43 魔女の森で気づく想い
見守るだけでもいいからと思っていたのにーー
俺ーールシアンは干し草ベッドの中でうとうとしていた。
これが...魔女の森か。
魔女でなくても、この地の清浄さはわかる。
そして初めて妖精の姿を目にして、会話して、彼女の世界が見えてきた。
彼女を作り上げてきた世界は、どこまでも清らかで純粋だ。
ラベンダーの本質そのものの優しさがある。悪意というものをもつものがこの世界にはいないのだ。
だから彼女もこの森のような人物になったのだろう。
「しかし...子供の頃からかわらないな。それだけに危ういのは相変わらずだ。」
俺はふーっと深いため息をつきながら、起き上がり、彼女を探す。
楽しい歌声も、純粋な心もーーいろいろなやらかしも、かつてと変わらない。だが、子供を通り過ぎて、大人になった今、このままではいけないんだろうな。
机に突っ伏して眠っているラベンダーがいた。浮遊の魔法陣がたくさん描かれている。
「練習していたのか...王子と本当に兄妹か?」
今日は少し褒めるとすごく嬉しそうにしていたなーー
俺は少し、今日の様子を思い浮かべて自然と溢れる笑みを隠しきれなかった。
それに比べてーー
いや、これこそラベンダーが受けてきたことで、王子とあまり比べてはいけないが、王子は褒められて当たり前な性格だった。あまりに厳しいというから、褒めるところを無理にでも探して、褒めたものだが...
姫っていうのは、もう少し愛されて可愛がられるもんじゃないのか?
ラベンダーはあまり褒められて育ったように見えないんだが。
だから、自分の能力の凄さがわかってない。
(ん??ってことは...これから褒めると魔術は伸びるタイプか?)
魔法陣もいくつか直しがしたいが...目覚めて赤字で直されてたら、しょんぼりしてしまうか?
うむ...ここで嫌われるわけには...我慢しよう。
「ラベンダー、俺の奥さんになってくれてありがとう。俺も君から愛されるように、努力するからね」
ラベンダーを抱き上げようとすると、
「ん??ああ!時間ですね」
と慌てて立ちあがろうとする。
「君が抱き上げても寝たままで過ごせるには、一度睡眠魔法をかけて運んだほうが良さそうだな」
「何言ってるんですか。スープを飲んでいくまでが約束だったじゃないですか」
作ってくれたスープを温め直して、湯気がたった状態を注いで机に置いてくれる。パンも焼きたてだった。
「しまった。パンを焼く歌を聴き損ねた」
「聴き損ねたままでいてください」
ラベンダーは絶対聴かれたくないと言わんばかりに、眉間に皺を寄せた。
その様子を見て、笑いながら口にすると、おまじないぐらいの微かな疲労回復効果が入った優しいスープが、胃にスルスルと流れて、体に染み渡っていく。
「優しい味だな。確かに疲れが取れる」
「薬効を入れる時もあるんですけど、そうなると苦味が出ちゃうから、ほんの少し気持ち程度というのが一番効果がある感じなんですよね」
俺は、なるほどなと納得する。
「ここは、手紙は飛ばせるのか?」
「飛ばせますよ。数日前なんて、母が蚊を使い魔にして送ってきました。蚊ですから対価は命数秒でしょうね」
「使い魔に蚊っているんだな。」
「わたしも驚きました。しかも、飛び続けるために、わたしの血から魔力を吸うので痒いったら痒いったら」
ラベンダーは、思いっきり肩をすくめて嫌そうな顔をしていた。
「大丈夫、普通の手紙だ。もし、この森に入れてもらえなかったら、手紙を送る。そうなったら、入り口で入れてもらえるまで叫ぶから大樹に交渉してくれ。」
「いいですけど...少し発想がお父様に似てます。国を出ていくなら、森を燃やして切ってやるってアレです」
「やめてくれ!俺はそんなことしない」
焦る俺を見てラベンダーは笑い転げていた。




