42 わら草ベッドと甘い眠り
「足が思った以上にカクカクだわ」
ベッドに下ろしてもらったら、足が立ち上がったばかりの子鹿になっている自分に苦笑した。
「多分、変に力が入っているからだ。でも、今日の様子だと毎日少しでも浮き上がる練習をしていたら変わるはずだ。」
「おなじ浮遊なのに...」
一日が濃厚すぎる。
朝、水に潜ったところから始まり、シルフィの報告、ルシアンの登場からの恋愛開始のからの魔術訓練...
「濃厚だわ。ルシアン様は眠くないの?昨日寝てないのよね」
よく見れば、ルシアンの目の下には疲れが見える。
話だけ聞くと一睡もしていないはずだし、わたしよりも疲れているはずだ。
「眠たくないと言えば嘘になるが、数日寝ないのはよくあることだ」
「よくあるからって、寝ないのはダメよ。そこのベッド使ってちょうだい。森ではお野菜ばかりなの。今夜は、お野菜のスープとパンでいいかしら?明日は、卵や牛乳を探してくるわ」
「すまない。明日からは食料の確保を手伝う」
「ありがとう。」
わたしはルシアンと一緒にベッドに腰掛けた。
そういえば...ルシアン様の寝床どうしよう。
わら草ベッドってわけにはいかないわよね。
「あの...わたしはこのわら草ベッドが好きなの。なんか太陽の香りもするし...だけど、二人でこのわら草に潜るわけにはいかないじゃない?寝床どうする?」
「寝ておいたらいい。君が寝ている間に仕事を片付けてくる。ただ、次に森に入ることがスムーズにできるか不安だが...見守るだけと言う約束を破ってしまったから。君からも大樹に俺が明日も森に入れるように伝えてもらえるだろうか?」
ルシアンは不安そうにもじもじと話す。
先ほどまでの鬼教官はどうしたの?とつっこみたいが、その前に...
「あの、ルシアン様、わたしと恋愛をというのは、数日だけの関係のつもりでしょうか?」
「そんなわけない。これから時間をかけて、お互いを知って、そのまま夫婦でよかったと思えれば...」
「で?いつ寝るんでしょう?日中、わたしと過ごして、夜仕事に戻るのは無理です」
「だが...そばにいたいんだ。昨日みたいにいなくなるのは...困る」
「....今後なのですが、わたしは父の両親と、母のことを調べるつもりです。なので、どちらにしても城下や他の街を出入りすると思います。ずっとは無理ですよ」
「無理じゃない。転移すれば一瞬で行ける。だから君のそばに日中はいる」
ルシアンは必死にわたしから離れないと訴える。
(ほんとうに必死。今まで魔女なんて嫌がられたことしかなかったし、こんなにも自分が求められたことなんてなかったからどう答えたらいいか迷ってしまう)
うーん...
「じゃあ、夕方から深夜まで、最低でも6時間は眠ってください。そうしないと、大樹様に一緒にいるようには伝えられません」
「ねる!絶対寝る」
「で、必ずわたしの作ったご飯を食べてからお仕事に行ってください。疲労回復の魔法を加えておきます」
ルシアンはコクコク頷く。
「じゃあ、横になって」
ルシアンは大きく頷く。
まるで、聞き分けのいい大きな子どもみたい。
ルシアンはわら草ベッドに横になると、わたしは杖を出してわら草ベッドに魔法をかける。
わら草はふわふわと浮かび上がると、太陽の香りを放ちながら、ルシアンの体にかかり顔以外を完全に覆い隠した。
「おやすみなさい」
「おやすみ。あの...明日もそばにいてくれるか?」
「ちゃんと、眠ったらね」
ルシアンは頷いた。そして、疲れもピークだったのか、そのまま目を閉じて眠ってしまった。
「やっぱり疲れてたわよね。」
あのお父様やお母様の騒動の前から寝てないのだもの。
ご飯作りのために立ち上がる。
やっぱりガクガクだわ。
明日は筋肉痛ね
わたしは、置いていた食材と、今日朝摘んだ薬草を混ぜて、歌いながらスープを作っていく。
カタコトカタカタおいしい音が
くつくつくたくたやさしい音が
トントンコトコト響いていって
こころとからだにすみわたる ♪
今日は妖精の力は借りず、純粋な魔女の歌のスパイスだ。
いく前にこれを食べたら少しげんきになるわね
そんな様子をルシアンがわら草ベッドの中から愛おしそうに見ている視線なんて全く気づかずに...
わたしはスープ作りに精を出すのだった。




