56 魔女は守られるだけじゃない
シーウェンを旅立ち、海を跨いで魔獣が出たという山の方向に向かって箒を進める。
海風が気持ちよかったが、それを抜けてからはむしろ風は冷たく強かった。
「山の方向に魔獣が暴れているというから確認をしたいんだ。」
「わかりました。瘴気も確認しますか?」
「いや、まずは報告にあった魔獣を討伐できる限り討伐しておきたい。君は近くの街で宿を取るから待っていてくれるか?」
「はい?ここまで来てお留守番は嫌です」
ルシアンの眉が、とても嫌そうにぎゅーっと寄る。
何を言っているの。
だって、私はもう姫ではない、
ただの魔女だ。
「浄化はできないけど、魔獣が発生したヒントぐらいは私だって見つけられそうじゃないですか」
「発生したヒント?魔獣は瘴気の沼から現れるのはもうわかっている」
私が魔獣に向かって行く気満々なのを見て、ルシアンの動きが急に変わる。
箒の前にどんどん壁を作って私の進路を塞ごうとするのだ。
「なにするんですか?」
「視察は魔術師団の仕事だ。君の仕事じゃない」
私はぐるっと逆さまのの状態で、箒に跨ったままスピードを上げる。
魔法陣は、逆さまには動けない。
だから慌てて、ルシアンは真っ青な顔で私をおいかける。
「とにかく君の出番はない!危ないから宿でーー」
「いやよ。もう私は護衛される立場じゃないのよ」
そろそろ子供だった頃の護衛対象ではないことを自覚して欲しいわ。だいたい、魔術師団の仕事と新婚旅行を混ぜ込んだのは、ルシアンじゃないの
私は、再び箒をまっすぐ握りなおして、山の方向に向かって進む。
下は、平野で街ではないが、ところどころに家が点在している。
「箒を持って飛ぶのは流石に魔女だと言ってるようなものよね。高いところを飛ぶわ」
上に上がると冷たく、さらに強い風に変わる。
でも、きっとこれだけ距離があれば、人が見たときには鳥に見えるはずだ
わたしは少しムッとしてルシアンに話しかけた。
「聖女なら一緒に行くんでしょう。別にヤキモチではないのよ。でも....魔女だって何か役に立てればみんなの見る目が変わるかもしれないじゃない?」
ルシアンは、空中の魔法陣の上で、何を言ってるんだ?と言わんばかりの顔で固まる。
私はプイッとルシアンから視線を逸らした。
「実は、使い魔を召喚する時の杖は瘴気で枯れてしまった木の枝を使っているんです。ということは、瘴気は何らかの魔と関係があるのではないかと思うんです。だから...聖女じゃなくて、魔女だって行ってもいいと思うの」
別に聖女と張り合っているわけではないことを、アピールする。
魔女の杖は、目的に合わせて何本もある。さまざまな杖は、魔女の師からもらうもので、瘴気に関係した杖は魔の召喚だ。
杖の作り方は知っているから、それをうまく活かせば瘴気も安全に抑えられないかしら?
瘴気を浴びた枝から作られた杖であっても、その杖は自分を害することなく存在して安全なものだ。
その技術を活用できれば...
ルシアンは、はぁーっとため息をついた。
そして私を恨めしそうに見る。
なんだかわがままを言っているようで、ちょっとカチンとくる。
そもそも、新婚旅行に視察を組み込んだルシアン様が悪い。
「魔獣の規模がどのくらいかわからない。あまりに多いなら、何もせずに防御結界だけ街と山に繋がる道に貼るか、道を一時的に封鎖しようと思っている。危険に巻き込むわけにはいかないし、君は転移をせず箒移動だろう?瞬時の危険に対応できない」
「あら?転移できないなんて言ってないわ。あちこちにいろんな知らないことが落ちているかもしれないし、急がなければならない理由がないからしないだけなの。
転移魔法は使えるわ。魔女は自然の行動と逆らう行為が嫌いなのよ。だって魔法そのものが自然なものを使うのに行動が不自然なのは噛み合わないでしょう?」
「そうやって君はもっともらしいことをいう。君は聖女のことを気にしているようだけど、本当にクラリスのことは今は何も思ってない」
「な、何度も言ってるでしょ。ヤキモチじゃないって!」
私は真っ赤になって反論する。
だが、そこで動きを止めた。
杖が...使い魔の杖が暴れている。
手から杖を出すと、使い魔の猫からの連絡だった。




