49 魔女の恋は副作用つき
「どうしよう...うーん」
私が一生懸命、痛み止めや、湿布、睡眠薬などの一般薬のベースになるものを作りながら悩む。
「まだ、俺と魔力を混ぜるかどうか悩んでいるのか?」
先ほどの魔力混合の話は一旦保留にした。
髪のことも気にしてくれているのはわかるが、覚悟の対価だし、命を思えば軽い。
ルシアンは、新しい薬草を摘んできて、心配そうに声をかける。
わたしの採取を長く見てきたから大体の薬草はわかると言っていたが、たしかに間違えることなく、摘み方まで丁寧だ。
「いえ、魔力混合の話は一旦棚上げで、今は北部で販売する薬を考えてました。一般薬以外にも、魔女の秘薬もあるのですが...やっぱり取り扱いが難しいですし」
「なんの薬だ?」
「夜のお薬系から、寝なくても良くなる薬、頭が冴え渡る薬とか各種色々です」
ルシアンは無言になる。
「そんな恐ろしい薬、よくヴァネッサ王妃は使わなかったな」
「夜のお薬系は使おうとしたらルシアン様に阻止されたと、お母様が言っておられましたけど...」
恥ずかしいとか私は思うけど、お父様もお母様もそんな感じもなさそうだった。むしろ、ルシアン様の方が、真っ赤になって怒ってた気がする。
「あれは違う!寝所が、突然強い魔力を放てば確認に行くだろう!」
思い出しただけでも嫌そうな顔をしたので、さすがに修羅場だったのだろう。
「その場でお薬を作って、お父様に飲ませようとしたと以前聞いていたのですが...不仲だったから媚薬でも盛ってたんでしょうか?」
「知らん。魔女の妻が夫のために寝所で使う薬なんて一つだっていってたけどな。王はベッドで素っ裸だったが...」
ルシアンは遠い目をして、私は納得いかなくて首を傾げる。
不仲だったなら、私なら、一瞬で眠りに落ちる強力な睡眠薬を作りそうだけどな。
「他国の貴族の方は、結構媚薬や心を奪われるようなお薬を求める方は多いらしいですよ。
魔女通信に、一攫千金のチャンス!!って記事がでてました。作る魔女も多いそうなのですが、副作用やその後のトラブルも多いので注意だそうです。でも、私は王族なので売ったことがないんです」
「魔女通信!そんなもんがあるのか?だが、人心を変えるような危ないもの売ってはだめだろう」
ルシアンからすれば、そんなものが出歩けば自分の仕事が増えると渋い顔になる。
「でも、売れないと作らないでしょう。作らないとその薬は廃れますし、他の国から入ってきた時には解毒剤も作れません。ただ、費用もかかるし、手間もかかるし。とはいえ、せっかく外に出る機会があるので材料を集めようかなと思いまして...」
私はため息をついた。
難しい薬ほど使って練習しないといけないが、そんな薬ほど副作用も効果も大きくトラブルになる。
売ることもできない、使うこともない薬を作るのは心が折れる作業だ。
「作ったことがあるのか?」
「もちろん作りました。それこそ過去ルシアン様の前で何度も使ってたんじゃないかしら」
えっ?という顔をするが、どんな薬であれ、魔女になれば作る練習はする。
「じゃあ、どうやって、試した?誰に試した??」
「え?蛙に試しました。人間に試したら立場的に大変ですし...おかげで、私24時間蛙に追いかけ回されてたんですから」
「そういえば、そんなこともあった気がするな」
ルシアンは明らかにほっとした顔をするが、腐っても姫だ。
それに魔女の修行中は、半人前だから薬は売ることはできない。あくまでも修行終了から一人前の魔女だ。
「流石に薬の中身までは分からないからな。蛙に飛びつかれて半泣きだったから、何が起きたんだと思っていたが...」
「そうですよ!水の中まで泳いで追いかけてくるし、空も飛びついてくるし、寝てたら潜り込むし...」
ルシアンは、
「逃げて泣き疲れて寝たから、カエルを遠くに転移させた気がする。」
と手を打って頷いた。
「ところで、魔女は土地を浄化する薬は作れないか?」
「浄化ですか?」
「北部が魔獣が増えているらしいが、原因になる瘴気が増えている可能性があるんだ。だが、クラリスが王妃になっただろう。元々、他の聖女たちとうまく行ってなかったから、浄化を聖女隊に頼むとなるとトラブルに発展しそうだと思ってな」
「浄化ですか...したことはないですね。スポット的に、効く薬は作れるかもしれませんが、面積は小さそうです」
瘴気は怖いとは知っているが、見たことも体験したこともない。
ただ、ルシアンとクラリス王妃は、瘴気も見たことがあるし、きっと、聖女隊と魔術師団の中で二人は討伐や浄化をしてきたのだろう。
勝手に胸がもやもやする。
少し今朝キスしたぐらいで、ヤキモチなんておかしいのはわかってる
いや、妻だからちょっとぐらいやきもち焼いてもいいのかしら?
これが好きの始まりーーなんだろうか....
「怪しい薬ばかりで役に立つ薬は作れないなんて...魔女ってなんのために存在してるんでしょうね」
聖女は尊ばれるのに、同じ魔力を持ってヒールもできるのに、魔女は嫌われる。
浄化が出来れば私も母も、みんなに好かれる存在でいられたのだろうか?
薬を作りながら、地味に落ち込んでいく私をルシアンは後ろから抱きしめた、
「俺にとっては君が魔女だから出会えた特別な存在だ。それに、君とヴァネッサ王妃には戦ったら敵わない。魔術は便利だが、やはり魔法に比べると作りものだと実感する。君は、俺たちみたいな作り物の魔法使いじゃなくて、生まれ持っての魔法使いなんだから自信を持て」
私は、クラリス王妃にやきもち焼いていたとはいえず、無言で頷く。妻だけど、恋愛2日目なのだ。ヤキモチやきは、面倒だろう。
でも...
ちらっとルシアンを見る
「もし、私がクラリス王妃にヤキモチを焼いたとしたらどうしますか...」
背中のルシアンが無言になる。
ちょっと考えている。言わない方がよかっただろうか?
「もし...だよな。もしやきもち妬いてくれたら...襲う」
「それは却下です」
私は耳まで赤くなる。
どんな答えを私は待ち望んでいたんだか...恥ずかしい。
「でも...」
ルシアンが後ろから抱きしめながら考える動作をする。
「で...でもなんでしょうか?」
なんとなく期待を込めて聞いてみる。
「うーん、どの部分がヤキモチになりそうなのか想定できないからなんともいえないけど、できるだけヤキモチを妬いてもらえるようにたくさんスキンシップをとるかもな」
そう言って、そのまま今朝と同じように唇を軽く当てた。
これは...軽いやつだ。
瞬時にがっかりしたことに気づいて、私は真っ赤になる。
あの深い口づけを知ってしまったら、軽いやつはがっかりの対象になるなんて。
(私はもしかして、もしかしなくても痴女になったかもしれません!!)
心の中で、私は叫び声を上げた。




