はこの先50キロってとこね。だけど、その奥に濃い瘴気だまりがあるわ。」
「魔獣と瘴気は抜いてお前にくくりつけたらいいか?」
「えーっ!これ以上魔を濃くしたくないわよ」
「じゃあ、新しい使い魔を作るか?」
二人はわいわい騒いでいる。
「お父様?新しい使い魔を作るって?」
使い魔ってそういえばどうやって存在しているのか?
召喚方法は知っていたけど、使い魔そのものを生み出そうなんて、それは悪いことのように思えて考えたこともなかったわ
「話の通りだ。瘴気の核に命令して、使い魔として瘴気を集め新たに召喚する。それだけだとただの瘴気の塊で危ないが、そこに対価を加えたらそこの猫のように、主人の性格を受け継いだ使い魔になって命令に従ってくれる」
私は思わず使い魔を見る。そういえば猫を呼んだから猫だけど、姿形は自由に変えられると聞いたことがある。
「猫ちゃんは、私の髪を対価にして、猫を呼んだから、私の性格を受け継いだ使い魔の猫ちゃんということですか?」
すっかり姿が猫なので、喋らなければただの猫にしか見えない。影ですら猫マークなのだから。
「そいつは、ヴァネッサの初めての使い魔でもあった。だから大半の性格はヴァネッサだ」
「猫ちゃん、お母様の使い魔だったのですか?」
私は驚いて使い魔を見る。
そういわれれば、喋り方や性格は少しお母様に似ている気がする。
「ちょっとぉ!私の契約を勝手にいろんな人にぼろぼろ話さないでもらえるかしら?」
使い魔は、プンプン怒ってお父様を引っ掻こうとする。
うん、確かにお母様だわ。
その引っ掻こうとするあたりが、ただでは終わらない性格を表しているし、騒ぎを大きくするところや、妙に面倒見がいいところも似ているわ
「で、でも...お母様はいろんな使い魔を持っているわ」
私はそれが気になった。
私にとって初めての使い魔は猫ちゃんだ。
これから色々お願いをすることがあっても、使い魔をたくさん持とうとは思わない。
猫ちゃんだけを生涯、使い続けると思っていたからだ。
「かつては、ヴァネッサも使い魔はこいつだけだった。ただ、この国の色んなところで瘴気が漂ってしまったから、使い魔に変えていったら増えてしまった」
「そうなの?瘴気は全部聖女が消してくれていると思ってたわ」
「聖女も消せるが広範囲には無理なんだ。ああ、あのクラリスとかいうやつは全く力はないぞ。ステータスを見たが酷かった」
父は顔を顰めた。
鍛錬してもアレは絆創膏ぐらいにしかならないだろうと呟いている。
そうか、じゃあルシアン様とクラリス様が一緒に魔獣退治に行ったりすることはなかったのかもしれない。
なんの結果も変わらないが、妙にほっとする。
「使い魔の対価は爪でも髪でも1秒の命でもいい。だから、瘴気を吸い上げて使い魔を作ったんだ。対価を渡しておけば従順な魔になる。だからあちこちに使い魔がいてヴァネッサは色んな使い魔を使っている」
「え?そうなの?」
使い魔を維持するには、一定の対価を預けておくものだと思っていた。だから依頼内容の対価として私は一年分の命を預けているのだ。
でも、王家の主催パーティにルシアン様と参加することもないだろうし、そんな依頼、もう必要ないのかもしれない。
「ああ、それなのに髪をそこまで刈り取られて何をお願いしたんだと驚いたんだ。」
痛ましいものを見るように父が頭を見る姿は、ルシアン様が私に向けていた謝罪の姿と重なる。
「こいつは性格はヴァネッサで、本体が魔なんだから、がめつく取るに決まってるんだ。一体どういう交渉の仕方をしたんだ?」
商売と同じなのね。足元を見られたらダメだったんだわ。
使い魔にまで騙されるなんて...不覚
私は世間知らずで恥ずかしくなる。
「どうって?私の中で対価にできるものはないですかって?それで、髪の毛と仮払いで命一年分を...」
それを聞いて、父の目が一気に見開かれ、唾を飛ばす勢いで肩にいた使い魔を掴み上げる。
「はあっ?おいっ!猫!!命を返せ!そんな契約いらん。仮払いってことはまだ実施してないだろう」
ブンブン振られて使い魔は、毛を逆立て、フギャーっと臨戦体制の鳴き声で爪を立てる。
「もうっ!ルシアンもあなたもほんと似てるわね。契約は主人としてるの。交換したいとか返せとかバカ言わないでよ」
「お前は関係なくどうせヴァネッサやラベンダーの横について回るだろうが。おいラベンダー、仮払いの命は一分以外返せって言ってみろ」
「あーーーっ!あんた営業妨害!」
掴み上げられた使い魔は、空中でシュッシュッと音を立てる勢いで爪を立てている。
間違いなく当たったら流血ものだ。
「え?猫ちゃん、一分以外の残りの仮払いの命返してくれるの?」
私は渡したものを返してもらうという発想がなかったので、お父様に言われてハッとする。
「当然だ」
父は、「そうだよな」と首元を掴まれたまま、爪を立てる使い魔を睨みつける。しばらく、その睨み合いは続いたが、ふうっと使い魔はため息を吐いた、
「もうっ!余計なことをいうから。わかったわ。返すわ」
使い魔は、猫の肉球を私の方向にかざす。
ピンクのかわいいぷにぷにの肉球からは、キラキラ金の砂上の光が帯になって現れ、私に流される。
ふわふわポカポカとその瞬間暖かくなり、心もポカポカ暖かくなった。
それをみて、ほっとしたように父は話した。
「魔は、つけ込むんだ。どんなにヴァネッサの中身でもそれが特性だからな。だからこっちから提案しないと、色々取られてしまう。ヴァネッサも教えておけばいいのに」
ぶつぶつ文句を言っているが...めちゃくちゃ貴重な話を教えてもらったような気がする。
とりあえず命は一分を除いて戻ってきた。
それについてはほっとしたけど、父が母のことをこんなふうに話すのは初めて聞く。
間違えてなければだけど、お母様のことを話す時には優しい気がするし、使い魔との会話を見ても楽しそう。
お母様とこんな関係だったんじゃないかしら?
「あの...もしかして...だけど、お父様ってやっぱりお母様のこと好きだったの?お母様にはあんなこといってるけど、それはラスカル様とのことがあるからそう言ってただけ?」
「.......」
否定しないということは、やっぱり好きなんだ。
でも、離婚や私に対しての行動や発言の恨みつらみをみると、あんなことをお母様に言った原因は私よね。
「私を恨むのは...ラスカル様との子供ではないかと疑っているからなの?」
「疑っているというより、お前はラスカルとヴァネッサとの血縁関係があると魔力検査で出てるんだから二人の子だ」
父は、寂しそうに呟いた。
「えっ?」
私がその事実を聞き返そうとした時、遠くから羽ばたく音と幾重にも重なる黒い羽が見え近づいてくる。
「魔獣が飛んできたな。久しぶりに腕がなる」
父は、その影を見てニヤリと笑った




