38 癒しの歌と、ほどける誤解
あんなに長かった家から滝までの道のりは、気まずい雰囲気で歩くとあっという間だった。
「箒...つくるから。どんなのがいい?」
「先に傷の手当てです。いつここに?」
しょんぼり怒られた子犬のようなルシアンを今まで見たこともない。箒よりも、傷の手当てを優先したいと言った気持ちに、悪意はない。
ただ、もしかして寝顔も見られていたのだろうか?とちょっと気になる。
「夜から森の入り口にいたんだけど、入れたのは今朝君がカゴに薬草を摘んでいた時かな」
ルシアンは気まずそうに話した。
傷も、破れた服も、森に入る試練だったようで、自分では治せないという。
私は急いで、ドライアドの杖でヒールを呟く。
すると、するすると傷は消えた。
「君が許すならいいらしい」
ルシアンはつぶやいて傷があったところや、服が裂けたところを見ている。
わたしもじっと顔の傷があったところを見つめていると、思わず目が合いぱっと二人で顔を背けてしまう。
「とりあえず、脱いでください。すぐ糸の妖精に直してもらいますし、汚れも落としてしまいますので」
「いや、いい!服はこれだけだし...」
ルシアンはぶんぶん首を振る。
「何言ってるんですか?わたしは裸を見られて、自分は私に見られたくないとでも?安心してください、わたしは痴女じゃありません。脱いだらちゃんと毛布にくるまっておいてください。その間にご飯作りますから。」
昨日からいたということは、何も食べてない。
服もボロボロだし、予想外にルシアン様は手がかかる。
「昨日の夜、パンを焼いたんでその残りと、これから甘いお茶を淹れるので出来れば耳を塞いでてください。」
わたしは、服を渋々脱ぐルシアンを見ないようにして、癒しの妖精たちを呼んで魔女のお茶を作り始める。
ぐっつぐっつわかして
しっかり煮出して
癒しの効果を
ふんわりふんわり
一口のんだら、明日は天国
飲めなかったら明日は雨 ♪
癒しの妖精たちは先ほどのクッキーもあって、更にもらえるならといっそう拳を握り締め、声高らかに一緒に歌い上げる。
「できた!火の妖精、昨日のパンを焼いて」
わたしは、妖精たちが飲めるように広いお皿に紅茶をいれて、横にクッキーを添えた。
「残りはシルフィーのぶんだからね」
妖精たちは、差し出されたクッキーをもぐもぐたべている。
ルシアン様もクッキーを添えとこうかな?
パンとクッキーと甘い紅茶をトレイに載せて振り返ると腰だけ毛布を巻いたルシアンがいて、思わず視線を逸らす。
「こ、これ。食べてください」
「ありがとう。昔君が作っているのを見ていた時に、どんな味がするんだろうかと思っていたんだ。」
ルシアンはパンをちぎり口に入れるが、その所作ですら姫の自分より美しい。
「美味しい。今歌を聴いていて思ったんだが、歌詞にはレパートリーがあるんだな。このお茶を飲まなかったら明日は雨なのか?」
ルシアンはくすっと笑いながらゆっくり、カップを手にする。
「耳、塞いどいてくださいっていったじゃないですか」
「どうして?聴いていると幸せな気持ちになれるが...妖精も君も楽しそうだ。」
「そ、そういうのは....お願いです。言われ慣れてないんです。どう反応したらいいかわからなくなりますから」
ルシアンは、そうか...と呟き、再び一口飲んで美味しいと呟いた。
「わたしも言い慣れていない。だが、これは本当に美味しいし、こうやってそばで過ごせるのは幸せだというのは本心だ。」
「嘘です。貴族の人も、あなたもさらっと言うじゃないですか。本心なんて...わかりません」
ルシアンは、ため息をつきながら「そうだな」と頷いた。
「俺は君を知っているけど、君は俺を知らない。だから、時間をもらえないか?俺を自由にしないでほしい。君の夫でいたいんだ。それでも、要らないと言われたら...君の視界に入らない努力はする。見守りだけ許してほしい」
私は、今までの人生にないアプローチに頭がこんがらがる。
だめだ、顔が熱い。
この人、なんでそんな真面目な顔でそんなこと言うの…!
「き、今日みたいなのならそばにいる方がいいです!迂闊に脱げないじゃないですか!!」
私は悲鳴をあげた




