41 恋愛だと思ったら訓練だった件
さあ、夢に見た物語のような楽しい日々が始まる!!
そうわくわくしたのだけど...
「あの?わたしどうして魔術の練習を?」
大樹の前に、ルシアンは姿を現しても追い出されなかったことへのお礼を述べた後、風の妖精たちには精霊を使う練習の必要性をよく言い聞かせる。
そして、風の精霊に命令を入れ込んだ魔術陣を足元に高さ10センチ。
予想外のわたしの特訓は始まったのだ。
恋愛を一緒に...といわれて、今まだ一時間なのですが...
わたしはへっぴり越しの、氷の上で初めて歩く人のような格好で10センチの高さであわあわと浮き続ける。
「なぜって?わたしは、訓練をしたいとずっといっていたはずだが」
「確かに言ったわ。でも、たしか恋愛をする延長上の話じゃなかったかしら?」
「違う、訓練の延長上に恋愛と結婚があるんだ」
「そ....うだったの。わたし早とちりしていたみたいね」
わたしが必死に転倒しないように浮き上がる横で、ルシアンは、大樹が落としてくれた枝をかき集め、糸の妖精が作ってくれた縄で縛りつけながら、箒を作成している。
つるっと滑って転びそうになると、支えてくれてほんと数秒甘いと勘違いする時間が流れたら、真っ直ぐ立て直されて、再びあわあわ踊りが始まるのである。
「箒がないからと言って、いい歳をした女性が裸で冷たい水の中に飛び込むのは間違いだろう。わたしからしたら、箒にまたがって飛ぶ方がよほど難しいが...」
ルシアンが立ち上がっても、まだルシアンの方が目線が上だ。そのぐらいしか浮き上がってないのに、不安定この上ない。
「自分の身を守るためにも認識阻害と防御は最低限身につけてほしい。君は、焚き火をするといつも眠ってしまうだろう。あれも危険だ」
「ルシアン様、それなら飛ぶのは諦めて、認識だけにしたらどうかしら?それなら、水の中に飛び込んだ後裸でも、認識阻害をかけとけばなんとかなりそうよ」
「風邪をひくじゃないか。そして、認識阻害を見破れる魔術師に出会ったら、素っ裸をまた見られるだろう。どれだけ私が君の裸を見せられたと思ってる?」
「見せられたって、ルシアン様の中で痴女すぎません?見せたんじゃなくて勝手に見たくせに!」
「勝手にって...まあ、了承はもらってないが」
「了承してくれって言ってもしませんけどね」
「それじゃ、護衛はできないじゃないか」
「ルシアン様に助けられたのは事実ですけど、一歩間違えたらストーカー案件ですよ」
ルシアンは、箒を2本作り上げて、立ち上がる。
「文句を言いながら浮き上がれるようになってきたみたいだ。箒はできた。二本あるから、一本は壊れた時用に空間バッグにいれておいたらいい」
「二本はうれしいわ。早速箒で飛んでみたいのだけど」
「浮遊魔術が安定したらな。王子よりセンスはあると思うぞ。初日でこれだけ安定して浮き上がれるならたいしたものだ」
「そ、そうかしら」
わたしはぱあっと笑顔になる。
魔法の練習で母に褒められたことはない。
センスあると言われた!
それはそれで嬉しい。
そんなわたしの様子を見て微笑み、ルシアンはだんだん近づいてくる。
「ルシアン様、近すぎません?」
ルシアンの腕はわたしの腰に回っている。
わたしは飛ぶことに意識がいって何もできない。
何もできないわたしの体を抱きしめるーー
これは...世に言う恋人リア充!!
顔の近さなんて、距離にして10センチ。
浮いてる高さと変わらない
これは...この後にくるのは..初キッス.....
ドキドキする。
まだ早すぎじゃないかしら。
だって、交際スタート1時間
お付き合い0日婚ならあり??
いや、その前に昨日夫婦になったんだからあり?
「ラベンダー、しっかり俺の目を見て。」
「は、はい。」
「そう、そのままずっと目を見て、下は見ない。」
「はい、下をみると...やりづらいかもしれません」
「そうだ。君はそのまま、俺にまかしておいたらいい」
「は...はい」
思わず体が震える。
でも、視線は逸らさず...
だんだん、だんだん、彼の体の重みが伝わってきて...
ん??
んん?
「今、俺が支えているが1メートルまで浮遊したぞ」
「へ??」
視線を逸らして、下をそーっとみる
浮いてる、うわっ!きゃっ!
「だから、視線は俺をみろと言っただろう。下を見ると下に落ちる。君だって箒で跨る時に下を見て飛ぶと下に落ちるだろう」
「あ、ああ、確かにそうですね」
あわてて体勢が崩れたため足元の魔法陣がなくなり、ルシアンに抱き抱えられた状態になっている。
そのまま、地面にゆっくりおろされると、へなへなと地面に座り込んだ。
「どうした?歩けなくなるほど力を使ったのか?」
ルシアンは目を丸くする。
いえ、勝手に勝手な想像をしただけです。
誰も悪くはないわ...
「ほら、今夜は座学だけにしよう。家に戻るぞ」
ルシアンはおんぶをする姿勢をとる
「大丈夫です。おんぶなんて恥ずかしい」
「誰が見るんだ。妖精しかいない。ほら」
恥ずかしくて顔から火が出そう。
まさか、キスするかもと思ったら、違っていて力が抜けたなんて言えるわけもない。
そろそろと背中に乗っかると、箒を浮かせながら運び、私は背負って歩き始める。
もしかして...私も浮かせて運ぶことが出来るんじゃないのかしら?
そう思ったけど、肌に伝わる暖かさと気持ちの良い揺れに、わたしは身を委ねていた。




