37 魔女の森に甘い風
ふと目が覚めると...目の前は火の妖精がキャンプファイアーをしていて...
「寝ちゃってわ!あれ?寒かったからかな?服着た記憶すら抜け落ちてるわ」
髪はほとんどないし、服は脱いで入ったから濡れていない。寝ている間の記憶はないが、体はぽかぽかだった。
「急がなきゃ!シルフィ帰ってきちゃうわ」
立ち上がると相変わらず、結婚印がチリチリする。
肌荒れ??
契約印って肌とかじゃなくて、目に見えない気がしたけど?
ふぬむっ!!
バケツを持ち上げてよたよた歩く。がすぐ地面に置く。
「魔法混ぜると良くないんだよなあ。でも、筋力落ちたみたい。うーん、魔法使って運ぼうかな?もう少し量を減らすすべきだった」
よし!気合いいれてもう一回!!
筋力勝負!気合いだ!気合いだ!気合いダァ!
ふぬむっ!
って...あれ?
さっきより圧倒的に軽い。
助かるけど...おかしくない?
「筋力アップの食材...何か...食べたっけ?」
そう呟くと、少しバケツが重くなる。
おかしい....
ちらっとバケツの横を見ると....
わたしの影の横に、もう一つ影が重なっている
わたしが、あるくと一緒に影もうごく。
しかも...わたしより背が高い。
ん??
滝壺の奥に入った。
思った以上に寒くて、焚き火をして、うとうとした...
服...着たっけ?
よーく思い出してみよう。
だってこれは、姫として大変なことよ。
わたしは....服を自分で....着てない...わ
着てないわ!!!
恐ろしくて振り向けない。
誰?この一緒にいる人...誰?
だって森よ!
森に人なんて誰も入れないはず。
そうよ。
魔女以外入れない。じゃあ、母なの?
わたしは、そっとバケツを置いた。
そして、一気に振り返り杖を突きつける
「あなた誰!!お母様なの?」
影は数歩離れた。
違う、お母様だったらわたしとそんなに背が変わらない。
「あなたは?誰?」
「....見えない...妖精...じゃダメ...か?」
「ダメです。」
わたしは思わず手を口に当てる。
その声はルシアン様だ。
じわじわと姿が現れる。
そして完全に現れた時ーー
「ルシアン様!顔も体も傷だらけじゃないですか!」
わたしは思わず叫ぶ。
ルシアンが森に入るまでにできた傷は、ルシアンの治癒魔法では治せず、綺麗な顔や体のあちこちに切り傷が出来ていた。
「姿を現さないことを条件に森に入ったから、いつ追い出されるか分からない。だから、先に伝えさせてくれ。」
今までにみたことがないルシアンの声や顔つきに、わたしはコクコク頷く。
というよりも、この森で人と出会うことなんてなかったからパニックに近い。
「すまなかった。君の優しさに甘えて酷いことばかり言った。君の兄二人に嫌気がさしたのは事実だが、それは私情も混ざっていて君とは関係のないことだ。そして、君の指導をしたいって言ったのは俺の希望だ。君を結婚相手にと言われて退職をやめたのも、俺が君と一緒に過ごせることがうれしかったからだ。それなのに、まるで自分の希望じゃないみたいに周りに振る舞って、君を傷つけた。」
ルシアンはその場に膝をつき土下座した。
「生涯かけて償いたい。君が愛想をつかすのは仕方ないし、許されないことをしたのはわかっているけど、もう一回チャンスをもらえないか?」
私は、目の前で何が起きているのか訳がわからない。
その言葉を落ち着いて...あとで考えるとしてーー
今は、先ほどのことだ。
そっちの方が衝撃が大きすぎる。
「許すも許さないもないのですが...そ、その先ほどですが...み、見ましたよね。私の!!わたしのからだ!」
ルシアンが、はっという顔をして焦ってどもる
「ち、ちがう!あれはあのままじゃ風邪ひくし、裸はいけないとおもって!極力見てない!それに、昔もこんなことはよくあった!!」
「昔と今、どれだけ《ないぺたん》で変わらないからっていっても私、もう19歳ですよ!ひどい!お嫁に行けない!」
「前は、子どもだったから、見えない妖精が手伝ってくれたんだって一人で納得してくれてたから....すまない。その、お嫁は俺のところにもう来てるから...行かないでくれるとありがたい。」
真っ赤になる私としどろもどろのルシアンとの間で再び沈黙になる。
恥ずかしいーー
昔もこんな感じだったんだ。
「い、家、こっちです。大樹様に頼んで過ごせるようにしてもらうので...王城でのことは許すけど、裸を見た件は...箒作り手伝ってくれるなら...許します」
視線をずらして、できる限りルシアンをみないようにする。
「水、もつよ。俺も魔法を使わずに、重いものを持ち上げるのは久しぶりだ」
ルシアンは私の横にある水の入ったバケツを持ち上げた。
私とルシアン様は、家の方向に二人で帰っていく。
そこには甘い香りの風が漂い始めていた




