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天才魔術師団長は天才魔女姫を壊せない  作者: かんあずき


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40 真っ直ぐな想いに触れて

「えーっ!いや、なんで言ったらいいのか...それは」


ルシアンからクラリスとの今までの経過を聞き、わたしは絶句していた。

一人の女性が、ルシアンだけでなく、兄二人とも関係を持ち、更に父の後妻になるとはーー


「聖女って人気あるのね。魔女とは違うわ。」

「いや、その行動の段階で、聖女のイメージと程遠いだろう」


ルシアンはわたしの反応を聞いて苦笑する


「王子たちは、俺とクラリスが今も交際中だとは知らずに関係を持ったようだったけどな。そこに加えて君の兄たちは問題ばかり起こすからもう嫌になって辞表を提出したわけだ。

ただ、その頃には、クラリスは王子たちともすでに別れたと聞いていたから、まさかまたリチャード王子と関係を持っているとは思わなかった」


世の中には、すごい方もいるもんだ。

その一つの恋愛すらわたしはしたことがなくて羨ましいのに...

でもそんな人と...並んで立つのはいやだな。

母の時と同じで、比べられて落ち込んでしまう未来が見える。


「あ、あの...わたし王家主催のパーティーには行きたくないかも...」


家族なので呼ばれる場面もあるはずだ。

だが、気持ちが重い。


「どうしても王が圧力をかけてくる時には、俺一人で行く。そんな雰囲気の中で、これ以上君が傷つく必要はない」


ルシアンは当然とばかりに頷くし、そういってもらえてわたしも気持ちが軽くなる。

だが、それではルシアンがパートナーがおらず、嫌な思いをするだろう。


それに、胸の奥も、もやもやとした。

父も兄も、そして形だけとはいえ夫のルシアンも、みんな彼女の虜になったと思うと――。


なんでだろう。

ルシアンの誠実さが、政略ではなく純粋にクラリスへ向けられていたと知って、胸が少し痛む。


「あの...そのための使い魔ですから使ってもらったら...」


「ダメだ!仮払いもちゃんと返してもらおう。俺は、君の髪の毛も、すごく後悔しかないのに」


ルシアンは、とんでもないとばかりに首を振り、悔しそうにいう。


「たしかに、使い魔にこの森の紹介状を書いてもらった。だけど、今回のことで、俺は君の髪を短くしてしまって一生後悔すると思う」

「でも、髪は...また生えますから」

「まだ更に仮払いで渡しているときいた。その対価はなんだ?」


ルシアンが心配そうに尋ねる。


「ああ…とりあえず一年分の命です。出来高払いなので、今後どのくらい取られるかは内容次第で……」


言い終える前に、ルシアンが肩をつかんだ。

シルフィーたちが慌てて飛び回る。


「けんか?」「おこる?」「怒ってる?」と口々に言い始め、最後は合唱になる。

ルシアンは、はっとしたように手を離し、「ごめん」と沈んだ声で言う。


「どうしてだ……? そこまで俺と過ごすのが嫌だったのか?」


そんなわけない。

ルシアンの苦しげな表情に思わず首を振った。


「違います。わたし、早く自分のお金で自立できるように先立つものを作りたかったんです。それに、お父様の行動も気になって調べたくて...あと...聞く気はなかったのですが、ルシアン様はわたしと結婚したくないのに、王命で仕方なく、って聞きましたから。なら早く解消して自由にして差し上げたいと」


「二人と話していた時のことか?あれは違う! 本心じゃない。信じてくれ」


ルシアンが焦ったように声を上げる。


「なんであんな、君を傷つけることを言ってしまったのか。クラリスのことで動揺していたのは認める。でも…護衛を外されからも、ずっと君のことを気にしていた。あまりに君を忘れないから、周囲が心配してクラリスを紹介したぐらい、君のことが頭から離れなかったのに、いざ守れると思ったらどうしてあんなことを...」


「ルシアン様、そんな罪悪感を抱かなくていいんです。もしそれが理由で結婚を続けようとしているなら、やはり結婚を解消する方法を二人で探しましょう。わたし、お父様のこと、やっぱりおかしいと思ってるんです。あんなふうになってしまった理由が、どこかにあるかもしれません」


“わたしを守れなかったから”という後ろ向きな理由で、彼が縛られてほしくない。

そう思って告げたのに――


「最初は罪悪感だったかもしれない。けれど、もう違う。

何度も言うように、君の指導も結婚も、自分が望んだから辞表を取り下げたんだ。

そして……君がいなくなって気づいた。俺は、君と付き合っていきたい。王の命令が馴れ初めでもいい。普通に、“恋人”として俺を見てほしい。後悔させない。頼む」


手がそっと触れてくる。

胸が跳ねた。


恋なんて知らない。

でも、こんなふうに真っ直ぐ求められるのは――初めてだ。

だが、残念なことにわたしは恋愛どころか人と付き合う経験がない。


「つ、付き合ったら……嫌になった時、優しく振ってくれますか? 恋愛したことがないから…」


「振らない。絶対に」


「えっ、で、でも困りませんか? 別れたくなったらどうするんですか?」


「何年君を護衛したと思ってる? 今でもこんなに幸せなんだ。振るわけがない」


ルシアンは肩に手を添え、真っ直ぐわたしを見つめた。


「後悔させない。恋愛対象として俺を見てほしい」


その言葉に、胸の奥で小さく灯っていた“恋をしてみたい”という願いが、一気に燃え上がる。


「れ、恋愛してみたいんです。一度くらい経験してみたい。それを……夫になったルシアン様にお願いしても、いいんでしょうか?」


「問題ない。むしろ俺以外が相手の方が問題だろう」


「たしかに……不倫になっちゃいますもんね。で、では……お願いします」


胸が苦しくて、でも嬉しいような、わくわくするような...

初めての感情が溢れ出し、鼓動が止まらない。




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