6 姫の認識阻害作戦
私はとにかく動揺を悟られまいと決めた。
「ルシアン様、間違いなく父にはあなたとのことを話そうと思ってきたのだけど....心配しないで!必ず白紙に戻してみせますから!!」
声だけは力強く、足はガクガク、そして、顔だけ影の妖精に隠してもらい、父に取り次いでもらうように話した。
しかしーーー
「全ての子は平等にーー謁見時間も平等にーーだそうです。申し訳ありませんがお引き取りを」
とにべもなく断られてしまう。
「なんですって!帰還命令出して、更に兄二人の尻拭いをさせられてる段階で、すでに平等じゃないでしょうに!!」
愕然とするーー今、本当に今、ルシアン様に心配するなと言ったばかりなのに、私がすでに心配な種そのものじゃないの!
扉五メートルの距離で、簡単に護衛に押し除けられる姫ーー
「無理だろう。あの二人は一度言い出したら聞かない。ところで君はなんでまだ顔だけを隠している?下手に隠したら、王に何かあった時に疑われるだろう。」
ルシアンはそれをみながら腕を組み、私を見下ろしてため息をつく。
……確かに。
そして護衛たちは、私を警戒している。
今の私は、周りから見ると顔だけ黒く塗りつぶされて歩いて話す気持ち悪い存在だ。
彼らの顔から嫌悪感が滲み出ている。
仕方なく、「影の妖精、離れていいわ」と声をかけると、私の周囲に黒い渦が巻いた後は天井に向かって消える。
その瞬間。
廊下の空気が“ぴたり”と止まった。
護衛たちも、ルシアンも。
まるで幻でも見たかのように、私を凝視している。
「そ、その……今度は本物です。ちゃんと。でも、その、顔をまじまじ見られるのは、ちょっと……嫌で……」
私がモジモジ言うと、ルシアンの険しい顔が、初めて僅かに緩んだ。
「確かに、本物だな。……成長した顔を見るのは久しぶりだが」
(以前、一人で自由自在にしているのがしているを、みられてるものね……)
ルシアンは腕を組み、観察するように言った。
「魔術師でもほとんどのものが、妖精の仕業は見抜けない。妖精は私たちには見えないんだ。私も廊下で妙な魔力を感じて来てみたら、黒い塊が動いていたから、やっと君だと分かったぐらいだ。防犯上使うとしても、魔術の認識阻害程度にしてくれると助かるんだが」
「黒い塊だと、なぜ私だと分かるんです?」
尋ねると、ルシアンは即答した。
「王城で妖精を使うのは魔女だけだ。ヴァネッサ王妃は、光の妖精を使って自分を光らせるからな。
城下では聖女と間違われるほどだ。間違っても影の妖精は使わないだろう」
……さすが母。妖精をレフ板扱い。
私はそっと視線をズラしたが、護衛たちはまだ固まったまま。
ひそひそ声が聞こえる。
「……姫君って……あんな顔…」
「いや、噂には聞いていたが…目のやり場が……」
(あんな顔って!目のやり場に困るほどには、ひどくなってないはずけど!?)
一応王城の部屋の鏡で顔を確認したのだ。
母のように華やかではない。地味ではあるが、薄く化粧もしたしそこまでひどくはないはずだ。
ルシアンはそんな護衛たちを一喝した。
「視線を逸らせ。姫が困っている」
護衛全員が一斉に視線を外す。
その一瞬、ルシアンだけが私に向けて、静かに目を細めた。
「色々、お互い話をした方が良さそうだ。このあと...話したいことがあるんだが、部屋を訪ねてもいいだろうか」
「はい、わかりました。あの...お願いが...」
「なんだ?」
「認識阻害かけてもらうことはできますか?この後詳しくお伝えするつもりでしたが、私本当に魔術が得意ではないのです」
ルシアンがまさかという驚愕の目で私を見る。
ーーそのまさかですよ。
出来の悪い兄二人だって、認識阻害は使えて、しょっちゅう城下に抜け出ようとしているのに...
「私はあなたの教育を頼まれた...ように、いや、自分がみると言ったのか...いやそこまでとは...」
「はい。出来の悪い兄に愛想を尽かしたというのに、申し訳ないと思います」
頼んだのは私ではない。
いたたまれない空気が流れ、再び影の妖精に姿を隠してもらいたくなった




