表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才魔術師団長は天才魔女姫を壊せない  作者: かんあずき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/63

44 魔女の森と、甘い衝動

「では、いってくるよ」


ラベンダーは、俺が出ていかないと眠らないだろう。

家の前で小さく手を振る姿を見た瞬間、胸の奥がじわりと熱くなる。

苦しいほど愛しい。

切ないほど手放したくない。

帰ればまた会える。

でも、森がまた受け入れないかもしれない。


頭の中で離れたくない気持ちが膨らんでいく。


気づけば、俺は衝動のまま――ラベンダーを抱き寄せていた。


「へっ──!?」


細い肩が腕の中でピタリと固まる。

驚きと戸惑いと、少しだけ熱を含んだ気配。


予想外だったのは、彼女だけじゃない。

抱き締めた自分も、その反応で、胸に強い衝撃が走った。


(ま、まずい……)


完全にフリーズしているラベンダーを前に、

“やってしまった”理性と、“このまま離したくない”本能が

脳内で激しい綱引きを始める。


「あ……その……」


言葉が出ない。

ラベンダーも、なにも言わない。


「……」


気まずい。

沈黙なのに、心臓の音だけが妙に大きくなる。


「……い、いってきます」


やっと絞り出した声は情けないほど震えていた。


「……はい……」


ラベンダーも、耳が真っ赤で顔はカチカチに固まって小さな声で返す。その罪悪感に、耐えきれず、俺はそのまま転移で飛んだ。


(は、早すぎたか……!?)


飛びながら頭を抱える俺だが、

胸の奥にはまだ、さっき抱いた温もりが残っていた。


◇◇◇


魔術師団は24時間営業なので、夜間であっても動き回っている。

昨日の決裁は全て終わらせたのに、もう新しい箱には、次の討伐先の許可を求める書類がたくさん溜まっていた。


「最近北部の魔獣発生率が高いな」


瘴気が溜まり始めると、魔獣が増える。

そうなると、聖女が何十人かで部隊を組みみんなで浄化をはじめるのだ。


「だが、クラリスが王妃となると一悶着ありそうだ」


俺は考えなくてもわかりそうな今後のトラブルを考えて、眉間の皺をさらに深くした。

聖女の中でも落ちこぼれだった彼女は、先輩聖女たちからの指導をいじめと捉えていた。

かつては、それを間に受けていたが、よくよく調べてみると、必要な訓練をさぼり、嫌な危ない仕事は後輩聖女に押し付け、空いた時間は、俺や目星をつけたもの、最終的には王子たちと過ごす時間に充てていた。


俺も、それに気づかなかった責任があるんだが....


「北部の視察がいるか...そういえば...」


北部にはかつて俺のことを気にしてくれていた若かりし頃に魔術師団長をしていたラスカルが、領地を継ぐことになり戻っていた。

俺はラスカルと自分の会話を思い出していた。


ーーー


「クラリスと交際!そうか、うん、ラベンダー姫はもう表舞台には出てくるのは少し難しそうだし、お前にとっても色んな人との付き合いを広げる良いチャンスだ」

「はい、ありがとうございます。」


俺はクラリスと付き合うことを、魔術師団長に告げていた。


「魔術師と聖女は相性もいいんだ。魔獣を退治するのが我々で、聖女たちはその土地を浄化してくれる。将来が楽しみだよ」

「団長は固定した方とのお付き合いは?」

「俺か?俺は、付き合っていた女性が亡くなってからは、もう結婚しないと決めたんだよ。それはそれで一途でいいだろ?」


そう、豪快にがははははと笑っていた。

当時クラリスの悪評を知っていたんだろうに、否定的なことは何も言わなかった。


今回ラベンダーとの結婚はどんな反応をするだろうか?

ラスカルが団長だった時は、王もヴァネッサ王妃も一目置いていたし、ラスカルも、ヴァネッサやラベンダーの凄さを理解していた。

だが、個人としては魔女の二人をどう思っていたのかはわからない。



ラスカルは結婚はしなかったらしく、死後は弟の子供に譲るということだった。彼なら、自分の領地や周辺の瘴気の状況も把握しているかもしれない。

王のことやヴァネッサ王妃のことも相談したいし、ラベンダーとの結婚報告もしておくか。


あと...結婚したばかりだから、新婚旅行だと言って少し休みを取ってやろう。

王が望んだ関係なんだから、国内で俺たちが新婚旅行していたって何も言わないだろう。


そして、王子や王妃、そしてクラリスの相手は、しばらく副団長のグレイとミハエルに頼んでおこう。

何かあれば、すぐ伝達をお願いしたらいい。

俺はグレイとミハエルの部屋に依頼文書を送っておいた。


(夜明けが過ぎたら俺はすぐ森に帰って、ラベンダーと卵と牛乳をとりに行かないといけない)


一緒に行く必要はないのに、勝手に行かなければいけないと脳内変換されている。

俺は週間予定表に、2週間の「北部領土視察と討伐」「結婚休暇」と書いて、北部決裁以外は副団長にと全団員に連絡を残しておいた。



朝になって、それぞれぐらいとミハエルは、その伝言を受け取る。


「せっかくの新婚旅行なのに、なんで視察も兼ねてるんだよ!!あいつ離婚されるぞ」


ルシアンからの伝言にグレイは肩をすくめて、笑うしかない。


「いや、結婚休暇なんて、よっぽどラベンダー姫にぞっこんだったんだな。何がしたくないのにする結婚だよ。どんな姫なんだろう。会いたいな」


同じく笑いながらミハエルも微笑むのだった


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ